眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

天井マックス

2021-07-01 21:31:00 | ナノノベル
「いらっしゃい!
ごめんなさい。うちは1組4名様までなんです。
上の取り決めで上限が決まってましてね……」

「はい、いらっしゃい!
ご新規4名様奥へどうぞ!」

「上天ざる一丁!」

「ありがとうございます!」

「上野菜天ざる一丁!」

「ご新規4名様奥の奥へどうぞ!」

「ありがとうございます!」


「ちょっとあなたは……」

「つれです」

「はっ、では、どうぞ」

「あなたは何ですか」

「つきそいです」

「おまけです」

「はっ、どうぞお入りを」

「ちょっとあなた方は何ですか!」

「スタッフの者らです」

「はっ、失礼しました!
スタッフの方々奥へ入りまーす!」


「はい、満席です! 止めてー」


「上天丼10、上天ざる9!」

「ありがとうございます!」


「あっ、ごめんなさい!
ただいま満席なんですー!」


「私は貴族だ!」

「ごめんなさいね……」

「私を追い返すのかー!」

「そうは言ってももうスペースがないのよー」


「何だと? 試合が始まってしまうじゃないか!」


「はあ? 何かお間違えでは……
うちはただの食堂だよー!」

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

フライング・シャツ

2021-07-01 03:33:00 | 短い話、短い歌
 落ちることによって存在を知らせるように滑り落ちる。その度にシャツを椅子にかけ直した。何度も何度も。見ている間はシャツは大人しくそこにいる。けれども、目を離してしまうといつの間にか落ちている。ここにいたくないのか、それとも誰かに着てほしいのか。

 もう好きにしな。

 突き放した瞬間、シャツは大地を離れて行った。あっという間に手の届かない距離まで達すると、自分の小ささに改めて気づいた。

「待ってくれ!」

 ポケットに部屋の鍵があるのを忘れていた。引き留めたのはそれだけのためだ。声はもう届かないかもしれない。早まってしまった自分を責めながら、離れていく様を見送っていた。

 ビルの十階ほどにあったシャツが風を呑んで膨らんだ。そのすぐ側を鴉が横切った。漂いながら少しだけ停滞したシャツから、ゆっくりと光が落ちてくる。

 ありがとう、さようなら
 主のもとへかえりな




流行に周回遅れよれて愛着へと変わる君の夏服

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする