「彼等は人間の精神的利益よりも物質的利益を選ぶさもしい根性を利用して、人間を欺いて、それ無くば何ものも進歩し得ない闘争と戦争の要素を、機械に供給させるやうにしたのである。下等動物はお互に闘争するが故に進歩する。弱者が死に、強者が自分の力を育て遺伝する。機械は自分では闘争出来ないので、人間に自分等の闘争を代行させる。この仕事を適当にやつてゐる限り、人間はまづ安穏である――尠くともさう考へてゐる。併し好い機械を奨励し悪いものを破壊することによつて機械の進歩のために最善を尽くすことをやめたその瞬間から、彼は競争において後にとり残される。そしてそれは、色んな工合で不愉快にされること、悪くすると死ぬことを意味する。
「そこで現在に於いても、機械はただ奉仕を受けることを條件としてのみ奉仕する、而もまた彼等の方からつける條件である。條件が満されないとなると、彼等は暴れだして、自分自身と手の届く限りの汎ゆるものとを一しよに叩き潰してしまふか、意地悪くなつて全然働くことを拒否するかする。如何に多くの人間が現在機械から束縛された状態の下に生きてゐるか? 彼等に奴隷として結びつけられてゐる者の数と、全精神を機械の進歩に捧げてゐる者の数との増加を考へてみたならば、機械が我々を侵しつつあることは明らかではないか?
(「エレホン」 サミュエル・バトラ 山本政喜譯)