(1)大津市いじめ問題
(a)この問題は、日本の教育行政の根本に関わる。国民に対して、学校教育に関する責任を誰が負っているかが明確でないのだ(事の本質)。
①日本では、学校の管理運営の権限が、基本的に自治体の教育委員会によって独占されている。自治体の長や保護者などが、学校運営から事実上排除されている。知事や市長は、教育に関してほとんど口出しできない。
②一方、文部科学省の官僚は、法律に基づいて自治体の教育行政に関して助言指導ができる。知事や市長以上に強い権限を有する。
③教育委員の多くは、通常、教師OBで、自治体の役人幹部が含まれる。教育長には自治体の役人がなる例が多い。教育委員には強い身分保障があり、かつ、議会の同意がない限り、罷免されない。住民のために働かなくても、住民に対して責任を負う仕組みになっていない。
(b)住民の立場から見ると、日本の教育システムは、自分たちが選挙で選んだ自治体の首長が子どもたちの教育について責任を負えない一方、教育委員会(教師と役人で構成される)と文科省とその官僚(自分たちの地域と何の関係もない)が地域の学校教育を取り仕切るシステムだ。
(c)教育委員会(教育に関して強大な権限を独占する)が、文科省(教師と役人の保身の組織)の御用機関であるという構造が何を引き起こすか。今回の大津市の事例を引き起こした。
①教育委員は、教師と役人の保身のため、いじめの存在、いじめと自殺との因果関係の存在を隠そうとする。
②<①の典型例>アンケートの中に、自殺につながるいじめの存在が指摘されていたのに、それを「見落とした」(言い訳)。
(d)教育委員会の問題は、それをサポートしている事務局=自治体の役人の問題でもある。
①事務局の役人が、「保身と隠蔽の文化」を生み出す。
②役人の性向は、とにかく訴訟などの問題が起きることを極端に嫌う。
③今回のアンケートでも、集計結果を整理する段階で、重要な情報が抜け落ちた(推定)。
(e)市長と警察の対応にも問題があった。
①市長は、今年3月に事件のあった中学校の卒業式に出席し、涙ながらに自らのいじめ体験を話したが、その後十分な対応をしていない【注1】。
②市長は、選挙で連合の支援を受けた。市長が介入すると、教職員組合の反発を招く、と事務方にアドバイスされて対応が遅れた可能性はないか。
③警察は3回も被害届の受理を拒否した。
④いじめ問題がマスコミで大きく報道されると、市長は自殺との因果関係があると発言した。警察も慌てて専従捜査チームを立ち上げた。
(f)市長は敏感に反応したが、教育委員会や文化省の反応は鈍い。
①市長は、市民の「悲しみ」と「怒り」に敏感に反応した(パフォーマンスのみ、との批判はある)。
②教育委員会は、未だに保身に汲々としている【注2】。
③文科省も具体的な行動に出ない。
(g)(f)からすると、住民の選挙(審判)を受ける自治体首長に、教育に関するより大きな責任を負わせる仕組みを作っていくべきだ。
(h)今は、「教育に政治的介入を許すな」より、「教育を教師と役人から住民の手に取り戻せ」を重視すべきだ。
(2)原発事故
(1)-(d)-①/②は、原発の安全問題でも全く同じだ【注3】。「保身と隠蔽の文化」は、事務局の役人が生み出す。
【注1】5月に始まった裁判で、市側は「いじめが自殺の原因か断定できない」と争う姿勢を示した。裁判は総務部案件だが、最終チェックは当然市長が行っている。【記事「ハーバード大卒の才媛 越直美市長「涙のパフォーマンス」に遺族側も不信感」(「週刊文春」2012年7月26日号)】
【注2】7月12日の緊急保護者説明会で、前日の警察による強制捜査について、澤村憲次・教育長は愚痴から始まって頓珍漢なことばかり言った。続いた校長も何を言っているのかサッパリ分からない。会場には「撮影録音禁止」という張り紙があって、この期に及んでまだ隠蔽体質が改まっていない。出席した保護者の一人は「あなた方は滋賀県の恥です」と激高した。【記事「大津中2いじめ自殺 新聞・テレビが報じない全真相」(前掲誌)】
【注3】例えば、「【原発】秘かに進行する全原発再稼働計画」「【原発】非公開会議による報告書の書き換え ~核燃料サイクル~」。
庶務権については、「【官僚】政策立案の成功が続く最大のからくり ~審議会システム~」。
以上、古賀茂明「大津市いじめ問題と原発事故の共通点 ~官々愕々 第27回~」(「週刊現代」2012年8月4日号)に拠る。
↓クリック、プリーズ。↓
(a)この問題は、日本の教育行政の根本に関わる。国民に対して、学校教育に関する責任を誰が負っているかが明確でないのだ(事の本質)。
①日本では、学校の管理運営の権限が、基本的に自治体の教育委員会によって独占されている。自治体の長や保護者などが、学校運営から事実上排除されている。知事や市長は、教育に関してほとんど口出しできない。
②一方、文部科学省の官僚は、法律に基づいて自治体の教育行政に関して助言指導ができる。知事や市長以上に強い権限を有する。
③教育委員の多くは、通常、教師OBで、自治体の役人幹部が含まれる。教育長には自治体の役人がなる例が多い。教育委員には強い身分保障があり、かつ、議会の同意がない限り、罷免されない。住民のために働かなくても、住民に対して責任を負う仕組みになっていない。
(b)住民の立場から見ると、日本の教育システムは、自分たちが選挙で選んだ自治体の首長が子どもたちの教育について責任を負えない一方、教育委員会(教師と役人で構成される)と文科省とその官僚(自分たちの地域と何の関係もない)が地域の学校教育を取り仕切るシステムだ。
(c)教育委員会(教育に関して強大な権限を独占する)が、文科省(教師と役人の保身の組織)の御用機関であるという構造が何を引き起こすか。今回の大津市の事例を引き起こした。
①教育委員は、教師と役人の保身のため、いじめの存在、いじめと自殺との因果関係の存在を隠そうとする。
②<①の典型例>アンケートの中に、自殺につながるいじめの存在が指摘されていたのに、それを「見落とした」(言い訳)。
(d)教育委員会の問題は、それをサポートしている事務局=自治体の役人の問題でもある。
①事務局の役人が、「保身と隠蔽の文化」を生み出す。
②役人の性向は、とにかく訴訟などの問題が起きることを極端に嫌う。
③今回のアンケートでも、集計結果を整理する段階で、重要な情報が抜け落ちた(推定)。
(e)市長と警察の対応にも問題があった。
①市長は、今年3月に事件のあった中学校の卒業式に出席し、涙ながらに自らのいじめ体験を話したが、その後十分な対応をしていない【注1】。
②市長は、選挙で連合の支援を受けた。市長が介入すると、教職員組合の反発を招く、と事務方にアドバイスされて対応が遅れた可能性はないか。
③警察は3回も被害届の受理を拒否した。
④いじめ問題がマスコミで大きく報道されると、市長は自殺との因果関係があると発言した。警察も慌てて専従捜査チームを立ち上げた。
(f)市長は敏感に反応したが、教育委員会や文化省の反応は鈍い。
①市長は、市民の「悲しみ」と「怒り」に敏感に反応した(パフォーマンスのみ、との批判はある)。
②教育委員会は、未だに保身に汲々としている【注2】。
③文科省も具体的な行動に出ない。
(g)(f)からすると、住民の選挙(審判)を受ける自治体首長に、教育に関するより大きな責任を負わせる仕組みを作っていくべきだ。
(h)今は、「教育に政治的介入を許すな」より、「教育を教師と役人から住民の手に取り戻せ」を重視すべきだ。
(2)原発事故
(1)-(d)-①/②は、原発の安全問題でも全く同じだ【注3】。「保身と隠蔽の文化」は、事務局の役人が生み出す。
【注1】5月に始まった裁判で、市側は「いじめが自殺の原因か断定できない」と争う姿勢を示した。裁判は総務部案件だが、最終チェックは当然市長が行っている。【記事「ハーバード大卒の才媛 越直美市長「涙のパフォーマンス」に遺族側も不信感」(「週刊文春」2012年7月26日号)】
【注2】7月12日の緊急保護者説明会で、前日の警察による強制捜査について、澤村憲次・教育長は愚痴から始まって頓珍漢なことばかり言った。続いた校長も何を言っているのかサッパリ分からない。会場には「撮影録音禁止」という張り紙があって、この期に及んでまだ隠蔽体質が改まっていない。出席した保護者の一人は「あなた方は滋賀県の恥です」と激高した。【記事「大津中2いじめ自殺 新聞・テレビが報じない全真相」(前掲誌)】
【注3】例えば、「【原発】秘かに進行する全原発再稼働計画」「【原発】非公開会議による報告書の書き換え ~核燃料サイクル~」。
庶務権については、「【官僚】政策立案の成功が続く最大のからくり ~審議会システム~」。
以上、古賀茂明「大津市いじめ問題と原発事故の共通点 ~官々愕々 第27回~」(「週刊現代」2012年8月4日号)に拠る。
↓クリック、プリーズ。↓