眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

消え去った後に

2022-12-31 23:19:00 | 新・小説指導
効率よく作りたかったら他に作るものはありますよ
小説を書くことはほとんど非生産的なもんや
書くことの半分以上は捨てることや

考えたこと、浮かんだこと、悩んだこと
ほとんどは実を結びません
書いては消し、書いては消し
みんな消えてばかりや
アホらしいと思わへん? 

出て行ってもええんやで
帰れる内に帰るのが賢いでしょ

捨てて捨てて捨てて捨てることばっかり
そうしてぽつんと残ったものが小説家なんよ
捨てていく覚悟はありますか
テレビを捨て情を捨て地位を捨て恋を捨て……
みんな捨てたら異世界へ旅立つんや

「空っぽは空想の始まりです」

余計なものはいらないのよ
夢は素敵か? 目標は大事?
ほんまにそうやろか
ええですか。思い込みは足を引っ張りますよ
先入観ほど余計なもんはあらへん

夢や目標は変わっていくよ
なぜならば
自身が変わっていくからです
自分は自分と思ってる
僕は僕です?
でも人は絶えず変わっていきます
僕も私もみんな誰でも
私はこうだという目標を立てた私
私は私でなくなっていきます
目標は有効ですか?
疑わしいやろ
なんか怪しい思えへん?

昨日の自分が見た夢は忘れます
昨日の自分が立てた目標は変わります
夢も理想も欲望も幸福も……
みんな同じですよ

「人は同じとこにはおられへんやん」

夢もゴールも変わっていく
そんでええやないの
おぼろげに描くくらいで

それよりももっと
書くとなったら純粋に書くことに集中したらええ
書くことの原点はどこにある?
わからない? 見失った? あらら

読者の前にあるはずや
まずはそれを見つけ作者になることや

読者はどこにいるの?
最初の読者はあんたの中におるんや

あんたは書いて消し、書いて忘れる
忘れた分だけ読まなあかん
作者は誰よりも読者であること

「書くことの半分以上は読むことなんや」

読まずに書けるのは神さまだけですよ
私は神さまですいう人いてますか?
そやね。みんなただの人やねん
覚悟のある者は書いたらええ
そのほとんどは消すことやけどな

アホらしいと思うわへん?
思いながらここにおるんか。あんた偉いな
最初から思うようには書けませんよ
なぜならば……

「最初から思うようにいくことは何もあらへんのやから」

書くことは何も特別なことやない
歌うこと、戦うこと、生きること……
書くこともやっぱりそんな甘いもんやない

それがわかった上で書くことはあるんやろか
書いていく上で見つけたい?
なるほど。見つかったらええね

ええですか
本当に見つけることができるかわからへんよ
見つけ方を見つける前に終わってしまうこともあんのよ
見つけようとするばっかりに見つけ方を見失っていくこともあんのよ
見つけることも見つけられることも大変よ

小説いうもんはみんなかくれんぼや
映像も音楽もない。見つかりにくい形や
どんな小説も世界の片隅から始まるばっかりや
誰がそれを見つけてくれるやろうか
見つかることなく眠り続ける小説がどれだけあるやろか

見つけてほしい?
そうね。見つけてくれたらうれしいね
だったら読者を探さないこと

「読者ばっかり探したらすぐに自分を見失うよ」

見つける前に見失ったら話にならへん
まずは自分を見つけるように
自分自身の中に集中することや

「急がば潜れですよ」

自分の奥へ潜り込んで自分を探すんや
これも容易いことやない
最も見つけにくいものかもわからへん

でもね
自分を見つけることがでかたら世界は変わります
自分を見つけた作者は誰かに探される存在になる
そこで変わることができます
本当の意味での作者になったんや

「見つけなければ見つけられることもない」

それが小説です
見つけたかどうか……
それはずっと後になってからわかります
読者は作者の鏡なのよ
自分が見つからない間は映らへんのよ
遅れてやってくる証人みたいなもんです

覚悟のある人は書きなさい

「スペースはあんねんから」

スペースはあるけど時間はない
だったら前に進まなあかん
後ろにあるのは時間ばっかりや
振り返る時間ないねん

書いて消し、消して書き
どんどん書いていく
それしかないやん
書くと決めたら書いたらええねん
他のもんなんか関係ない

書けば自分に近づける
自分やったら超えていくこともできる
書いた分だけ超えていけるんやないかな
スペースはあんねんから

「自分だけをどこまでも超えていくんや」

書いたとしても消さなあかん
書いても書いても捨てなあかん
そしたらまた空っぽになる
ほんまアホらしいな
何やってんかな
あんたは途方に暮れる
そこがチャンスや
わかります?

「消えたものの後から本当に書くべきものが現れるんや」

それからが本当の始まりよ
できますか
待てますか

挫けずに楽しめますか?

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今日と明日のルーティン

2022-12-31 22:27:00 | ナノノベル
「お急ぎの方、お先にどうぞ!」

「お次の方、ちょっとお待ちください。只今、大急ぎの方がいらっしゃいました。大急ぎの方、お先にどうぞ!」

 この店は行列のできる大繁盛店。私はいつも列の後方に並んでおとなしく順番を待っている。どれだけ早く来て列に並んだところで、必ず自分の番が訪れるとは限らない。なぜなら、世の中には急いでいる人が多すぎるからだ。

「無茶苦茶お急ぎの方、真っ先にどうぞ! 少々お待ち。大至急の方がお見えになりました。大至急の方、お先にどうぞ!」

 私の番はなかなか巡ってこない。この列に大した意味なんかない。ただ少し有り難がって並んでいるようなものだ。
 昨日みた夢の話をしよう。

 私はゴールを決めたはずだが、異議を唱える者がいた。
「ちゃんと両手を使った?」
「使っただろ!」
 ボールを額にくっつけて押しつければゴールだ。ゴールに空間はなく、壁の真ん中がゴールに位置づけられていた。正しく両手を使っていればゴールだが、それが認められなければハンドの反則になるところが難しい。非常にわかりにくいルールだった。センターラインにはネットが張られ、パスは越えられるが、ドリブルする時には外を回らなければならなかった。


「お次の方、少々お待ちください。切羽詰まった方、お先にどうぞ!」

「えーと、あなたは……。多少お急ぎでしたか?」

「いいえ、特に。いつでも構いません」

「かしこまりました。そのままお待ちくださいませ」

 少しはずる賢さを身につけなければ、人の前に出るのは難しいのかもしれない。だけど、ここでそれを出すべきなのだろうか。急いでいないのは本当のことだ。後から来た者に追い越されてばかりの私は、ただの愚か者か。約束のない時間が私の前にどこまでも広がっているようだ。退屈から解き放つためには、自ら妄想の扉を開く以外にはないのだ。
 私はコインランドリーを開く。居心地がよく、誰でも駆け込めるような素敵な場所だ。子供は宿題を解き、猫は気兼ねなく暖を取る。城を追われた武将も、首を切られた落ち武者の幽霊も、平和を求めて駆けてくる。パズルに興じてもいいし、ダンスの振り付けをしてもいい。サラダを作ってもいいし、コーヒーを飲んでいるだけでもいい。勿論、洗濯なんてしなくてもいい。位置づけはコインランドリーだとしても。とにかくウェルカムな場所になればいい。
 夢には続きがあったように思う。
 宅配便を運んできたのはいつもの人だった。
「10箱になりますよ」
 どこか深刻な顔をしていた。若い衆が次々と庭に箱を運んでくる。中身は組み立て式の炬燵だった。真冬だというのに、男たちは全員上半身裸で作業していた。それだけ重労働だということだ。私は外に出て、箱が揃うのを立って見守っていた。自分だけ暖房の効いた部屋の中にいるのは、何かわるい気がしたからだ。風が冷たく、全身で冬を感じた。
「ここに置いてください」


「お次の方、ちょっとお待ちください。駆け込んで来られた方、生き急いでいらっしゃいますね。お先へどうぞ!」

「恐れ入ります。順番が前後します。我先にの方、前にお進みください!」

「わーっ! 俺もう後がないねん!」

「少々お待ち。後がないと言う方、真っ先にどうぞ!」


「恐れ入ります。本日は完売となりました! またのお越しをお待ちしております」

 やっぱり、今日も駄目だったか……。
 いつものように私は立ち尽くしたまま悲しい知らせを聞いた。
 楽しみはまたおあずけとなったが、それはまた明日を生きる理由ともなった。

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窓の女(ダイナミック・ウィンドウ)

2022-12-31 19:42:00 | ナノノベル
「すみません。ラッキーストライクください」
「ごめんよ。うちはうまい棒と消しゴムの店だよ。何味がいい?」
 ランドセルを背負った少年は何も買わずに帰っていった。

「はい、いらっしゃい」
 青年は酷く調子が悪そうだ。
「夕べから熱っぽくて……」
「食前に1錠、朝夕2回2週間分出しとくよお大事に」
 薬を受け取ると青年はせき込みながら帰って行った。

「いらっしゃい」
 次々と客が押し寄せる。この街の窓はここしかないのか。
 女は酷く寒そうで唇が紫がかっていた。
「大根と厚揚げと牛すじください」
「辛子はつけとくかい。ありがとうね」
 客によっては出せぬものはない。

「はい、いらっしゃい」
 窓の前にスーツケースが止まった。
「福岡まで大人1枚お願いします」
「ご旅行ですか。うまい棒共通クーポン付ねお気をつけて」

「いらっしゃい」
 次は帽子の紳士だ。
「ラークマイルド2トン」
「とりあえず今日はこれだけにして」
 紳士は箱を受け取るとすぐに封を開けて窓口で火をつけた。
「明日アマゾンから届きますよ。健康に注意してね」


 昨日は本当に忙しかった。
 今日は誰か来るだろうか。来るかもしれない。来ないかもしれない。すべて間に合っているのかもしれない。忘れられてしまったのかもしれない。
 昨日……。
 あれは本当に昨日のことだったろうか。
 それにしては自分は随分年を取ったとおばあさんは思う。
 人通りの絶えた道から目を離し手元のタブレットをのぞき込んだ。
「火星に生命体発見か」
 ニュースはまだ更新されていない。

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相談将棋 ~純粋に水をさすもの

2022-12-31 15:18:00 | 将棋の時間
 儚い1分をつないで永遠をつくることだってできる。許されるならずっとそうしているのかもしれない。読み耽っている間は歳を取らず、風邪を引くこともない。徐々に棋士の縦揺れが速くなっていく。前のめりとなり勝ち筋を追求しているに違いない。遠目には何もしていないように見えて、実際には壊れるほどに動いている。脳内を占めているのは、玉を中心に存在する世界。そこには蠅1匹として入り込むことはできないのだ。純粋であることはこの上なく心地よく、その世界を見守るものを幸せな気持ちにさせることができるのも、純粋さの力に他ならなかった。

「ちょっとご相談がありますので……」

 玉と玉の間に世界の外から声が割って入った。大駒も小駒も、口を挟むことはままならない。人と駒との世界がはっきりと分断される。




 時が止まる。
 要の金も、駒台の曲者も、自陣をさまよう飛車も、誰も自力で動くことはできない。人間たちの帰りをただじっと待つばかりだった。突然、人が消え去った部屋の中、残された盤上の駒たちは静かに闘志を燃やし続けていた。

「まだまだ夜はこれからよ!」

「負けないよ!」

「少し苦しくなってきたわい……」

「バカ! 弱音を吐くのはどこのどいつだ?」

「まだまだ勝負はこれからよ!」

「我らの後ろには10万の観る将がついているからね!」

「早く天国に行きたいな!」

「そのためには成駒の製造が必要だな。長くなるわい」

「君よと金になれ。君よ成桂になれ。私は馬になろう」

「地下鉄飛車をお待ちの方、しばらくお待ちください」

「少し苦しくなってきたようじゃ……」

「バカ! うちの先生絶対にあきらめたりしないんだから!」

「まだまだこれからよ!」

「夜はこれからよ!」

「本当の勝負がこれから始まるよ!」




「この度、蕎麦屋さんが店を畳むことが決まりまして、それで先生方のご意見を聞いてまわっているところです」

「そうでしたか」

「はい。そこで、こういう時に何ですけど、何かこういう出前があったらいいなとか、具体的にありますでしょうか」

「そうですか。蕎麦屋さんがないと寂しくなります」

「ええ。仰る通りです」

「うどんも選べますし、丼もいいですもんね」

「はい。そこでですが、蕎麦に代わるものとして、具体的に何かこれというものがあったら是非ともお聞かせ願いたい」

「蕎麦以外ですよね」

「あるんですけどね、色々と」

「例えば」

「なかなか切り替えが難しい面がありますよね。時が時ですので」

「仰る通りです。そこはこちらも心苦しいとこですが……」

「ピザとかどうですか」

「ピザですか。ありがとうございます」

「ピザというとパスタとかどうでしょうか」

「なるほど。イタリアンですね。いただいときましょう」

「たこ焼きとか」

「ほー、たこ焼きですか」

「そうするとお好み焼きとか」

「なるほど鉄板ですね」

「全般的に鉄板となると手広い意味はありますね」

「有力です。これもいただきましょう」

「まあざっとそんなところですか。今日のところは」

「ありがとうございます。時計を止めて聞いた価値がありました!」




「全然かえらないじゃないか!」

「千日手になったんじゃない?」

「いつの間に?」

「ふりだしに戻るわけ?」

「そこの君、棋譜をのぞいてごらん」

「ふん、見るまでもない」

「ふふっ」

「メシでも食いにいったんじゃないの?」

「そんな身勝手なことが信じられるか」

「人間なんて気まぐれなもんだろ」

「お前ごときに人間の何がわかるか」

「一番そばで見てたから少しはわかるんだよ」

「だったら俺も」

「錯覚じゃねえの?」

「錯覚はよくない。よく見なさいな」

「食うかどうかは時の気分で決まるんだ」

「それだけか?」

「それだけじゃない。眠るかどうか、歌うかどうか、踊るかどうか、振るかどうか、愛するかどうか、生きるかどうか、そうしたすべてが気分で決まるんだよ」

「そんなバカな!そんなにも気まぐれなものか」

「それが生き物に与えられた最も大きな性能だからね」

「空も飛べないくせに!」

「馬にもなれないくせに!」

「そんなものに命をかけられるわけ?」

「笑っちゃう」

「そう。だから笑うしかないんだよ。僕らにできず人間だけにできることだろ」

「私たちに読めないはずね」

「我々は盤の上では将棋の駒にすぎない」

「ふん。世界の果てだって変わらないさ」

「デタラメな話はおやめなさい」

「そうよ。私語は作戦に費やすべきよ!」

「そうだ。棋理から遠すぎる」

「勝負はこれからよ!」

「夜の向こうに10万の観る将が広がって見えておるわい」

「本当にかえらないじゃないか!」

「かえりたくてもかえれない時があるんだよ」

「いったいどんな時なんだ?」

「笑えない時さ」

「発端は?」

「風が素顔を晒してしまったからでは?」

「何それつまんない!」

「まだまだこれからよ!」

「これからが本当の勝負よ!」

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ライブ(真夜中の肉食獣) 

2022-12-31 05:27:00 | ナノノベル
 人の数だけ理想の形はあるのではないか。ある人は音楽などなくても何も困らない。だが、ある人はロックがなければ息もできない。ある人にがらくたであるものが、ある人には不可欠だ。しわわせとは、飢えを満たすことではないだろうか。俺の飢えは、あなたの飢えとは違う。俺は俺であなたはあなたであるということだろう。俺は真夜中の肉食獣。今夜も満たされる瞬間を求めて街をさまよっている。

「テクニカルチキンとトロピカルチーズバーガーとアンダルシアオレンジシェイクね」

「ご注文内容を繰り返します……。ただいま満席いただいております」

「そうなん?」

「お待ちいただけますでしょうか」

 飢えが満たされるまで、引き下がるわけにはいかない。待たされている間、ネットニュースからやらかし人たちの失言でも拾うとしよう。俺は失敗から学ぶ人間だ。他人の失敗を経験として取り入れ、自らの行動に生かすのだ。ページはなかなか開かない。止まってる? 障害か?
(読み込み失敗。ネット環境をお確かめください)

「恐れ入ります。ただいまWi-Fi調整中になります」

 店員の言葉に俺は完全に切れた。世の中、許せることと許せないことがある。怒りの炎が燃え上がると俺は誰にも止めることできない。

「はあ? 先言えやおばはん!」

「Wi-Fiなかったら意味ないやん。客を待たせた上にWi-Fiもないの?」

「申し訳ございません」

「俺は現代人やで。わかる? 金返して。500円キャッシュバックや」

「ご迷惑おかけして申し訳ございません」

「えっ? できへんの? なら200円でええわ。はあ? あかんの? お前現代人なめてんのか? ネットなかったら何したらええの? えっ? 教えて。教えてくれる?」

「お待たせいたしました。お席が空きましたので」

「どこや」

 胃袋が満たされれば穏やかな自分を取り戻すことができるだろう。俺は傷つきたくもないし、他人を傷つけたいわけでもないはずだった。真夜中の飢えが極まって、暴走のスイッチを押しただけ。本当にそれだけのことだった。

「お客さま、あと5分で閉店となりますがよろしいでしょうか?」

「はあ? 先言えや! てめえぶっころすぞ! 俺客やで。現代人やで。することいっぱいあんねん。5分で何ができんねん」

「恐れ入ります。お客様、ノーマスクの方は出禁となっております。よろしかったでしょうか?」

「バカかお前先言えや! そんだら俺、元々おったらあかんやんか。あかん奴やんか。何やこの店、席はない、Wi-Fiあかん、散々待たす、何も食われへんやん。俺どうしたらええの? 現代人に未来はあるんか?」

「恐れ入ります。なお、接客力の向上とスタッフの情報共有のため店内の模様はYouTubeにてライブ配信されております。ご了承くださいませ」

「えっ? なんて……。マジで? ここも?」

「こちらはアングル1となっております」


「わーっ。お姉さん先言ってくださいよ。ほんま悪いわー。ええ店ですやん。そりゃ流行るはずやわ。言ってくれたら僕もチャンネル登録しますやん。ほんま悪いわー。やめて後出しじゃいけん。めっちゃきれいですやん」

「申し訳ございません」

「いやお姉さん悪くないです。こちらこそですやん。僕、顔晒してますやん。気持ちだけ、ごちそうさま! 店員さん、お疲れさまでした!」

「ありがとうございました!」

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スープ・カレーを召し上がれ

2022-12-31 00:11:00 | ナノノベル
「誠に申し訳ございません。ご注文いただきましたスープ・カレーでございますが、私の不注意により少々スープをあふれさせてしまいました。お届けできる状態でないと判断できるため、ご注文をキャンセルさせていただき、こちらの方で引き取らせていただきます。この度は誠に申し訳ございませんでした」

「大丈夫です。構いませんのでそのまま届けてください!」

「恐れ入ります。せっかくご注文していただいた商品を、完全な形でお届けできずに心苦しく思います。やはり、こちらで引き取らせていただくことといたします。この度は誠に申し訳ございませんでした」

「いえいえ。そう気になさらなくても大丈夫ですよ。私の方は全然構いませんので、どうかそのまま届けてください!」

「いえいえ。そういうわけには参りません。私どもの仕事は、ご注文いただいた料理をできあがった時の状態そのままに、完全な状態でお届けすることです。この度は私の不手際によりまして、多少なりともスープをあふれさせてしまったこと、誠に痛恨の極みでございます。心よりお詫び申し上げます。つきましては、この度の注文はキャンセルとさせていただき、スープ・カレーを私の方で引き取らせていただきます」

「業務に対する真摯な姿勢に心打たれました。人間誰しもミスはあるものです。完全を心がけていても、そうならないことも多くあるのではないでしょうか。多少のことは気にしませんので、そちらもそのようにお考えください。どうかそのままお届けください!」

「この度は私の一方的なミスにも関わらず、親切な心遣いをいただき誠に恐れ入ります。しかしながら、一度あふれさせてしまったスープは二度と元に戻ることはございません。お客様の寛大な心を深く胸に刻み、今後はより一層の注意を払って業務に当たることといたします。その上で、ご注文いただきましたスープ・カレーは私の方で処理させていただきます。この度は誠に申し訳ありませんでした」

「少しくらい大丈夫です。本当に大丈夫ですから、そのまま持ってきてください。待ってます!」

「少しではありませんでした。最初は少しと思いましたが、お客様から見ればとても少しではないと思われます。このような状態では、もはやお届けすることができなくなりました。深く謝罪の意を示すとともに、商品はこちらで引き取らせていただくことといたします」

「反省はもう十分なので届けてもらえます? 私が大丈夫と言ってるのだから、大丈夫ですよ。本当に」

「お怒りはごもっともでございます。振り返ってみれば、お昼からまともな食事も取れていなかったこともあって、多少ハンドリングが雑になっておりました。また、近道をしようとあえて凸凹道を選択してしまったことも大きな判断ミスでした。ですが、これらはすべて私事であって言い訳にすぎません。すべては私の不徳の致すところでございます。改めて謝罪させていただきたいと思います。つきましては、ご注文いただきましたカレー・スープは不完全な状態となりましたので、私の方で責任を持って処理させていただきます」

「お忙しかったのですね。お疲れさまです。反省の気持ちはもう十分いただきました。スープがなくなっていても不完全であっても構いません。どうぞそのまま届けてください! そのままで」

「労いの言葉までかけていただき恐れ入ります。この度は、私の不注意によりお客様に多大なご迷惑をおかけしたことを、心よりお詫び申し上げます。また、それによりお客様に貴重な時間をお取りいただいたことも、重ねてお詫び申し上げねばなりません。さて、夜も深まるとともに冷え込みの方も一段と厳しさを増してきました。この辺りでお客様にはご納得していただき、チャットを閉じさせていただきたいと思います。つきましては、誠に勝手ながらご注文いただきましたスープ・カレーについては、私の方で責任を持って処理させていただきます」

「もしかしてお腹空いていますか? もうスープ・カレーを食べるモードになっているのでは? それならそれでこちらも納得します」

「空いてないと言えば、それはうそになってしまいます。しかしながら、それと私の責任の行方、及び対処の仕方とは、完全に切り離されたものとして考えます。どうかご明察くださいませ」

「いいです、いいです。お譲りします。もう何か別の物を食べたくなってきましたから。どうぞご自由に」

「ご理解いただき誠にありがとうございます! 今後ともフード・ポンタをよろしくお願い申しあげます!」

「はい、わかりました。どうぞ召し上がってください!」


「いただきまーす!」

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