語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】二重ローン 得するのは銀行だけだ ~その対策~

2011年06月30日 | 震災・原発事故
 金融庁によれば、このたびの震災で直接の被害を受けた地域で、金融機関の貸し出しは総額2兆8千億円。大企業・中堅企業向け融資が1,800億円、中小企業向け融資が1兆4,300億円、住宅ローン9,400億円、その他自治体向けなどが2,300億円。融資件数や人数は、「調査していないのでわからない」(金融庁銀行二課)。
 住宅ローンと中小企業向け融資は、合わせて2兆4千億円程度。仮に一人あたり融資額を2,000万円とすると、約10万人が財産を失い、借金だけが残っている。救済融資を受ければ、「二重ローン」の暮らしが待っている。

 二重ローンが社会問題化したのは、阪神・淡路大震災だ。
 この時も救済策が議論されたが、債務減免の話はまとまらなかった。結果、債務者に自己破産や自殺が多発した。
 豊田和正氏、48歳、当時神戸市須磨区で靴のゴム底加工工場経営、は震災から15年以上たった今も二重ローンを抱えたままだ。
 16年前、地震で1階がつぶれた。隣の長田区から火がまわって、半年前に2千万円の融資を受けて建て替えたばかりの自宅兼工場は燃えた。廃業するしかなかった。避難所、仮設住宅、市営住宅を転々とし、緊急災害復旧資金融資500万円、生活復興資金貸付金350万円を借りて食いつないだ。自宅兼工場の返済が月263,000円。災害復旧資金融資は、10年据え置きだったが、生活復興資金の返済は翌年から月62,000円。昼は新聞のトラック配送、夜はマット工場。月325,000円を返済するため睡眠を削って働いた。15歳上の兄は、無理がたたり、99年に死去した。
 兄は、生前、元の自営業に戻ることを望んでいた。が、そこまでしても元の事業は復活できなかった。
 震災時31歳だった豊田和正氏は、婚約者との結婚を40歳まで先に延ばし、30代のすべてを借金返済に費やした。

 負債を抱えたマイナスからのスタートは、収入減や家族の病気などを引き金に被災者を自己破産へと追いこむ。

 「理不尽な負債」は、震災とは別の理由によっても生じる。
 会社員のH氏は、購入したマンションが耐震偽装物件だったばかりに、債権回収業者から約4,800万円の返済を迫られている。
 05年にヒューザーが売り出したマンション(神奈川県藤沢市)を買った。東京三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)提携ローンが付いていた。5,000万円、20年払いのローンを組んだ。1回目の支払いをした直後、耐震偽装が発覚。入居3週間だというのに、藤沢市から退避勧告が出た。マンションは取り壊され、区分所有の土地代金1,477万円がH氏に戻った。しかし、土地は担保に入っていたため、代金は銀行が押さえ、残る約3,500万円の負債をめぐって交渉が始まった。
 ヒューザーと提携してローンを売った銀行に責任はないのか、騙されたのは自分も銀行も同じだ・・・・とH氏は主張したが、銀行は冷たく突きはなした。「物件とローンは別。当方に責任はない」
 返済に応じなければ給与を差し押さえる、と迫ってきた。銀行子会社の債権回収業者が、H氏を東京地裁に訴えた。11年3月に出た判決は、銀行側の主張を全面的に認めるものだった。元金に年14%の延滞金利を上乗せして支払うことを命じた。消費者金融なみの延滞金利のおかげで、銀行は、争いが長引くほど回収額が膨らむ。
 H氏はいう。「何も悪いことをしていない私が耐震偽装の責めを負い、銀行は焼け太る。日本の制度は銀行に有利にできていることを思い知らされました」

 震災は被災者=債務者の責任ではないのに、借金の返済を免れるには現行法の下では自己破産しかない。債務減免のルールが早急に必要だ。【金融庁担当者】
 救済制度の整備のため、3党協議が始まった。
 が、ここでもネックは銀行だ。容易な債務減免は不良債権を増加させ、株主代表訴訟の対象にもなりかねない、と銀行は抵抗する。さらに、銀行には、債務減免した借り手には新規の融資を行わない、という原則がある。融資から締め出されたら、中小企業は生きていけない。

 (1)金融庁案・・・・(a)銀行と債務者が減免を協議。(b)不動産鑑定士らが作る第三者機関が減免の目安を算定する。(c)銀行・債務者が合意すれば決定。<問題点>銀行の同意がなければ話は進まない。
 (2)日本弁護士連合会案・・・・(a)裁定に拘束力のある特別調停機関を設ける。(b)「債権買い取り機構」を作る。(c)買い取り価格は調停機関が定めた金額に従う。(d)借り手は減額された債務を分割して支払う。<問題点>債務減免を受けた被災者は新規融資を受けられないおそれが残る。
 (3)椎名麻沙枝弁護士案・・・・融資機能のある「機構」を設立する。機構の買い取り価格と同額で債務者は自分の債権を買い取ることができる。この時、機構から同額の融資を受ければ、借り手は債務の減免も受けられ、不良債務者のレッテルを貼られなくて済む。
 その他、いろいろなアイデアが検討されている。銀行優位にできている今の仕組みをどう変えるか。震災は、この問いを政治に投げかけている。

 以上、山田厚史(編集部)「二重ローンで破綻する人生 得するのは銀行だけだ」(「AERA」2011年7月4日号)に拠る。

 なお、菅政権は29日、震災の被災企業が震災前に受けた融資を金融機関から買い取る「機構」創設の方針を固めた。政府の「中小企業基盤整備機構」(中小機構)が50%以上出資する。ただし、住宅ローンなど個人向け債権は対象外。買い取った債権は借金返済を減免ないし免除するほか、株式に換えて返さなくてもよくする。さらに、再建や事業継続に必要な資金を直接、企業に融資できるようにする(記事「債権買い取り「機構」設立へ 被災企業の再建支援」、2011年6月30日3時5分 asahi.com)。
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