よい時には何も考えずに決めることができた。カレーライス? オムライス? 何でもこい! あふれ出るケチャップのように、とめどなくゴールを量産することができた。夢を見ている時でさえ、寝返りとともに反転してゴールすることができた。例えばこんな夢を見ている最中にも……。
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くわえ煙草のキツネが吐いたため息に巻かれて、僕はグランドにいた。キツネ色の友情とキツネ目の少年が交錯している間に、ボールは冬の夜のキツネのようにグラブを通過した。落球かと思えた瞬間、スローモーションとなってボールを回収する。キツネの先生と師匠が集まっておやつを食べるけれど、キツネ腹を責めるには理由が欠けている。ランナーはセカンドベースを回ったところでアウトとなる。流石はウッチーだ。レフトに飛んできませんように。平凡な外野フライを捕球できない自信があった。サードを強襲した打球が高く跳ね上がってキツネ・フライのようになって飛んできた。追いかけている内にショートの青年とぶつかってそのまま一心同体となってしまう。本を運ぶ書店員を呼び止めて頼む。台車で割って入って2人をキツネ分解してほしいのだ。これは行き先被りの呪い。
「あっ、離れた! 逃げろ!」
キツネ返しに叫ぶ。
階段の上でトモミは物まねをしてキツネ式に人を集めていた。外国人ピッチャーが片言の日本語でキツネ早に質問をあびせてバッターを打ち取る場面は、後ろから本人が現れて爆笑となった。やっぱりキツネ世界では才能がある。帽子を取ったトモミはキツネの芸術家のように見えた。
「ブルーのリクエストはすぐに取ってください」
アナウンスがキツネ的に階段を流れる。何もできない間にブラウンのリクエストに切り替わっている。ログイン不可。単にマップが拡大されるだけ、これではキツネのお礼参りだ。
タワマンよりも高く飛んでいたはずだったが、いつの間にか私語が聞こえるほどに僕の浮遊高度は下がっていた。体力が追いついていかないのだ。キツネの影が壁に現れて影踏みをしている。キツネパンチ、キツネキック、キツネスマッシュ! 校舎に入って部員の助けを求めるが認証には遠い。13時30分。教室には戻らない。途中から来る者がいれば、途中で帰る者がいてもいい。キツネがラッパ飲みしても何も問題はない。
「後悔してない?」
持ち出したせいでこうなったこと。
「いや。何もしなくてもつつく奴はいる。痛みも必要な経験かもしれないし」
CDジャケットが晒されている。向上中のプレイヤーが発表される。いつになっても僕の名は挙がらない。革靴に顔を埋めて時が過ぎ去るのを待つしかなかった。夕暮れはキツネを分散させる時間だ。真相が闇に隠れ込む企みを、生真面目な初恋はキツネ地蔵をジグソーパズルに落とし込み、霧雨のキツネがキツネ耳を立てながらキツネ方程式を選考の手段に当てようとしていた。
寝転がりながら闇雲に振った足が攻撃を跳ね返す。そればかりかシュートとなって敵に脅威を与えさえした。もしやと光が見えれば活発になれる時がある。バスが路線を行く。戎町、戎宮町。その間は目と鼻の先。ここぞばかりに力を込めてシュートを放つ。柔い時だけに牙を剥くのだ。
ピンボールサッカーの終わり、個々のエアコンのフィルターを訪ねてまわる。エースのフィルターの中には箱があり、中を見るとチョコとスティックシュガーが詰まっている。ストイックさにかけてはキツネ仕込みといっても過言ではない。
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「何だ今の?」
自分でも自分の選択を理解できない。基本に忠実にやれば難なく枠に入れることができただろう。なぜ? 今、アウトサイドだったのか……。それしかないという場合、それでなければならないという場面がある。ただ、今ではなかった。よい時には、どこに当たっていても入る。自分の意図に関係なく決まるのだ。悪い時には、何をやっても裏目に出る。そして、それは自分では選べないのだ。
シュートはゴール・マウスを外れて火星にまで打ち上がった。虚しいばかりの残像を、僕は昨日の夢のように追い続けていた。
「何しましょう?」
見知らぬ女が、問いかけている。
決められないよ。
今日は何も決まらないのだ。