語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【沖縄】をメディアはどう報道しているか(2) ~翁長知事の訪米~

2015年05月27日 | 批評・思想
 (承前)

 (6)4月17日、翁長知事と安倍首相との会談が行われた。その実態は酷いものだった。
 報道陣への約束は、両者がそれぞれ5分ずつ、冒頭発言を公開のかたちで行い、その後、非公開の会談を両者のみで行う、とするものだった。しかし、蓋が開いたら、
   ①首相が「辺野古移転が唯一の解決策」と強調、2分50秒発言、
   ②続いて知事が発言メモ4枚のうち2枚目を読みかけたところで、
   ③官邸スタッフが「報道、退室」と指示、
   ④知事は3分13秒しか話せず、
   ⑤会談30分のうち10分と予定されていた公開時間の4分近くが、メディアの前から遮断されてしまった。
 以上は、沖縄タイムス、翌朝一面トップの報道だ。
 在京の各紙は、「会談は平行線」が記事の柱だったが、沖縄タイムスの報道のほうが、よほど雄弁に、政府の不誠実さを伝えている。
 4月19日、TBS「サンデー・モーニング」がほんの一瞬映したが、記者たちが約束違反に怒ったり、抗議したりする様子は窺えなかった。不意を衝かれて旺然とする記者の姿が見えただけだ。
 官邸は、翁長・菅会談における知事冒頭発言の全文公開に懲り、ケチな奇策を弄し、それが功を奏した、というところか。

 (7)だが、翁長知事もポイントを稼いだ。訪米する首相に、オバマ大統領に沖縄県民の意向を伝えてほしい、と伝言を託したのだが、首相のあと、5月中にも訪米し【注4】、自ら米国の関係筋に辺野古移設計画の見直しを訴える、としている知事にとって、伏線として大きな実績となりそうだ。
 4月17日会談後の記者会見で「伝言」に係る質問に、官房長官は、「そう(引き受けたと)いうことでもなかったと思う」としか述べていない【注5】。
 これらの経緯全部が、訪米先で「沖縄県民の総意を大統領に伝えてくれと頼んだのに、首相がそうする気もないのだから、自分がやるほかない」といきさつを明かし、菅官房長官との会談における自分の発言内容を、現地各所で知事自身が直接説明して歩くことに、文句ない正当性を与えてくれる。

 (8)2013年12月、仲井真知事が沖縄振興交付金増額の約束を取り付け、政府の要請を容れて辺野古埋め立ての許可を承認すると、これに抗議する沖縄県民に応え、米国では、
 「世界の識者と文化人による、沖縄の海兵隊基地建設にむけての合意への非難声明--沖縄県内の新基地建設に反対し、平和と尊厳、人権と環境保護のためにたたかう沖縄の人びとを支持する」
とする文書が公表され、声明への賛同を求める動きが生じた。
 翌年1月7日付けの発起人による文書の末尾には、米国の文化人を中心とした28名の氏名が列記されていた。ノーム・チョムスキー、ジョン・ダワー、ダニエル・エルズバーグ、ノーマ・フィールド、ナオミ・クライン、ピーター・カズニック、ガバン・マコーマック、オリバー・ストーンなど、日本でもよく知られた人びとが顔を揃えている。
 リベラル派の底流が脈打つアメリカでは、翁長知事の肉声は大きな反響を呼ぶ可能性がある。

 (9)「イスラム国」対策に追われる米国では、国防省や右派が、日本の自衛隊が「有志連合」へ参加するのを切望、これに応えて安倍政権が集団的自衛権の解釈をねじ曲げ、改憲に突き進んでいくのを歓迎している。できるならば沖縄の基地もそのままずっと置いておきたいのも、そうした文脈の延長線上にあるものだ。
 しかし、オバマの米国は一方で、仇敵ともいえるキューバと和解し、あのイランとも協調への枠組みづくりに入った。
 数々の戦争における失敗に学び、もはや世界が戦争では解決できない問題を抱える時代になった、と米国は痛感しているからだ。
 日本では、最近の中国の脅威を重視し、中国へ日本の軍事的対応が必要になるときには米国が日本の側に立ってくれる、と信じる人が多い。しかし、米中両国とも、米中戦争など絶対に望んでいない。

 (10)翁長知事は、4月11日から15日まで、日本国際貿易促進協会(河野洋平・会長/元衆議院議員議長)の一行に加わり、中国各地を視察、李克強・首相ら要人、中国商務部、商工団体などと会談を重ねた。沖縄県のアジア経済戦略構想策定委員会会長、経営者協会会長なども一緒に。
 中国側には福建省に自由貿易試験特区を新設する計画がある。それを見越した知事は、李首相に沖縄特区との協力、福州~那覇間の定期直行便の開設などを要望した、という。
 このような動きは、(3)の冒頭発言を読むと、その必要性と可能性が実によくわかる。翁長知事は、李首相との面談において、450年も続いた琉球王国と中国大陸の交流史に言及し、沖縄が将来においてもアジアの懸け橋になりうる地政学的条件を有する点をアピールした、という。それは日本にとっても大きな利点になるものだ。

 (11)以上のような翁長知事の活躍に対して、不気味な動きが国内で生じ始めている。
 <例>「新聞・テレビが目を背ける沖縄のタブー 翁長知事を暴走させる中国・過激派・美人弁護士」--琉球独立を煽る中国共産党は翁長と河野洋平を熱烈歓迎、読者1,000人アンケートでは辺野古移設賛成67%、辺野古沖『抗議カヌ-』に革マル派が乗船していた!・・・・これらの惹句で「総特集第一弾!」を大々的に宣伝する「週刊文春」4月23日号の発売広告(4月16日、新聞各紙朝刊に出現)。
 殆どネット右翼的なネタ揃えだ。現にツイッターやブログなのでは、「翁長は中国共産党のスパイ」「公安の監視対象」「娘婿は中国共産党幹部の息子」など、あることないこと構わず、知事をめぐる誹謗中傷が氾濫している。それは殆どヘイト・スピーチに近い。
 このような雰囲気のなかで文春が翁長叩きに乗り出してきたやり方は、朝日バッシングと重なる。あのとき多くのメディアがこぞって朝日を叩き、売り上げ増進を図った。

 (12)「(翁長氏は)移設への理解を求める菅氏に、こう言い放ったという。『日本国の政治の堕落だ』。まるで反日を国是とする、どこかの国の指導者のような口ぶりである」【産経抄「敵は日本国?」4月6日】
 「『粛々に』には、『つつしむさま』との意味もある。(中国の)大歓迎を受けるであろうお二人(河野洋平・翁長知事)には、国益に反することなく、粛々とした行動をぜひお願いしたい」【同「粛々の正しい意味」4月9日】
 朝日バッシングで活躍した産経の一面コラムだ。
 辺野古問題は、日本の今後の行方を左右する大きなカギとして、私たちの前に置かれている。その正しい解決に資すべきメディアの役割が、今ほど切実に求められていることは、かつてない。この機を逃せば、今後あり得ない。

 【注4】5月27日から6月5日まで【社説「[翁長知事あす訪米]辺野古ノーの声を聞け」(沖縄タイムス 2015年5月26日)】
 【注5】記事「首相と翁長知事、平行線 辺野古移設「唯一」・沖縄県の声「米に」 初会談」(朝日新聞デジタル 2015年4月18日)

□神保太郎「メディア批評第90回」(「世界」2015年6月号)の「(1)「翁長知事冒頭発言全文」が日本に問いかけるもの」
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 【参考】
【沖縄】をメディアはどう報道しているか(1) ~翁長知事冒頭発言~
【沖縄】の今(2) ~日米同盟の再構築へ向けて~
【沖縄】の今(1) ~東アジアの中の琉球~
【佐藤優】【沖縄】キャラウェイ高等弁務官と菅官房長官 ~「自治は神話」~
【沖縄】辺野古対抗と「わが軍」 ~安倍政権の思考停止~
【沖縄】の今(2) ~日米同盟の再構築へ向けて~
【沖縄】の今(1) ~東アジアの中の琉球~

    



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