いか@ 筑豊境 寓 『看猫録』

Across a Death Valley with my own Distilled Resentment

流浪と近代、そしてそのゆくえ...、なにより、隠れ家

2011年07月24日 19時51分10秒 | 欧州紀行、事情

  

『近代ヨーロッパの誕生』という題は結構大胆なのではないべか、とおいらは思った。経済史学的考察である。経済だけで近代の誕生を語ろうとしているのだろうか?と思った。さては、経済バカのすとつばす当たりの御出自かと邪推した。そうしたら、同志社大学と記してあった。

本ブログのお品書きに、「―近代の成立とゆくえ」と"大胆"にも書いてある。6年も前のことだ。若かった。

そして、この本の帯には書いてあることによれば、「近代」はオランダで生まれたらしい。「―近代の成立とゆくえ」と言っていたわりには、あまり自覚なし。オランダには少しは縁がある。あのやたら荷物を背負う家族が忘れられない。その縁というのは、the West and the restの縁だ。世界の田舎者はことを成すには the West に詣でなければいけないのだ。acrossing the death valleyの本義も冒険的資本主義にその起源がある。文明を進歩させるのは「冒険」である。よろしくその開祖に詣でるべし、ということだ。もちろん、過去のことばかりではなく、今でも世界の田舎で"死の谷渡世"でがんばっているものどもは、未来のために集るのだ。"近代生誕"の地、オランダに。

●そして、昨日気付いたよ。スピノザがセファルディだってことを。セファルディとはユダヤ人の中で、イベリア半島に逃れて住み続けていたグループ。アラブ支配下のイベリア半島では生存権はもちろんアラビア支配者に仕え共存していた。しかし、キリスト教徒のレコンキスタ(領土奪還運動)の結果、イベリア半島(スペイン、ポルトガル)から事実上迫害、追放される。

スピノザが、ユダヤ教コミュニティーから破門されたってことは知っていた。スピノザのエピソードと言えば、破門かレンズ磨きだよ。

で、スピノザの生涯は、1632-1677年。上記『近代ヨーロッパの誕生』ではウォーラースティンを引いて、"一六二五年から一六七五年をオランダがヘゲモニーを握った時代だと指摘した"、とある。

つまりは、スピノザの生涯はオランダが世界制覇をしていた時代とドンピシャ重なるのだ。知らなかった。ちなみに、われらが政宗公は1614年にスペインとの通商、そして同盟を野望していた(愚記事;大泉光一、『伊達政宗の密使』、あるいは王と坊主の同床異夢の野望の果てに )。今から見れば、斜陽のスペインの"札"を買おうとしていたことになる。独眼龍も案外まぬけである。

で、スピノザのセファルディ問題に戻る。イベリア半島から迫害されたセファルディの一グループは、迫害をまぬがれるためキリスト教に改宗した。しかし、その改宗は表面的なものであったとされ、さらに迫害された。具体的には異端審問裁判で迫害された。カスティリア王国のイザベル女王時代。このキリスト教の改宗したセファルディを「マラノ」と呼ぶ。意味はスペイン語で、「豚」。

1492年のアルハンブラ勅令でユダヤ人(マラノ)はイベリア半島から追放。マラノの移住先が、トルコ、北アフリカ、イタリア、オランダなど。だから、スピノザとデリダは生き別れたマラノの末裔ということだ。で、追放されたセファルディの最大の移住先がオランダ。1590年代からユダヤ人社会を作りはじめたらしい。そして、元もとのユダヤ教に再改宗した。スピノザはそういう状況で生まれた。

事情は実はもう少し複雑である。アシュケナジー系ユダヤ人。セファルディがイベリア半島にいたユダヤ人なら、東欧にいたユダヤ人が、アシュケナジー。シャガールがそう。そのアシュケナジーも17世紀初頭のオランダ、アムステルダムに移住してきた。そして、ユダヤ教に再改宗したセファルディは、ユダヤ教をアシュケナジーに習った。理由は、セファルディ社会ではユダヤ教の伝統が途絶えていたから。一方、世俗では元来スペインで商人だったセファルディがオランダもの裕福で、アシュケナジーとは上下の階層ができていた。

若いころ徹底的にユダヤ教をアシュケナジーから学んだ、セファルディであるスピノザが、のち破門される背景には、こういう事情があったそうだ、ということを昨日まで知った。

▼さて、「近代」はなぜオランダで生まれたのか?という上記『近代ヨーロッパの誕生』に、セファルディ商人の活躍が書いてあるのかは、これから読んでみる。そして、本記事のスピノザに関する情報は工藤喜作、『スピノザ』である。ところで、よく本出てるスピノザ像は、ハーグにあるもの。

でも、アムステルダムにもあるらしい。

■あと、全然話が変わって、ロシアのサンクトベテルブルグにあるエルミタージュ美術館の"別館"というのが、なぜかしら、アムステルダムにあるとのうわさ。エルミタージュの意味は隠れ家だ。謎だ。(関連愚記事;エルミタージュに行きたい-のか?!