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プーチン提案の「説得力」

2015-10-01 | 時評

ロシアのプーチン大統領が提起したアサド政権維持を前提としたシリア内戦の解決策は―その「深意」がどこにあるかは別としても―、客観的に見て最も説得力のあるものである。

なぜなら、「アラブの春」を経験した諸国の中でも、唯一政権が保たれているのはシリアだけであり、それは親子二代にわたるアサド家体制の強固さを裏書きするものだからである。その基盤にはアサド父子以前から半世紀以上続くバース党支配体制の根っこがある。

米欧はこうした現実を無視して、アサド=バース党体制を敵視し、これを軍事的に排除しようとしているが、これは教条主義的な態度であり、その根底には旧ソ連陣営だった社会主義体制への反感という古い冷戦思考が隠されている。

プーチン提案は、同様のバース党支配体制がイラク戦争によって排除された親米欧派のはずのイラクまでを説得し、ロシアになびかせるに至っている。

米欧は歴史的なシリアの本家バース党支配体制をイラクと同様に葬り去り、親米欧派の新体制を樹立させたうえで、未踏のシリア市場を開拓しようと狙っているのだが、反アサド派はまとまりを欠いた寄せ集めの武装勢力であり、安定政権ができる保証はなく、イラク戦争後のイラクと同様、かえって過激勢力の巣窟と化す恐れがある。

米欧もこうした事情を冷静に考慮して、プーチン提案に乗るぐらいの度量は示すべきだが、この場合、プーチン提案に欠けている大きな注文をつける必要はある。それは、アサド政権の人権状況改善や民主化努力(反政権派の議会参加)を条件に政権維持を認めることである。

元来、現在のバッシャール・アサド政権は父ハーフェズ時代の抑圧的統制を一定限度で緩和する姿勢は見せていたのであり、国際社会はこれをプッシュするような対応をすべきである。そのためにも、空爆のような軍事的手段ではなく、政権と反政権派の対話を仲介する平和的な方法が採られなければならない。

とはいえ、少なくとも米国はロシアへの対抗というこれまた旧冷戦的思考から、プーチン提案を一蹴し続けるだろう。ならば、欧州は別の道を歩むべきだが、足並みのそろわない国家もどきの欧州連合では、これも期待薄のようである。

かくして、シリア内戦の根本的な解決は望めない。大国首脳らが舌戦に明け暮れる時間だけが過ぎ、その間、内戦犠牲者と戦争難民のグラフが右肩上がりを続けるだろう。


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