語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【フェルメール】《牛乳を注ぐ女》 ~『20世紀最大の贋作事件』~

2018年08月21日 | □旅
 「美術史上最も有名な贋作者」とされるハン・ファン・メーヘレンが、その師となるバルトゥス・コルテリングに出会ったのは公立高校に入学した日。コルテリングは絵の具についていろいろと語る。
---(引用開始)---
 「《牛乳を注ぐ女》はオランダが誇る最も偉大な画家の、おそらく最高傑作だ。にもかかわらず、使われた色は10色、多くても1ダースくらいのものだ。フェルメールのすごいところは、数少ない色彩を組み合わせ、ほとんど混色をせず、レーキ顔料とニス層を用いて現実を髣髴とさせるところにある」。
 コルテリングは指でベンチをなぞり、さまざまな鉱石の塊を手に取り、粘土を指に絡ませた。
 「鉛と錫からなる一酸化鉛をベースにして、フェルメールは、この鮮やかな黄色を生み出した。彼の描く影の部分が温もりを帯びるのは、未精製あるいは焼成済みの茶や赤のオーカー系顔料の賜物だ」。
 さらに彼は動物のかけらを手にした。
 「ボーン・ブラックは、象牙の削りくずを焦がしたもの。緑土色はセラドナイトから。そしてこれは・・・・」。
 コルテリングは金の線模様の走る荒削りの青い石を取り上げた。
 「これが、顔料のなかでも最も効果なウルトラマリンの原料となる石だ。ラピス・ラズリと呼ばれている。古代エジプト人が崇拝の対象としていた石で、東洋のごく数少ない鉱山でしか採れない。値が張るので、画家たちはこの色をめったに使わなかったが、フェルメールはアズライトよりも好んで用いた。宝石を描くときだけではなく、貧しい下層の人々の普段着を描くときにも使った。まさに彼の天才の証となる色だ」。
---(引用終了)---

□フランク・ウィン(小林頼子、池田みゆき・訳)『フェルメールになれなかった男 --20世紀最大の贋作事件』(『私はフェルメール--20世紀最大の贋作事件』として、ランダムハウス講談社、2007/後に『フェルメールになれなかった男--20世紀最大の贋作事件』として、武田ランダムハウスジャパン、2012/後にちくま文庫、2014)の「2 絵画の錬金術」から一部引用

 【参考】
【フェルメール】の青はどこから来ているか? ~『フェルメール 光の王国』~

 
 《牛乳を注ぐ女》(1657-1658年頃)


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