ザ・コミュニスト

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「財務政権」と民主主義

2011-12-11 | 時評

欧州財政危機に際して、エコノミストを首班とする財政問題に特化した政権が、ギリシャやイタリアで発足している。

こうした政権の特徴は議会の外側で財政再建のための「痛みを伴う」施策―増税+社会保障・福祉削減―に集中するところにある。イタリアでは全閣僚が公選政治家ではない内閣が現れた。

経済危機に対処する「財務政権」は、政治的危機に際してしばしば出現する「軍事政権」とは異なり、文民政権の枠内におさまってはいるものの、緊急性を口実に民主主義を飛び越えようとする点では「軍事政権」と共通した要素を持つ。

今日の財務政権が依拠しているのは、民衆ではなく、市場であることは明らかである。そういう意味でも、これは通常の政権の枠内で財政再建に取り組むのとは異質的なレジームである。

現在世界が当面している晩期資本主義の段階では、こうした市場に基盤を持つ財務政権が新たなモードとなるかもしれない。幸い、日本では憲法上、総理大臣をはじめ、内閣閣僚の過半数を国会議員から任命しなければならないため、純粋の財務政権の存立可能性はない。

とはいえ、9月に成立した野田内閣は、もともと政権与党内で「本命」視されていなかった前財務大臣の首相昇格という形で発足しており、政権の後ろ盾が財務省であることが公然の秘密となっている。財務政権ならぬ「財務省政権」。そのために、すでに消費増税をライフワークと決めたかに見える野田内閣には、一種財務政権的性格が見られるのである。

すでに一代前の管内閣で現れていたことであるが、選挙公約を事実上破棄する「税と社会保障の一体改革」なるスローガン―これが野田内閣で「社会保障と税の一体改革」にひっくり返されてもその内実は変わらない―も、そこに透かし見える真の狙いは、「増税と社会保障削減の一体改悪」ではないか。

日本のように財務省に権力が集中しがちな行政国家構造では、通常の政権の枠組みを利用しつつ、一種の財務政権が作られることもあり得るのだ。注視が必要であろう。

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