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良心的裁判役拒否(連載第17回)

2012-01-14 | 〆良心的裁判役拒否

実践編:裁判役を拒否する方法を探る

第9章 超法規的に拒否する方法

(1)憲法及び条約に基づく拒否
 この章では、前章で見た合法的に裁判役を拒否する方法に対して、超法規的に拒否する方法を見ていきます。
 ただし、ここで言う「超法規的」とは「違法」という意味ではなく、裁判員法に規定のない方法によるという趣旨です。裁判員法に規定のない拒否だからといって直ちに違法となるのではなく、他のより上位の法規範に根拠を見出すことができる場合があります。その最も正攻法的なものは憲法にのっとった方法です。
 ここで、良心的拒否の究極的な根拠は憲法19条で保障された思想良心の自由にあることを再確認しておきます。ただ、これもすでに指摘したように、憲法19条の「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。」というたった一片の条文だけでは良心的拒否という実践を基礎づけるには不十分なきらいもあることから、直接に国内法的効力を持つ国際人権規約18条2項の「何人も、自ら選択する宗教又は信念を受け入れ又は有する自由を侵害するおそれのある強制を受けない。」という規定を併せて主張することで、憲法条項の限界を補うことができます。
 従って、この方法は本来「超法規的」というよりも、まさしく「合法的」な方法とみることもでき、良心的拒否の方法としても最も正攻法的なものとさえ言ってよいのですが、裁判員法は良心的拒否の規定を正面から置いていないために、結果として「超法規的」とならざるを得ないという理不尽さがあるわけです。
 問題は、この方法をどのような状況で使うかですが、まずは前章で見た合法的な各方法の可能性を検討したうえで、どうしても該当するものが見出せないとか、それらの方法によったところ成功しなかったという場合に残された方法として使ってみるのがオーソドックスではあると思われます。
 もちろん、ストレートにこの方法によってもよいのですが、その場合、逆に裁判官の側から法令に基づく「辞退」の方法を検討するように勧められる可能性もあり、そうなると初めからそうするのと同じ結果となるでしょう。
 いずれにしても、この方法を着実に実行するためには、裁判員選任手続に「出頭」し、裁判官の面前で自己の信条の内容を説明した上で、憲法及び条約にのっとって拒否したい旨を表明する必要があります。
 そうなると、やはり自己の内心事情を踏み込んで開示させられるばかりか、「超法規的」であるがゆえに法律面でも裁判官が難色を示し、受け入れてくれないおそれもあります。裁判官とちょっとした法律論争をするくらいの覚悟は必要かもしれません。そこで予め自分自身の見解をまとめた書面を準備し、裁判所に提出するといったことも有益と思われます。
 一方、裁判所の側でも、裁判員法に良心的拒否条項が置かれていないからといって、良心的拒否を一切許さないという硬直した運用に走るのではなく、裁判員法より上位の規範である憲法及び条約に基づく良心的拒否を認める運用を確立することが、まさに憲法上要求されているとものと考えます。

(2)全面的不出頭
 今まで見てきたような合法的及び超法規的方法はどれもまどろっこしいし、プライバシーも保てないとお感じの方は、端的に呼び出しに一切応じないことです。
 このような場合に裁判所側がどこまで追いすがってくるのか実態は承知していませんが、仮に電話等で問い合わせが来ても「出頭しません」の一点張りで、出頭しない理由も明かさないのです。
 通常の良心的拒否では、自己の信条を開示したうえで拒否するのですが、そうなると自己の信条を第三者、とりわけ公権力に対して明かさない自由―そうした「沈黙の自由」も思想良心の自由の重要な内容を構成します―については自ら放棄せざるを得ないことになります。それを避けるには、理由を示さない全面的不出頭という黙秘的な不服従を実行するしかありません。
 実際上、最高裁の平成22年度データによると、呼び出された裁判員候補者の選任手続期日出席率(呼出取消しの場合を除く)は約80パーセントとされており、残りの20パーセント、つまり5人に1人は不出頭を実践している計算になりますから、すでにこうした形で裁判役を拒否されている方は一定数おられるようです。
 しかし、この方法による場合、裁判所の側では果たして不出頭の理由が良心的拒否なのか、それとも単に面倒で回避したいだけなのか確認がとれないので、さしあたり正当な理由のない不出頭とみなさざるを得なくなります。そのため、この方法によるときは、例の過料の制裁を覚悟しておく必要もあります。
 そういうリスクを回避する一種の妥協策として、裁判所から呼出状が届いたら、(1)で見たように憲法及び条約に基づく良心的拒否の実践として出頭しない旨を説明した書面を裁判所宛てに郵送するといった方法もあり得ます。言わば、(1)と(2)とを組み合わせたような方法です。ここまでしておけば、裁判所側から正当な理由のない不出頭と決めつけられることはないでしょう。その代わり、やはり沈黙の自由は最小限放棄することにはなります。
 このように、裁判員制度とは進むも退くも落とし穴だらけ・・・・・のようです。


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