眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

熊とエメラルドグリーン

2020-06-11 23:22:00 | ポトフのゆ
「今夜は混浴でござれ」
「船頭さん、うちは恋が長く続かないのです」

 こそ泥が盗んでいった嘘のようにドクロの涙を振りかけたモグラは、ふっくらと遅咲きの桜のたくらみの中で赤く歳を重ねて、その日暮らしでオクラを刻み、ウサギを欺くような真似もしてお蔵入りの枕を迷宮から引っ張り出すことによって、ささやなかく乱を模索していたのだった。

「僕ら、引きずっている」
「何を?」
「かもしれないね」

 夢から覚めてもまだ雨のために、ただ覚めやらぬエメラルドグリーンの魔物の恋した雨のために、鮫もカモメも誰かのために読んだ屋根裏の羽根蟻の絵本の歌から離れた船乗りの行く手を阻むための、種のない果実と、また雨のために。洗い流される細々とした用事の向こうから熊が雨のようなよだれと、鋼鉄の爪を見せびらかしながら厳かにしなやかに迫ってくる。余すところなく伝えられてきた伝承によって学習済みの教科書のメインストリートを、靴を1つ、靴下を1つ、置いていく。何でも引き裂かなければ気が済まない熊はその都度気を留めて、その時牙を剥く5月の熊の雨足は下火になる。すっかり匂いを嗅ぎ終えて、顔を上げる。

「なんだその様は」
 つぶやいて熊は、もう一度、脱ぎ捨てられた衣服に鼻をつける。ほら、もう1枚、追跡と逃亡、横殴りと小雨の間で、賢者のまいた罠が狂おしい爪先で裂き乱されている。あれよあれよと、おっとっと、われを忘れておっとっと。どうも、差が縮まらないな。

「本当に初めてかい?」
 熊は鼻先に付着した繊維の中に屈辱的な疑問を投じてみた。答えは、次の布切れが持っているのかもしれない。月日が解放されていく過程と逃れられない生まれながらの設計図が持ち前の快速を鈍らせ、熊の頭を考え深くさせる。ずっと逃げてきた奴じゃないかな。考えることは、疑い始めることでもあった。衣服に残る匂いとまだ残る温かさが、目標の近さと正しさを示してはいるものの、果たして本当に終着服までたどり着けるだろうか。

「きさま、誰の入れ知恵だ?」
「ふふふ、勇ましかったのは降り始めだけね」

 湯の匂いが近づいてくる頃、ついに最後の一枚が脱ぎ捨てられた。夕べからの雨のためか、必死で逃げ続けた間の汗のためか、すっかり水気を含んでいた。よくぞここまで来たものだ。

「枯れ落ちるまでが憂いなのよ」
 それはもはや勝利宣言に等しかった。憂いに引き込まれるように、熊はゆっくりとくたびれた鼻を近づけた。誰1人触れなかった濡れ衣に、破れ去った狩人は、最後の唇を近づける。その瞬間、既に恋の残骸であったものは炎に包まれて、赤く燃え上がった。間もなく、熊は灰になった。

「ちょうどよかった。今から、うちは湯に入るところだから」

 なるべくなら誰も現れなければいい、と思って開き始めるといきなり愛想がいい、とても笑顔の綺麗なおじさんが現れて戸惑いを覚える暇もないほど、何しろその人は何もしなくても友達を風の中からつれてくるような人だったから。覚えないと、覚えようか、せめて最初に現れた人くらいは覚えたっていい。人と人が多少のことで争ったり、絡み始めたとしても、できれば何も起きなければいい。過去を振り返ったりするのは、面倒だし、誰が誰の元恋人で、誰が本当のお母さんだろうと、関係ないし興味がないし、多少でも自分の人生に跳ね返ってきたり影響を受けたりもしたくないのだから、彼らはみんなおとなしくしていてくれればいいのに……。ただ流れて行ってくれればいい、今より多少でもこちらの世界を暗くしないでいてくれる程度の速度で。街角に止まっている赤の点滅が、とても綺麗で、見つめる内にどんどんと引き込まれていって、ほとんどそれは憧れに近いほどに胸の中を占めて行く時に、ぱちんと座布団の上で音がしてはっとする。今、その赤の下では、誰かが、たとえば遠い物語の世界の中であったとしても、酷い怪我を負っていて、命の危険にさえさらされているかもしれないのだから。舞台の向こうから送り込まれるさわやかな風が、みんなを穏やかな笑いの中に、包み込んでいる。笑顔の綺麗なただお人好しの人とだけ思っていたけれど、つるべさんは落語もしはるんやね。
「えらい上手に、落語もしはるんやね」

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猫ですか

2020-06-11 22:54:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
「短歌でもいかがでしょうか」誘惑のワゴンが通る17号車


単品は80円だたこ焼きと飲めばお安いなっちゃんオレンジ


せめて人たちに交じってチャンバラの真似事をする夢を見させて


続々と返却口に押し寄せるランチをとって職につく人


猫ですと言わんばかりに背を丸めミルクを舐める獣一匹


あたたかいおでんに触れて今すぐにガリガリ君はとけていきたい


眠りたい寝ても醒めてもいつまでも果てない夢の続きを食べて




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折句とデタラメ俳句モーニングセット

2020-06-11 07:04:00 | 川柳または俳句のようなもの
地球外
クイズ王にも
わからへん

血が流れ
靴にもなった
鰐の星

チコちゃんと
熊と野菜と
渡し舟

(折句「竹輪」俳句)
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口コミサイトとおもてなし

2020-06-11 06:47:00 | フェイク・コラム
 行き当たりばったりで失敗するのが怖いから。リスクを避けようと思えば口コミサイトは便利だ。そこに書かれていることが客観的事実であるとは限らない。それでもたくさんの声が集まれば相当な説得力がある。あるいは、ほんの一握りの興味深い感想に心が動かされることがある。
 飲食店であれば当然、料理のこと、味に関することが中心に書かれていると思ってみると、案外そうでもない。みんな意外に細かいことを気にしている。店の雰囲気とか店主の人柄とか、中でも多いのは接客に関することで、不快な気分になったとあれば、その点について容赦ない口振りで書き込まれている。「どうなってんだ。ありえないよ。二度と行くか」という調子だ。ネガティブな声が連続してみえれば、それを無視することも決断がいる。


「いくら味がよくても……」

 初めての店に入るのはある意味とても勇気のいることだ。
 座席も料金システムも店主の顔もお手洗いの場所も何もわからない。まともな店であるという保証はどこにもない。
 初めてのドアを潜った瞬間、そこは圧倒的なアウェー空間である可能性がある。
「いらっしゃいませ」
 もしもその一言が、どこからも聞こえてこなかったら……。その時、あなたは平然といられるか。

 何も言わず勝手に店の奥に入り席に着いてしまうというのは一つの賭けである。そのまま放置されてしまう可能性もある。あるいはそこは本来かけてはならない席である場合もある。賢明なあなたならもっと別の手段を考えるだろう。全身にクジャクの羽をまとい、どこからでも目立つようなオーラを発散してみる。それでも駄目なら店の入り口で後ずさりして、何度も出入りを繰り返してみる。自分から「ごめんください」と声を発するのは何か違う気がする。しばらく様子をうかがう内に「いらっしゃいませ」と店の奥から元気にお出迎えの声が聞こえてくるなら、その店はまだよい店ではないだろうか。


「入店に気づいてもらえない。肩を落として帰る人々」

 もしもそれでもなお歓迎されない場合、黙って帰るというのは無難な選択だ。はじめに躓いた店は、その後のサービス全般において、安心できない。


「おもてなしは入り口から始まっている」

私たちはただおにぎりを買いにコンビニに行くのではない。
私たちはただコーヒーを飲みにカフェに行くのではない。
私たちはただカレーを食べにカレー屋さんに行くのではない。
私たちはただ本を借りに図書館に行くのではない。


「私たちは何をしにそこに行くのだろう」

 私たちはただ美味しいものを食べたくて出かけて行くのだろうか。勿論それもあり、単に空腹が満たされればそれでいいという場合もあるだろう。だが、それだけではない。


「せっかくならば大事にされたい」

 ただ外に出て食べるのが外食ではない。


「外食、それは人と人の出会い、人と人との触れ合いだ」

 私たちはどこにいても、できれば自分という存在に気づいて欲しい。できれば「よくきたね」と言って迎え入れて欲しい。できれば暖かくして欲しい。できれば大事にして欲しい。


「美味しいものなら自分でも作れる」

 味や量、栄養のバランスについて考えるなら、自分で作った方がすべて自分好みにできてしまう。
 外食は、美味しいだけでは満足できない。
 私たちは食べ物だけを求めてそこに行くのではない。店の空気を楽しむために、もてなす人に会うために足を運ぶのである。


「テイクアウトしてみよう」

 持ち帰ることができるなら、何もわざわざ店の奥にまで入る必要もない。
 ほんの少し店の雰囲気を味わい、おもてなしの心に触れる。それでも十分だ。
 さあ、うちへ帰ろう。
 その方が財布にも優しい。

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風呂敷ファンタジー

2020-06-11 05:10:00 | ナノノベル
 モチーフを散らして軽い気持ちで風呂敷を広げた。端っこを猫がくわえて引っ張った。伸びちゃうよ。猫が猫を呼び猫好きを呼び、猫好きが猫を呼んだ。猫好きの周りに家が建ち、商店街ができ、街ができ、地域のコミュニティができた。話をまとめるには風呂敷を包まなければならないのだが、だんだん手に負えなくなっていく。宇宙人が訪れて歴史を語り始めた。風呂敷中央にAI政府が立つと風呂敷は自立して膨らみ始めた。

「最初に置いたのは僕だよ」
 なんて誰が耳を貸すものか。
 ここに僕の居場所はない。
 僕は口笛吹いてふるさとを捨てた。
(また新しい風呂敷を広げればいいさ)

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