美濃屋商店〈瓶詰の古本日誌〉

呑んだくれの下郎ながら本を読めるというだけでも、古本に感謝せざるを得ない。

「掌中新辞典」といえば、この増補改刪版のほかに『タモリ倶楽部』で紹介された別バリエーションなどもある(藤村作 庄野信治)

2024年07月13日 | 瓶詰の古本

      緒 言
近来いろいろの辞書が盛んに刊行せられることは、学界のため喜ばしいことである。しかし何れも皆、それぞれ異なつた或る特殊の目的のために編まれたもので、一人で幾種類も揃へて持つて居らねば、実際に役立たないといふ有様であることは、まことに遺憾の次第である。又立派な大きな国語辞典は既に二三出版せられて居り、専門的使用には此上もない権威であるが、一般に正しい仮名遣ひのわからぬ人には、引くことが容易でないといふ不便がある。そこで此のあわただしい時代に、如何なる人にも、如何なる場合にも好適し、しかも、手ツ取り早く引けて、簡易に解りやすく、又外出にもポケツトに携帯し得るやうな辞書の必要が起る。殊に最近なんでもかでも英語で言つてみたいといふ傾向が甚だ旺んであるところから、国語辞典に英語訳を併用するといふことは、全く新時代の要求であつて、又辞書編纂の上に一大革命を齎らすべき動機であらねばならぬのである。
本書は即ち此等の要求に応じたもので、見出語はすべて、文部省國語調査會査定の新仮名遣法、即ち写音的仮名――発音通りの仮名を採用し、包容語は同調査會査定の常用漢字を中心として、和漢洋にわたり、各階級の現代人が、日常生活上に必要なる語句は勿論、各学校の教科書中の字句より、各種専門の学術語、特に文化方面に於ける新語、外来語に至るまで、出来得る限り之を収載して平易明快なる解釈を施し、更に各語にそれぞれ適切なる英訳を併せ掲げてある。これは全く従来の伝統を破り、辞書編纂上に一新機軸を開いたもので、云はば国語辞典、漢和辞典、外来語辞典、新語辞典、文化的科学辞典の軽便なる綜合辞典であると共に、また和英辞典の用をも兼ねてゐるものである。ただ和英辞典を専門としたものでないから、紙面の関係上、訳語を幾つも掲げることの出来なかつたのは遺憾であるが、然し採録した限りの語は最も適訳と信ずるもののみである。学生諸氏の和文英訳には、これで十分役立つであらう。
元来辞書といふものは、必要に応じてのみ使用するものとなつて居るが、本辞典は更に閑にまかせて随時随処に読むべき辞書たることの目標の下に編纂してある。それは努めて多くの文化的方面の新語や外来語を採録してあることで、本辞典は一般紳士学生諸氏の、読書――現代文学、新聞雜誌などを読む時の博識なる先生、文章や手紙を書く時の忠実なる顧問たると同時に、また新知識の貴重なる注入者たらんことを期して居るのである。
その他種々の特徴については次の凡例に委しく述べてある。
   昭 和 五 年 一 月               編  者  識

(「掌中英語入リ新辭典」 藤村作 庄野信治共編)

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