まだ大河ドラマをやっているような時間なのに、フードコートには網がかけられている。宣言が解除されても、すぐに元の日常は戻ってはこない。僕は網をかき分けて、フードコートの中に入ろうとした。もう終わりだと警備の人に制止される。
「中に人が!」
閉めるのなら先に状況を確認しないと。
彼には何も見えていないようだった。
「見えないんですか。あそこに!」
以前にも見かけたことがある。
おばあさんはキャンバスを広げて猫を描いていた。
「今日の内に描いておかないと逃げてしまうのよ」
手元しか見えていないようだった。
「もうここは閉まるみたいですよ」
もう完全に閉まっている。
「ご親切にどうも」
(目玉を入れたら終わりにするわ)
その時、フードコートの明かりが消えた。
「おばあさん?」
おばあさんは消えた。
静寂の中に猫の瞳だけが光っている。