ザ・コミュニスト

連載論文&時評ブログ 

アメリカン・ファシズムへ?

2016-11-10 | 時評

8月に連載終了した『戦後ファシズム史』拙稿の末尾で、次のように書いた。

アメリカン・ファシズムとも言うべき「トランプ政権」が現実のものとなるかどうか、現実のものとなったとして、その政策綱領を修正なしに実行できるかどうかは、アメリカにおける「自由主義」の牽制力がどこまで働くかにかかっているだろう。

一般得票数で下回った候補を勝たせてしまうアメリカの古式な間接選挙制度は、そのような危うい道を用意してしまったようだ。とはいえ、労働者階級の反動化がファシズムの底流になるという歴史法則どおりの結果ではある。しかし、現時点ではタイトルに?印を入れておくのは、トランプ次期政権がアメリカン・ファシズムの性格をはっきりさせるかどうかはまだ確定しないからである。

「米国第一」「偉大な米国の復権」といった愛国主義イデオロギーに基づくムスリム入国禁止や国境の壁などの公約をそのまま、あるいは修正してもムスリムの入国審査の強化や不法滞在者の大量検挙・送還、不法入国企図者の即時射殺といった強硬策を実行するなら、アメリカン・ファシズムの道である。

その点、トランプはドイツ系移民のルーツを持ちながら、どこかピエロ的気質を備えている点では、しかつめらしいヒトラーよりはイタリア人のムッソリーニに近いと言えるかもしれない。

しかし、トランプに不信感を抱く議会共和党の圧力で公約を撤回、または実質撤回に等しいほど希釈化するならば、それでもイタリア元首相ベルルスコーニのような右派ポピュリストの政権の性格は免れないだろうが、ファシズムは際どく免れる。

いずれにせよ、オバマ→トランプという転換は唐突で一貫性がなく見えるが、必ずしもそうではない。すでに国際的なパワーとして斜陽化し、国内的にも分裂したアメリカを既成政治家の手で辛うじて現状維持するのでなく、独善的な扇動家に委ねていっそう斜陽化させ、分裂・解体を促進するという「一貫」した道が選択されたのだからである。

そのようにして米国一極体制が決定的に壊れていくのは好ましいことだが、懸念すべきは、管理ファシズムの道を行くロシアのプーチンを好感しているらしいトランプが親露政策に転換して、「露米ファシズム連携」のような奇異な国際秩序が形成されるかもしれない点である。

このような関係は欧州のネオ・ファシズムの潮流をも刺激して、欧州各国にも同様の傾向をもった管理ファシズム政権のブームを巻き起こし、すでにそうした政権がいくつもひしめくアジア・アフリカと合わせ、世界が急速にファッショ化する危険を内包している。

それは日本の前ファッショ的な右派政権にとってもさらなる躍進の推進力となると同時に、アメリカの従属的同盟国として、一つの難しい選択も迫られる。

「米国第一」のトランプ次期政権が駐留米軍縮小または撤退をちらつかせて負担増を要求することには困惑するだろうが、一方でトランプが同盟国の核武装を容認するらしいことを逆手に取れば、コアな政権支持層の隠された願望である核武装も夢ではなくなるだろう。負担増か核武装か―。見ものである。

トランプ政権の登場はコミュニストにとってはいっそう後退・閉塞を強いられるような事態に見えるが、決してそうではなく、このような反動現象は、むしろ「与えて奪え」の格言に沿った一過程とポジティブに捉えたい。


コメント    この記事についてブログを書く
« 農民の世界歴史(連載第14回) | トップ | 農民の世界歴史(連載第15回) »

コメントを投稿