語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>ヨウ素剤配布をサボったのは誰か? ~国と福島県のヘンな対応~

2011年10月17日 | 震災・原発事故
 3月13日10時46分、原子力安全委員会事務局は原子力対策本部事務局へ1枚のファクスを送信した。
 放射性ヨウ素の被曝による甲状腺癌を防ぐため、一定線量の被曝の可能性のある者に非放射性の安定ヨウ素剤【注1】を服用させたほうがよい。「なお、ヨウ素剤の服用について小児に対しては防災マニュアルを参見の上、ヨードシロップを服用させること。また、40歳以上のヒトについては本人が希望する場合に限って安定ヨウ素剤を服用させること」【注2】【注3】

 だが、対策本部は何もしなかった。
 福島第一原発周辺などの住民のごく一部はヨウ素剤を服用したが、それは自治体、住民の自主的行動だった。
 仮に、対策本部が即応して福島県に指示し、かつ、住民が服用していれば、1号機の爆発(3月12日15時36分)には間に合わずとも、3号機の爆発(14日11時1分)、4号機の爆発(15日6時頃)、2号機の何らかの破損(15日6時10分頃)による大量の放射性物質の飛散には間に合ったはずだ【注4】。

 都筑秀明・安全委事務局管理環境課長は、送信した証拠としてファクスを提示する。
 他方、松岡建志・経産省原子力安全・保安院原子力防災課長/原子力対策本部事務局は、いくら調べても受け取ったと確認できない、という。
 そして、現在に至るまで2課長の対立は解消していない。
 8月26日、今後の原子力防災対策を再検討する安全委のワーキング・グループ第3回で、被爆者医療専門家がこの問題を追求したが、対策本部の出席者は何も答えられなかった。真相は闇の中だ。

 実は、対策本部も3月16日10時35分に、福島県知事に「避難地域(半径20km圏内)からの残留者の避難時には安定ヨウ素剤を投与」と指示している。服用者を狭く絞っているが。
 しかし、馬場義文・福島県地域医療課長によれば、この指示を国の原子力災害現地対策(県庁内に設置)から県が受けたのは18日だった。その時はすでに20km圏内からの避難は終わっていた。結局、安定ヨウ素剤は使われなかった。
 この説明をする馬場課長は、言葉が詰まったり、「それは言えない」と口を濁し、不透明さが拭えない。
 それでも県は、事故原発から半径50km圏内の26市町村に限るものの、ヨウ素剤の配布だけはした。そのうち自治体の自主的判断で実際に住民がヨウ素剤を飲んだのは、三春町と、原発事故以前に配布済みだった原発周辺自治体からの避難者の一部にすぎない。

 三春町で、自分の測定器で大気中の放射線量を測定していた元高校教諭によれば、3月15日は8μSv/時だった。高濃度の放射性雲が東風によって町の上空を通り、相当量の放射性物質が雨とともに降下した、と推定される。
 三春町当局は、住民の健康を守るべく、機敏に対処したのだ。
 ところが、3月15日、工藤浩之・三春町保健福祉課長と福島県職員X(特に職氏名を伏す)との間で次のような電話のやりとりがあった。
 Xは、三春町が安定ヨウ素剤を住民に配布していることを工藤課長の口から確認し、詰問した。
 「何をやっているんだ。安定ヨウ素剤というのは医師が立ち会って使う薬なんだぞ。そして、(国の現地対策)本部からの指示があって初めて飲ませられる。誰の指示で(住民に)配っているのか」「回収してくれ」
 マニュアルには医療関係者が立ち会えばよい、と書いてある。工藤課長は答えた。保健師・看護師が立ち会っているし、もう飲ませているので回収できない・・・・。

 【注1】安定ヨウ素剤については、防災基本計画(災害対策基本法に基づき内閣府中央防災会議が作成する)の原子力災害対策編に定めがある。国、日本赤十字社、地方公共団体、原子力事業者が整備に努めるべきものの一つ。原子力災害対策本部長は、緊急事態の状況に応じて「必要な指示等を地方公共団体に対して行う」。地方公共団体は、一定の指標を超える放射性ヨウ素の放出やその恐れがあれば、「直ちに」その服用を指示しなければならない。
 【注2】2002年、原子力安全委員会原子力施設等防災専門部会は、「原子力災害時における安定剤ヨウ素剤予防服用の考え方について」をまとめた。最終決定に当たり、一般からも意見を募った。崎山比早子・医師/元放射線医学総合研究所主任研究官は、チェルノブイリ級の事故は日本で起きないとする「原子力村」の想定を「何の根拠もない」と一蹴し、ヨウ素剤服用を意図的に過小評価し、使用を抑制しようとしている、と厳しく批判している。<例>甲状腺癌発生リスクとヨウ素剤副作用リスクを同列に並べている。ヨウ素剤投入の目安となる被曝予測線量を大人と小児を同じにしている。放射性ヨウ素を取りこむと同時か事前に服用すべきところを、家庭・幼稚園・学校・避難所などに前もってヨウ素剤を常備することを止めている(諸国では逆)。
 【注3】ヨウ素剤服用に消極的な原子力安全委員会(【注2】参照)ですら、ヨウ素剤服用を助言したのだ。
 【注4】安全委の試算によれば、3月23日現在、福島県内の少なくとも約10市町村では、24時間屋外にいた場合、甲状腺被曝量は100mSvを超えた。

 以上、長谷川煕(ライター)「消えた1枚のファクス」(「AERA」2011年10月17日号)に拠る。
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