語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【食】日本の玉ネギ生産を左右する米国モンサント社ら

2012年10月21日 | 社会
 (1)いま、農家が栽培している玉葱は、大部分がF1種(First Filial Generation、一代交配種)だ。
 F1種は、異なる2つの遺伝系統の両親から作られる雑種だ。雑種一代目は、形や味などの品質が均一にそろう。また、環境に対して抵抗力が強い「雑種強勢」も現れやすい。これを利用すれば、病気が少ない、生育が早い、収穫量が多い、など様々な利点を持つ農作物を人工的に作り出せる。
 F1種の見た目がよい野菜は、消費者に売れる。農家も、少ない労力で安定した収穫が得られるF1種を歓迎する。傷みにくいタマネギを開発すれば、輸送に便利だから流通業も歓迎する。
 かくて、従来の固定種タマネギは廃れ、大量生産に向くF1種が市場を席巻した。

 (2)だが、より需要の高いF1種を作るには、バイオ技術を含めた高度な掛け合わせ手法が必要になる。雄しべがなくて花粉を作れない(雄性不稔)など、自然界では淘汰される遺伝子さえ、人の都合で利用する。
 通常の農家仕事では取り扱い困難だ。
 そこで、各農家は、種作り専門の種苗業者からF1種の種を仕入れるようになる。しかも、F1種は一世代鍵rの特性があるから、農家が同じ野菜を作りたいなら、育てたタマネギから採種せず、再び種苗業者から種を購入しなければならない。永久に。

 (3)作物栽培の前提となる種の生産が、農家の手を離れてしまった。
 農家は作物を作るだけで、種苗業者が農家を牛耳るのだ。
 種苗業者は、大規模に作付けて、たくさん売れるものしか作らなくなる。

 (4)日本国内の種苗業者の多くが、F1種の交配と生産を海外に委託している。
 世界の種苗業界は、最大手で米国資本のモンサント社を中心に、競争の渦中にある。
 F1種を作るのにも、原種は欠かせない。各国の育種メーカーが持つ種と技術は、いま熾烈な買収攻勢にさらされている。
 現代の農業は、世界規模で進む「種を買う」システムの中で成り立ち、そこから後戻りできない。

 (5)「種を買う」システムから逸脱したタマネギを作るには、その種を農家は自分で採り続けるしかない。
 例えば、板東達雄、北海道入植者の5代目。祖父の代から100年以上、札幌の中心地から来るまで30分の距離の農場で、札幌黄のタマネギを自家採種してきた。今も。
 明治期、札幌農学校に赴任したブルックス博士が、それまで日本で作られていなかったタマネギを持ち込んだ。彼の指導で栽培が始まるタマネギ「イエロー・グローブ・ダンバース」は、札幌の農家を中心に作られ、札幌黄の名で道内、さらに全国へと広まった。国内のタマネギ生産の5割以上を占める北海道で、札幌黄は長らく生産現場を支えた。
 しかし、札幌黄は1970年頃をピークに、生産量が減っていった。代わって登場したのがF1種だった。
 大量生産に向くF1種は市場を席巻し、従来の固定種タマネギは滅亡寸前となった。

 以上、木村聡(フォトジャーナリスト)「たねを採る農業 ~満腹の情景 第10回~」(「週刊金曜日」2012年10月5日号)に拠る。
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