語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【沖縄】見返りから“賄賂”へ 振興費を区へ直接支給

2015年10月30日 | 社会
 (1)沖縄で暮らしていると、常識やこれまでの経験とそぐわない事態に頻繁に遭遇する。
 しかも、それがいかにも堂々と行われるので、思わず「そんなこともありなのか」「仕方ない」と、たいした疑問を抱かずに社会に受け入れられてしまうこともたびたびある。

 (2)9月23日付け「産経新聞」は、「政府が、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設ををめぐり、辺野古の地元支援に乗り出す」旨を報じた。名護市の3地区(辺野古・豊原・久志)へ、政府が、
   ①地元住民と米軍キャンプ・シュワブ所属の米兵らとのイベント開催
   ②米兵の事故防止
   ③集会所の拡充・改修
--を実施するための振興費を直接支給する、というのだ。
 翌24日には、「沖縄タイムス」「琉球新報」も同様に報じた。

 (3)辺野古・豊原・久志の3区は名護市に55ある行政区の一部だ。
 本来は市を通して支給される振興費を、政府が直接、区へ支給するという。これについて、「産経」は「特例として初めて」と報じた。
 だが、これまでの常識と合わせると、復帰後、振興策漬けの沖縄でも「特例」で片付けられることなのかという疑念が湧く。なぜか。
  (a)財源があいまいだ。報道の当初、防衛省は基地周辺対策費からの支出を検討している、とした。しかし、同対策費の法的根拠「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」(環境整備法)は、本来、現存する基地や軍事訓練による影響緩和のための補填を目的とする。この点、今回の振興費は、まだ建設予定の新基地に対するものであり、法の目的になじまない。
  (b)振興費を受け取る側としての久辺3区の位置づけが不明瞭だ。環境整備法で唯一、新基地建設に対応する項目に
   「再編交付金」
があるが、交付金は支給先を自治体や地方公共団体と定める。つまり名護市への支給はあり得ても、3区は支給先になり得ない。
 これらの法の壁は政府も認識しているようで、9月25日、山口俊一・沖縄担当相は、
   「今の枠組みでは応えにくい」
と新たな予算措置を検討する考えを示した。ただ、たとえ新たな措置を作ったとしても疑念は残る。
  (c)そもそもなぜ久辺3区だけに「特例」が必要なのか。新基地建設予定地からの距離なら、久志(3区の一つ)と二見(3区に含まれない)は変わらない。
 中谷元・防衛相は、久辺3区に振興策を検討する理由を「地元の要望」(9月25日)とするが、1995年に建設計画が発覚して以来、政府が地元とみなして交渉してきたのは名護市だ。

 (5)基地に係る振興策は、従来、それ自体が公平な分配を基本とする税の常識からは異質で、「見返り」のそしりを受けてきた。
 政府や沖縄県が、基地と振興策のリンクをたびたび否定したにもかかわらず、少なくない国民の批判も、その異質さによるものだ。
 それでも何とか体面を保ってきたのは、振興費の支給先が県や市町村という「公」だからだが、それが今回「区」に変わろうとしている。それは、基地の振興策が「見返り」から“賄賂”まがいののもへと変質しようとしていることを指す。
 最大の疑問は、そんな事態の進行に、社会が黙していることだ。政府の「何でもあり」に国民が慣れてしまったら、その方が怖い。

□黒島美奈子「見返りから“賄賂”へ 振興費を区へ直接支給」(「週刊金曜日」2015年10月9日号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン



最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (武尊43)
2015-10-30 01:56:48
問題は法律的に瑕疵が有るかどうかで、名護市なりが裁判を起こし、違法性を問えるかだと思うのですが。
裁判を起こせれば内地のメディアももう少し取り上げるでしょう。一応東京新聞などは今回の件を取り上げていますが、影響度低いですからねェ、、、。
犬アッチいけまで取り上げる所まで騒ぎが大きくならないと世間様は気付かないだろうなぁ、、。
またそれを、そうしない為に籾井を犬アッチいけに押し込んだんですからねェ、、。そこから改変しないとならないので、中々難しい問題ですね、、。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。