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農民の世界歴史(連載第24回)

2016-12-26 | 〆農民の世界歴史

第三部 農地改革の攻防

第7章 ブルジョワ革命と農民

(1)英国の社会変動と農民

 世界史上初のブルジョワ革命を経験したのは17世紀イングランドであったが、その主力となったのは、ジェントリーと呼ばれる新興地主層及びヨーマンと呼ばれる解放農奴出自の小農民であった。
 イングランドでは、15世紀末ばら戦争の結果、大封建領主らが自滅的に没落していき、16世紀までに封建制はほぼ崩壊していた。この過程はフランスのような人為的革命によるのでなく、歴史の進行における社会変動によっていた。
 その結果、封建領主に代わって、おおむねその家臣級だった中小の騎士たちが台頭して、新たな在地地主階級ジェントリーを形成するようになった。他方、農奴たちは解放されて、小土地農民たるヨーマンを形成するようになった。
 また西洋封建制においてもう一つの主役であった教会に関しては、ばら戦争を止揚して成立した16世紀のテューダー朝下、国王ヘンリー8世が自ら強力に主導した宗教改革により、修道院の所領がことごとく没収され、封建領主としての教会は終焉した。
 この教会改革をヘンリーの下で実務的に主導したのが、側近トマス・クロムウェルであった。彼は農民ではないが、貧しい職人・商人の父を持ち、苦労して一代で騎士身分を獲得した立志伝中の人物である。
 トマスは、教会改革の過程で自らも旧修道院領を取得して大地主となった。彼の姉の子孫が次の世紀に清教徒革命の立役者となるオリバー・クロムウェルである。その意味で、トマス・クロムウェルこそは、ジェントリーの元祖とも言えるのであった。
 他方、ヨーマンはジェントリーの下に位置する新興小土地農民として、16世紀テューダー朝の時代には、国王軍の主力として国家にも奉仕する体制派となるが、宗教改革の過程で派生したプロテスタントの一派ピューリタン信仰の中心ともなり、スコットランド系のステュアート朝が専制化した17世紀にはジェントリーを支えて清教徒革命という宗教的形態でのブルジョワ革命を実行したのであった。
 しかし、英国では君主制護持の気風が強く、クロムウェル家二代にわたる軍事独裁型共和制は長続きせず、王政復古となり、18世紀フランス革命に際しても、英国は反革命派急先鋒であった。
 フランスが革命に揺れていた時代、すでにブルジョワ政治革命が終了していた英国は産業革命の只中にあり、ジェントリー層は資本家へと転向していく一方、ヨーマン層はおおむね賃金労働者へと転向していき、資本主義の時代を先取りしていたのである。


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