次の朝。瓶詰の瓶の口を乗り越えて、泡立つ滝のような逆さ霧が山の頂から麓へと押し寄せて来る。逆さ霧は次々に湧き溢れて流れ降り、眼前に見えていた山の姿はすっぽりと覆われてしまった。濃密な霧は、街の隅ずみまで分厚く広がり、瓶の底の底にある駅のホームにいるぼくは、白く染まった濡れ風のなかに独り浮かんでいた。
いずれ列車は到着するとして、果たして乗り込むのがぼくなのか、降りて来るのがぼくなのか、それとも扉を境にお互いすれ違うことになるのか。そして、もはやホームの舗石も見分けられなくなった五里霧の向こうからは、列車の迫る震えが伝わって来る。
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