語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】バブル崩壊でファミレス進化 ~平成史(3)~

2018年08月03日 | ●佐藤優
 <佐藤/バブル崩壊がどこに行き着いたのか。最近テレビを見て気づいたんです。『東京タラレバ娘』だったんじゃないか、と。視聴率は10%ちょっとだけど、社会的な影響がとても大きかった。
 一言で言えば、タラレバ娘で描かれていたのは生活保守主義です。アラサーの登場人物たちは、高い理想を掲げつつも、仕事はおろか、結婚もできず。かといって、不倫はもちろん“セカンド”もダメ。それは30歳を過ぎたら生活や人生がどうなるか分からないという不安を抱いているからです。

片山/不況の中で育った若者たちは騙されていたと気づいたんでしょうね。自由だ、自由だ、と言われて、実は捨てられているのだと。そこで身を守る術を発達させる。夢より用心。不自由でも安全。

佐藤/ドラマでは居酒屋で支払っているのは3,000円以内。テレビではビールを飲んでいるけど原作の漫画ではホッピーだから2,000円程度で済ませている。

片山/いまの若者たちはお金も使わず、物も持たないとよく言われますが、バブル崩壊以前の戦後日本とはまったく価値観が違いますね。高度成長期にはお金を使って物を増やす。そうすれば誰かが構ってくれて結果オーライ。予定調和を信じられた。

佐藤/現実でも私の周囲の女性編集者や研究者は20代後半で駆け込み結婚しています。彼女たちは、男女雇用機会均等法や「女性の活躍」という言葉を冷ややかに見ている。
 驚いたのは、恋愛結婚はイヤだという女子学生が少なからずいること。付き合っている男はいるけど、男を見る目に自信がないから恋愛結婚したくないと言うんです。
 でも、よく聞いてみるとまた違う理由がある。知らない男を家に連れて行って親との軋轢が生まれるのがイヤなんです。

片山/驚くべき現実主義ですね。少しでも軋轢を減らし、リスクを逓減して少ないエネルギーで身を守ろうとする意識は本当に高い。その一方で、たとえば予備自衛官の訓練を受けている学生もいます。頭のいい大学院生は外国に逃げだしたり、国を論ずるのも国を守るのも他人事ではない。シニカルに批評してはいられない。結婚から国防まで、人を信じて任せていては危ないと思っているのです。そして国を見限る人もいる。
 彼らは、バブルを経験した世代、いや、高度成長を当たり前と思った世代とはまったく違う価値観で生きています。

佐藤/しかし現代の若者の価値観もバブルを抜きに考えられません。バブル崩壊の結果、サイゼリヤなどのファミレスで、安価でそれなりのレベルの食事ができるようになった。コンビニを含めた食の幅も広がっていった。
 今の学生を見ていると、とにかく目の前のことだけに一生懸命になっているように見えます。たとえば、塾の講師のアルバイトを一日4時間、週6回やって年に200万円稼いでいる学生がいたとします。彼はそれでいいと満足している。
 でも、私は改めて考えてみろと言うんです。今から外交官試験を受けて外務省に入ってごらん、と。研修を終えて数年すれば、年収は1,000万円を軽く超える。彼は週6回のバイトに追われて、機会費用(得られたはずの利益)を失っている。そこまで言わないと、気づかない。

片山/今がすべてという日本古来の中今(なかいま)論(*15)にも通じますね。刹那主義とも言える。若者には今がよければいいという側面と、5年、10年先を考えても意味がないと諦めている側面の両面があるのでしょう。

佐藤/児童心理学では、3歳児や4歳児は、今かそれ以外という時間認識しかないそうです。それに似ている。

 【脚注】
 *15-中今論
  過去と未来の真ん中に位置する「今」を示す、神道における概念。遠い過去から未来にいたる間としての現在を賛美する意味で使われることが多い。>

□佐藤優/片山杜秀『平成史』(小学館、2018)の「第1章 バブル崩壊と55年体制の終焉/平成元年→6年(1989年-1994年)」の「バブル崩壊でファミレス進化」から一部引用

 【参考】
【佐藤優】モスクワから見た狂騒ニッポン ~平成史(2)~
【佐藤優】天皇が中国と沖縄を訪ねた意味 ~平成史(1)~
【佐藤優】『平成史』概要


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