夫のことを他人様の前で話題にする、もしくは呼ぶ際に、一度たりとも“主人”と呼んだことがない。相当な跳ねっ返りなのかもしれない(いや、そうなのだろう)。あくまで私にとって夫は主人ではなく、配偶者であり、連れ合いである。だから夫、である。
そんな私が生まれて初めて奥様同伴で、という夫の会合に同席することになった。
我が家では私は“奥”様なんて存在ではない。奥に控えて内助の功などということは30年近くやってきた覚えがない(威張っていうことではないだろうが・・・)。息子が家を出てからは、あちこち好きなところを飛び回って、さながら“外”様といった感じか。かえって再発後から今日まで、夫の内助の功でうんと支えられているのが実態だ。
その夫が、長年の仕事としてきた分野で功労者として表彰して頂けることになった。最初、白封筒を見せて「奥様同伴っていうけど、休めないよね、行けないよね?」と夫から問われた。うーん、その週は母の介護休暇も取得するし、どうしようかしら・・・と迷ったのだけれど、こんなことは一生に1度あるかないかのこと、これまでの不義理を詫びるつもりで、思い切って休暇を頂いて同行することにした。
せっかくだから、と調子に乗って、ブラウススーツとバッグ、靴も新調した(夫にはこれが目当てだったかと言われている。)。夫も(では、と口封じのために)先日百貨店で誂えたスーツをお召しになることになった。夫のふるさとの言葉を使えば、夫婦揃って、普段はありえない平日に“じょなめて”のお出かけであった。
ところが、昨日の昼食辺りから俄然体調不良になった。昼食はあまり食欲がなく、なんとか少しだけお腹に入れたけれど、席に戻ってからは生唾が出るわ、生あくびが出るわ、気持ち悪く怠く、たまらない。前日に休暇を取っていたせいでメールも仕事も結構溜まっていて、午前中かなり根を詰めて仕事をして疲れたせいか。休薬の最初の数日は服薬中よりも却って体調が悪いのはいつものことなのだけれど。なんとか夕方、定時までやり過ごし顎を出しながら帰宅した。
それでも帰宅すれば生協のお届け物はあるし、洗濯を取り込んで畳まなければいけないし、食事の支度も、とやることは山積。あれこれやっているうちに夫が帰ってきて、途端にガックリきて、火にかけた料理もあとは宜しく…私は食べられません、になってしまった。
全く食欲がなく、吐き気が酷い。ソファで横になって夫が食事をするのを横目で見る。昼も軽かったので空腹には変わりない。それでも生唾が止まらないし、無理に入れたらまた嘔吐になりそう。空腹のせいで胃は痛くなってくるし、下腹部はゴロゴロしてきてお腹も調子が悪い。何も食べないと薬も飲めないし、とドンペリドンを飲んで少しだけ夕食を摂り、早々に入浴してベッドに入った。
夜中に2度お手洗いに起きたけれど、嘔吐と下痢にはならずにほっとした。いつもより早く起床。やはり身体が重い。朝食もこわごわ頂く。
都内横断なので長丁場。慣れない朝の通勤電車でずっと立っていく元気はとてもないので、2駅先の駅からの始発に乗って座って行こうと言うと、夫がこの電車なら途中で絶対座れるから、という電車に乗った。ところがどっこい、確かにポツポツと空いた席はあったが、私たちの前はさっぱり。結果的に地下鉄乗り入れ駅までの小一時間全くの立ちん坊。夫にブツブツ文句を言いつつガックリ項垂れ、地下鉄乗換駅で始発に乗り換えて30分弱。会場最寄り駅に到着した。
いいお天気。真っ青な空、秋晴れの快晴である。駅に到着して楽なカバさん靴から黒のヒールに履き替える。
会場前は、開会30分前というのに既に人混みで凄いことになっている。各県の垂れ幕やらのぼりやら賑やかだ。全国各地から1,000名を超す人たちが集まっているという。
早速、夫がいつもお世話になっている職場の方たちにご挨拶、広報担当の方から夫と一緒に看板前で記念写真を撮って頂き、受付へ進む。ロビーの人混みの中、あちこちで夫から「○○の○○さん」などと紹介され、ずっとお辞儀。到着するまでに既に疲れ果てていたから、かえって大人しそうに見えて良かったのかもしれない。
指定席は中央の前方でまさにS席。定刻に式典が始まり、大臣や会長挨拶の後、大臣表彰、会長表彰と続く。
人数が多いので表彰状授与は代表の方お一人だったけれど、巨大なスクリーンに各都道府県の受賞者の名前が映し出され、なかなか壮観だった。
各賞ごとに該当者が起立。横で夫が立って、なんとなく誇らしいようなくすぐったいような。
大臣やら議員やらの来賓祝辞が終わり、2時間の式典が無事終了。
食堂で和食のお弁当を頂き、夫の知人と一緒に写真を撮ったりしているうちに午後の観劇会開始の時間に。観劇会は某人気歌手のお芝居と歌謡ショーがセットになっている。昨夜と今朝の体調を見て、食事をしたらさっさと帰らせてもらおうと夫が言っていたのだけれど、ドンペリドンを飲んでお弁当もそこそこ頂けて気持ち悪さも軽減。折角だから、とひとまず観劇させて頂くことになった。
役者さんたちの台詞が受賞者たちに大サービスだったし、劇より歌が本職だからか、後半の歌謡ショーも派手な演出で光と音、ご本人の強靭な喉に圧倒された。ご本人はいつも妙齢の女性たちから○○くーん♡と黄色い声で呼ばれるのに慣れているのに、今日は男性がやたら多くて、最初は戸惑っていた様子。それでも最後は皆で大きな拍手で幕が閉じた。
会場にいたのはなんと7時間近く。そこから再び最寄り駅まで延々と帰ってきた。それでも今度はちゃんと席を確保していたので、本を読んだりウトウトしたり。
最寄り駅に到着したのは普段仕事が終えて帰宅する時間より遅くなり、すっかり真っ暗だったけれど、夫もお友達とのグループLINEに「妻が同行してくれていい思い出になりました」などと打っていたので、まあ良かった良かった。
帰宅後は洗濯して簡単な食事を作って、さあ、あと1日頑張ればようやく予定のない土日である。もうひと踏ん張り。
ゲゲゲの女房ならぬゲゲゲの“奥様”同行の木曜日であった。