ちびずマムのマイペースな育児・料理・翻訳日記

2007年生まれの1号くんと2010年生まれの2号くんに振り回されつつ、自分の夢もなんとか追っていきたい、ちびたちのマム

ロバート・ゴダード『血の裁き』(上)(下)

2016年05月08日 | 読んだ本(日本語)
ロバート・ゴダード著、北田絵里子訳『血の裁き』

高名な外科医ハモンドが主人公。彼は離婚の危機で金銭的に苦しかったとき、
高額の報酬に惹かれて、ある人物の生体肝移植を引き受けるが、やがてその患者が
セルビア民兵組織のリーダーで現在はハーグで戦犯として裁判を受けている
男ガジだと判明する。

ハモンドは休暇でオーストリアに行こうとしていたところ、空港でガジの娘、イングリッドに
運悪く(?)出会ってしまう。彼女は過去の移植と、移植のあとハモンドの妻が殺されたことを
ネタに、ガジの元会計係(ガジの金を管理している男)を探すようハモンドを脅す。

途中で出会ったガジの元愛人といい関係になるのかと思いきや、彼女も死んでしまいます(あ、ネタバレ)。

テーマにしているのが旧ユーゴ時代の人道に対する犯罪だけあって、登場する人物が
ハモンドに語る過去は、胸がえぐられるようなものです。しかも、ガジが残虐な男であるだけに
登場人物が何人も亡くなります。

そして、信じて一緒に行動した人間に裏切られ、いったい誰を信じたらいいのか、もしかしたら
この人も悪い人間なんじゃないのか……という展開で、ハモンドは拘留施設にまで入ります。

ハモンドと一緒にだまされた私(読者)も、ハモンドが悪人というより都合よくだまされたまぬけ、のように
評されるシーンで、私もまぬけだった、と悔しくなります。

ガジがあまりに存在の大きな相手なので、ハモンドにはどうすることもできないんじゃないか、
と思うのですが、最後意外な人物が意外な過去を語って……行動を起こして終わりです。

ええっそこで終わっちゃう!?
いや、まあ終わるのもありでしょう。でも続きが気になりますが、想像にお任せ、なんでしょうか。

ハモンドが移植を成功させたことで、ガジは寿命を長らえ、数々の虐殺を行うわけですが、
最初は医者だから命を助けるのが仕事だ、と割り切ろうとしつつも罪悪感を抱く彼が、
選択の余地のない選択をしていくうちに過去の自分と対面していく、という心理描写も
見事です。


小説には、主人公がだまされていることに読者は気づいているのに、主人公が気づかないことに
やきもきする展開と、主人公と一緒にだまされちゃう展開がありますが、どっちもおもしろいですね。