眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

プライド旋回

2022-12-30 19:29:00 | ナノノベル
「リクエストを申請して着陸許可を待て」
「こちら機長。飯の友は辛子明太子。リクエストが通り次第着陸態勢に入る」
 551機の機長は迷わず晩ご飯の飯の友申請を終えた。既に空腹のピークを過ぎて半ば痛いほどだった。しかし、フライトは最後の最後まで気を抜くことが許されない。それは誰よりも機長自身が知っておかねばならぬことだった。

「こちら管制塔。申請中の辛子明太子は売り切れ。繰り返す。辛子明太子は売り切れ。リクエストを却下する。至急代案を立て再度申請せよ」
 機長は操縦桿を持ったまま顔をしかめた。

「却下は認められない。飯の友は辛子明太子。代案はない。以上」
「こちら管制塔。状況を報告せよ。こちら申請待ち」
「こちら機長。既に申請済み。対処願う。以上」
「こちら管制塔。辛子明太子は現在売り切れ。繰り返す。辛子明太子は現在売り切れ。代案リクエストを検討せよ」
「こちら機長。飯の友は辛子明太子。リクエストが通り次第着陸態勢に入る。繰り返す。飯の友は辛子明太子。入手ルートの開拓を検討せよ」
 緊張のやりとりが続く。互いの主張は平行線のままだ。速やかな解決が求められる。

「こちら管制塔。飯の友に関してコントロールできる範囲で緊急提案がまとまった。以下の提案を検討せよ。明石海苔、紀州梅干、シーチキンファンシー等を取り揃えて機長の飯の友とする。速やかに提案を快諾して着陸態勢に入れ」
「こちら機長。飯の友は辛子明太子。リクエストが通り次第着陸態勢に入る。繰り返す。飯の友は辛子明太子。それ以外の提案は受け付けない。以上」
 機長の断固とした態度。そこにあるのは20時間分もの思い。操縦桿を握り重大な責任を果たす者としてのプライドがあった。それは常人には理解されないであろう高い高いプライドだ。

「こちら管制塔。明石海苔、紀州梅干、シーチキンファンシー他を取り揃えた飯の友の配置が完了した。機長の柔軟な思考と名誉ある決断を願う」


「ご案内申し上げます。ただいまエンジン系統のトラブルにより当機は着陸を見合わせております。お急ぎのところ誠に恐れ入ります」

「機長! 乗客がざわつき始めています。これ以上は無理では……」

「くそーっ! 下界の奴らめ! 私の空腹も限界だぞ」

「こちら管制塔。応答せよ。551便応答せよ」

「こちら機長。リクエストを繰り返す。飯の友は辛子明太子。リクエストを繰り返す。飯の友は辛子明太子……」

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