我々の丼が中毒的な旨さを持っていたことは疑いようもなかった。客離れを起こしているのは、急激な物価の上昇とそれに伴うマインドの低下だった。秋が深まろうとしている頃、店長は思い切った手を打った。なんと最初の1杯に限りすべての注文を無料としたのだ! 但し、おかわりは有料である。店長は強い自信を持っていた。その根拠は人間の心理だ。
「我々はこの難局を何としても乗り越えなければならない。そのためにはあらゆる先入観を排除して新しい試みに挑戦する態度が必要だ。我々には他にはない絶対的な武器がある。それはこの中毒性の高い丼の旨さに他ならない。多少強引にでも我々はそこを前面に押し出して、何としてもこの業界での勝利を手に入れる。人間は人の恩に報いようとするもの。親切は必ず返ってくる。それを信じて笑顔で出して行こう。最後に笑うのは我々だ。さあ行こう!」
キャンペーンは大好評だった。客は笑顔で丼をかき込んだ。
「ごちそうさま!」
おかわりをするものは思いの外に少なかった。笑顔のあとに返ってくるのは、空っぽになった丼ばかりだった。
店長の思いの詰まったキャンペーンは、冬将軍が顔を大きくする頃に終わり、我々も他社に沿う形で値上げに踏み切ることになった。店長は思い切って自らの給料を半額にすることを宣言し、皆の士気を高めた。我々の本当の勝負はまだこれからだ。
ドンマイ店長!