効率よく作りたかったら他に作るものはありますよ
小説を書くことはほとんど非生産的なもんや
書くことの半分以上は捨てることや
考えたこと、浮かんだこと、悩んだこと
ほとんどは実を結びません
書いては消し、書いては消し
みんな消えてばかりや
アホらしいと思わへん?
出て行ってもええんやで
帰れる内に帰るのが賢いでしょ
捨てて捨てて捨てて捨てることばっかり
そうしてぽつんと残ったものが小説家なんよ
捨てていく覚悟はありますか
テレビを捨て情を捨て地位を捨て恋を捨て……
みんな捨てたら異世界へ旅立つんや
「空っぽは空想の始まりです」
余計なものはいらないのよ
夢は素敵か? 目標は大事?
ほんまにそうやろか
ええですか。思い込みは足を引っ張りますよ
先入観ほど余計なもんはあらへん
夢や目標は変わっていくよ
なぜならば
自身が変わっていくからです
自分は自分と思ってる
僕は僕です?
でも人は絶えず変わっていきます
僕も私もみんな誰でも
私はこうだという目標を立てた私
私は私でなくなっていきます
目標は有効ですか?
疑わしいやろ
なんか怪しい思えへん?
昨日の自分が見た夢は忘れます
昨日の自分が立てた目標は変わります
夢も理想も欲望も幸福も……
みんな同じですよ
「人は同じとこにはおられへんやん」
夢もゴールも変わっていく
そんでええやないの
おぼろげに描くくらいで
それよりももっと
書くとなったら純粋に書くことに集中したらええ
書くことの原点はどこにある?
わからない? 見失った? あらら
読者の前にあるはずや
まずはそれを見つけ作者になることや
読者はどこにいるの?
最初の読者はあんたの中におるんや
あんたは書いて消し、書いて忘れる
忘れた分だけ読まなあかん
作者は誰よりも読者であること
「書くことの半分以上は読むことなんや」
読まずに書けるのは神さまだけですよ
私は神さまですいう人いてますか?
そやね。みんなただの人やねん
覚悟のある者は書いたらええ
そのほとんどは消すことやけどな
アホらしいと思うわへん?
思いながらここにおるんか。あんた偉いな
最初から思うようには書けませんよ
なぜならば……
「最初から思うようにいくことは何もあらへんのやから」
書くことは何も特別なことやない
歌うこと、戦うこと、生きること……
書くこともやっぱりそんな甘いもんやない
それがわかった上で書くことはあるんやろか
書いていく上で見つけたい?
なるほど。見つかったらええね
ええですか
本当に見つけることができるかわからへんよ
見つけ方を見つける前に終わってしまうこともあんのよ
見つけようとするばっかりに見つけ方を見失っていくこともあんのよ
見つけることも見つけられることも大変よ
小説いうもんはみんなかくれんぼや
映像も音楽もない。見つかりにくい形や
どんな小説も世界の片隅から始まるばっかりや
誰がそれを見つけてくれるやろうか
見つかることなく眠り続ける小説がどれだけあるやろか
見つけてほしい?
そうね。見つけてくれたらうれしいね
だったら読者を探さないこと
「読者ばっかり探したらすぐに自分を見失うよ」
見つける前に見失ったら話にならへん
まずは自分を見つけるように
自分自身の中に集中することや
「急がば潜れですよ」
自分の奥へ潜り込んで自分を探すんや
これも容易いことやない
最も見つけにくいものかもわからへん
でもね
自分を見つけることがでかたら世界は変わります
自分を見つけた作者は誰かに探される存在になる
そこで変わることができます
本当の意味での作者になったんや
「見つけなければ見つけられることもない」
それが小説です
見つけたかどうか……
それはずっと後になってからわかります
読者は作者の鏡なのよ
自分が見つからない間は映らへんのよ
遅れてやってくる証人みたいなもんです
覚悟のある人は書きなさい
「スペースはあんねんから」
スペースはあるけど時間はない
だったら前に進まなあかん
後ろにあるのは時間ばっかりや
振り返る時間ないねん
書いて消し、消して書き
どんどん書いていく
それしかないやん
書くと決めたら書いたらええねん
他のもんなんか関係ない
書けば自分に近づける
自分やったら超えていくこともできる
書いた分だけ超えていけるんやないかな
スペースはあんねんから
「自分だけをどこまでも超えていくんや」
書いたとしても消さなあかん
書いても書いても捨てなあかん
そしたらまた空っぽになる
ほんまアホらしいな
何やってんかな
あんたは途方に暮れる
そこがチャンスや
わかります?
「消えたものの後から本当に書くべきものが現れるんや」
それからが本当の始まりよ
できますか
待てますか
挫けずに楽しめますか?