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旧ソ連憲法評注(連載第17回)

2014-10-09 | 〆ソヴィエト憲法評注

第三編 ソ連の民族的国家構造

 ソ連憲法第三編から第七編までは、統治機構に関する長大な条文群が並ぶ。筆頭の第三編では、連邦体制の全体像が定められている。ソ連の連邦体制はアメリカのような州の連合ではなく、多民族国家の現実に合わせ、それ自身の内部に自治共和国や自治州などを蔵する民族共和国の連合―共和国連邦―という特殊な構制を採っていた。第三編では、そうした「民族的国家構造」の仕組みが示されている。

第八章 連邦国家ソ連

 第三編冒頭の第八章では、ソ連の中核を成す連邦の定義と権限が規定されている。

第七十条

1 ソヴィエト社会主義共和国連邦は、社会主義的連邦制の原則にもとづき、諸民族の自由な自決および同権のソヴィエト社会主義共和国の自由意志による統合の結果、結成された統一的な連邦的多民族国家である。

2 ソ連は、ソヴィエト人民の国家的統一を体現し、共産主義の共同建設のために、すべての民族および小民族を団結させる。

 連邦制の宣言条項であるが、第一項では民族自決と対等な連邦形成が強調されている。しかし、実際は、バルト三国のように強制併合によって編入された共和国を含んでおり、本条項は多分にしてプロパガンダ条項であった。
 第二項ではソヴィエト人民の国家的統一と共産主義建設のための民族的団結が宣言され、第一項と第二項には齟齬がある。実際の連邦運営に当たっては、第二項が指示する統合性が優先されていたことは明白であった。

第七十一条

ソヴィエト社会主義共和国連邦に、次のものが統合される。

・・省略・・

 本条は、ロシア・ソヴィエト連邦社会主義共和国を筆頭に、ソ連邦を構成する15の共和国名のリストとなっていた。

第七十二条

各連邦構成共和国には、ソ連から自由に脱退する権利がのこされる。

 第七十条で「自由意志による統合」が謳われていた手前、構成共和国の自由な脱退権が認められていたわけだが、形式的なもので、実際、ソ連が存在していた間に本条に基づいて脱退した共和国はなかった。

第七十三条

ソヴィエト社会主義共和国連邦の国家権力および行政の最高の諸機関によって代表されるソ連の管轄には、次のことが属する。

一 新共和国のソ連への加入。連邦構成共和国の一部分として新しい自治共和国および自治州をつくることの承認
二 ソ連の国境線の決定および連邦構成共和国間の境界線の変更の承認
三 共和国および地方の国家権力および行政の諸機関の組織および活動の一般原則の制定
四 ソ連の全領土における法令による規則の統一の保障ならびにソヴィエト連邦および連邦構成共和国の法令の原則の制定
五 統一的社会経済政策の実施。国の経済の指導。科学、技術の進歩の基本方向および天然資源の合理的利用と保護の一般的措置の決定。ソ連の経済的、社会的発展国家計画の作成および承認ならびにその遂行報告の承認
六 統一的なソ連国家予算の作成および承認、その執行報告の承認、統一的な貨幣制度および信用制度の指導、ソ連の国家予算の編成にあてられる租税その他の財源の制定ならびに価格および労働報酬の分野の政策の決定
七 連邦所属の国民経済部門、企業統合体および企業の指導。連邦的・共和国的所属の部門の一般的指導
八 平和および戦争の問題、主権の防衛、ソ連の国境線および領土の保護、防衛の組織ならびにソ連軍の指導
九 国家的安全の保障
十 国際関係においてソ連を代表すること、ソ連と諸外国および国際組織との交渉、連邦構成共和国と諸外国および国際組織との関係の統一的手続きの制定および調整ならびに国家独占にもとづく貿易およびその他の種類の対外経済活動
十一 ソ連憲法の遵守の監督および連邦構成共和国憲法がソ連憲法に適合することの保障
十二 全連邦的意義をもつその他の問題の解決

 連邦の権限を列挙した規定である。連邦国家では必須となる条項であるが、アメリカ憲法の対応条文と比較すると、アメリカ憲法では連邦議会の権限として列挙していたのに対し、ソ連憲法では行政的な権限として列挙している点に大きな違いがある。
 内容的にも、アメリカ憲法が連邦の権限を極力防衛を中心とした消極的なものに限定する分権型連邦制を採るのに対し、ソ連では第十二号の包括条項に見られるように、連邦権限は経済指導を含む広範な領域にわたっており、中央集権性の強い連邦制であることが特徴である。

第七十四条

ソ連の法律は、すべての連邦構成共和国の領土で同じ効力をもつ。連邦構成共和国の法律が全連邦的法律と抵触したときは、ソ連の法律が効力をもつ。

 連邦制では当然の確認的な法令効力規定である。

第七十五条

1 ソヴィエト社会主義共和国連邦の領土は単一であり、連邦構成共和国の領土をふくむ。

2 ソ連の主権は、その全領土におよぶ。

 これも連邦国家では当然の領土規定であるが、連邦領土の単一性と包括性を再確認しており、ここにも統合性を優先する発想が見え隠れする。


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