ノックアウトの予感を越えて、私は50ラウンドのリングに立っている。激しいパンチを交えながら、試合の中でさえも成長する。私は自分ののびしろに驚かされる。そんな私を前にガードを固め、フットワークを駆使しながら向かってくる相手も大したものだ。倒れない限り、ファイトは続く。ゴングとゴングの間に注がれるお湯。一息つく間、私は青コーナーでたぬきを食べた。ちょうどいい補給。そして、また立ち上がる。
眠っているのか。100ラウンド辺りの私は半分夢の中にいるようだった。ダメージはかなり蓄積されている。時に相手のパンチがスローモーションのように見える。私は余裕で避けてカウンターを繰り出す。しかし、ダメージは与えられない。時は巡り、相手は赤コーナーできつねを食べている。向こうの方も美味そうだ。七味を注ぐ余裕も見えた。
魔の時間帯を越えた。150ラウンドにさしかかるとパンチの質に明らかな変化が見てとれた。もう風を切るような鋭さはない。私たちのパンチは、互いに傷つけ合うことはなく、むしろ励まし合っていた。よくやったね。よくきたね。痛くないね。何ともないね。鈍くなったね。流石にね。もういいね。あと少しね。
まだまだやれる。180ラウンドに入って少し手数は減ったものの、足腰に限界は見えなかった。それでも、私たちはもう決めていた。
軽くグローブを合わせると次の瞬間、審判に話を持ちかけた。
「少し休みたい」
先は長い。決着をつけるのは今ではないと共感したのだ。
「これより冬休みに入ります!」
審判の宣言に客席からは盛大な拍手が沸き起こり、いつまでも終わりなく続いた。
再開のゴングは今から3週間後だ。
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