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司法取引は贅沢

2015-05-20 | 時評

安保法案の影に隠れて昨日、ひっそりと衆議院で審議入りした法案がある。刑事訴訟法等改定法案である。内容は、盗聴対象を組織犯罪から窃盗など一般刑法犯罪にも拡大すること、共犯者の情報提供と引き換えに罪を軽くする「司法取引」を導入することなどを柱とする。

中でも最大の目玉は司法取引である。従来、日本の刑事司法では司法取引のような取引的手法は正式の制度として導入されたことがなく、共犯者情報なども密室での取調べを通じて「吐かせる」手法で取得してきた。

その点で、今般改正で政府が「捜査·公判協力型協議・合意制度」なる婉曲語法で呼ぶ司法取引が導入されれば、日本の刑事司法にとっては16年前、盗聴が「通信傍受」の婉曲語法のもとに導入された時以来の大きな画期となるだろう。

海外ではアメリカを中心に司法取引を導入している国は少なくないようだが、これは基本的に被疑者の取調べに弁護人の同席が認められるなど、取調べで自白を取ることが事実上困難な制度において、「餌」を与えて自白や有力情報を引き出すテクニックとして発達してきたものである。

日本のように弁護人の同席はおろか、取調べの録音録画ですら部分的にしか認めないほど抑圧的な捜査手法を保持しながら、司法取引まで導入するのは両手に花と言うべき贅沢である。これにより、日本の検察は取調べ+取引という強大な権限を手中にすることになる。この制度は検察による冤罪事件続発を受けて「改革」を検討する中で浮上したというが、「改革」に便乗した典型的な焼け太りだ。

花はどちらか一つにすべきである。進歩的なのは、取調べという花を捨てる方向である。この場合も、司法取引が大手を振るって許されるわけではないが、他人を罪に陥れる讒言防止に慎重に配慮された制度なら、許容されるだろう。

一方、盗聴の拡大は盗聴捜査が専ら警察によって行なわれることから、警察権力の大幅な拡大につながる。盗聴は取引とは異なるが、やはり共犯関係の割り出しに効果的な場合はある。適正に実施されれば、自白偏重捜査の緩和にもつながるので、一概に反対すべきではなかろう。

しかし、今般改定法案では、従来実施上の条件となっていた通信事業者の常時立ち会いをなくすことが盛り込まれている。対象拡大と条件緩和がセットにされた強権的な改定である。もしも、そこまで盗聴の本格化を構想するならば、令状審査に際して三人の裁判官の合議制とするなど事前司法審査の強化が絶対条件とされなければならない。

それなくして、単純に盗聴捜査を際限なく拡大することは警察監視国家への道である。自衛権の大幅拡大を狙う安保法案と盗聴拡大+司法取引法案は水面下でつながっていると見てよい。両者併せて、権威主義的な国防治安国家体制へ向けた布石と読む。


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