語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】日本にとっての最大の危機は反知性主義だ ~『思考法』(6)~

2018年07月23日 | ●佐藤優
 <その後バチカンが何をやってきたか、同時進行的に何をやっているかと言えば、中国封じ込めですね。バチカンと中国は、いまだに外交関係はありません。台湾とは外交関係を持っています。バチカンは台湾のことはどうでもよく、中国との関係の調整を何度も試みてきました。しかし、中国政府は一点だけどうしても譲らないことがあります。それは高位聖職者の人事権。中国政府は、高位聖職者の人事権は中国の天主教愛国会が持っていると言う。これは共産党のつくったダミー団体です。プロテスタントのほうは三自(さんじ)愛国教会という団体があります。
 バチカンが外交関係を結ぶのはコンコルダート(政教協約)。通常の外交関係ではなくて、神様の世界の領域と世俗の人間の世界の領域を区別する条約です。神様との条約ですからバチカンにも絶対に譲れない点がある。それは人事権です。中国が人事権を認めないという理由で、外交関係が樹立できていない。これは、中国は世界の普遍的な価値を共有できない国だというキャンペーンに、バチカンが入ってきていることを示しています。
 ではなぜ、ベネディクト16世、ラッツィンガーは今回生前退位をしたのか。これは機構的には簡単なことです。ローマ教皇とは、会社で言えば代表権を持った社長と会長を兼ねた存在。それ以外は執行役員はいるけれど、専務も常務もいないというかたちです。執行役員会の決定は代表権を持っていませんから、代表の行動は規制できません。そういう会社で会長兼社長の健康状態が衰えてきたら、会社は何の決断もできなくなってしまいます。
 おそらく85歳のラッツィンガーは、自分の生物学的な生命はあと10年ぐらいはあるだろうと思った。しかし体力的な衰え、注意力・判断力の衰えが進むことはわかっている。そうすると、カトリック教会が停滞することは否めない。対イスラム巻き返し、中国封じ込めというバチカンの一連の世界戦略に支障をきたしてしまう。そうならぬよう、後継者を早く選ばないといけない。既にボードの枢機卿の半数以上が、ラッツィンガーになってから選ばれている人たちです。誰がローマ教皇になろうと、路線はもう変更しないことは明白。ならばより機動的に遂行するために生前退位が必要になったわけです。>

□佐藤優『思考法 教養講座「歴史とは何か」』(角川新書、2018)の「第四講 近代〈モダン〉とは何か」の「日本にとっての最大の危機は反知性主義だ」から一部引用

 【参考】
【佐藤優】対話によってイスラム過激派の脅威を解体していく ~『思考法』(5)~
【佐藤優】バチカンの大きな方針転換、「共産主義は敵」 ~『思考法』(4)~
【佐藤優】反知性主義の勃興 ~『思考法』(3)~
【佐藤優】AIに関連した宗教の具体例 ~『思考法』(2)~
【佐藤優】『思考法 教養講座「歴史とは何か」』の「新書版まえがき」

 


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