語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【環境】日本全土をむしばむ水銀 ~中国からの越境汚染~

2014年03月15日 | 社会
 (1)各種の物質は大気中で寄せ集まり、小さい粒子状の物質(Paticulate Matter)をつくる。わけても粒子径2.5μm以下の微粒子の濃度が、地球規模で高くなっていることから、各国や世界保健機関(WHO)はPM2.5対策に乗り出した。
 日本でも、国が2009年、PM2.5の基準を「日平均35μg/立米以下、かつ、年平均15μg/立米以下」と定めた。
 さらに、2013年2月、環境省は、PM2.5の濃度の日平均が70μg/立米超と予測される場合、各都道府県は、不要不急の外出を減らすなど住民に注意喚起を求める(「PM2.5注意報」)指針を定めた。

 (2)PM2.5の発生源は、工場、火力発電所、自動車などから排出されるガス、粒子状物質のほか、土壌、海塩、火山灰などだ。
 PM2.5の濃度が高まったとき、中国からの影響が大きい。【平岡英治・環境省官房審議官】
 これは今では常識だが、ほんの数年前までは常識でなかった。1990年代は、黄砂以外の大気汚染が中国から越境していると言っても、たいていは「そんなことを言っていいの」という対応だった。その後、中国は経済発展に伴って爆発的な環境悪化を招き、海を隔てた日本にも影響を及ぼすようになった。

 (3)PM2.5は呼吸器、循環器に作用し、脳卒中、心筋梗塞などのリスクを高める。
 国連環境計画(UNEP)は、世界の水銀排出量の3分の1の発生源は中国だ、とみている。
 PM2.5の中身の物質は多様だが、水銀は独自の浮遊物質として日本上空へ飛来してくる。
 2007年からの研究によれば、日本国内の山の水銀濃度が上昇したときは、例外なく中国からの気団がその山の方面を覆い通った場合だ。逆に、山の水銀濃度が低い日は、太平洋からの気団の影響下にあるときだった。【永渕修・滋賀県立大学環境科学部教授】
 <例>2012年10月、乗鞍岳一帯が大陸からの寒気団に覆われると、水銀濃度が0.5ng(ナノグラム)/立米から2.5ng/立米に急上昇した。伊吹山では、中国からの気団に包まれると、水銀濃度とともにヒ素やテルルの濃度も相関的に高くなった。
 ここから考えられることは、日本の大気の水銀の大部分は中国発で、それは概ね石炭の燃焼によって発生した。石炭には水銀、ヒ素、テルルなどの物質が含まれているが、中国の工場や発電所は、排煙の除去設備の導入が立ち遅れている。

 (4)中国から飛来した水銀の一部は、酸化されると雨に溶けて日本の地表や水面に沈着する。琵琶湖には、伊吹山地や周辺の山々から多くの河川が流れ込んでいる。プランクトンが取り込んだ水銀を、琵琶湖の生態系で食物連鎖の頂点に位置するビワコオオナマズが最終的に取り込む。
 かくて、体長1m前後のビワコオオナマズから、856μg/kgの、体長50cm前後の普通のナマズからも420μg/kgの総水銀が検出された。
 ちなみに、国は、魚介類にに含まれる総水銀の暫定規制値を0.4ppmと定めている。ビワコオオナマズは856μg/kg=0.856ppmだから規制値の2倍を超える汚染、ということになる。普通のナマズも420μg/kg=0.420ppmだから規制値を超えている。
 総水銀のほとんどは、メチル水銀で占められている。メチル水銀は水俣病の原因物質だ。
 水銀が中国から飛来し、環境中でさらに毒性の強いメチル水銀に変化している。国や自治体が各地に設置した計測器では水銀を測定していない。だから、この驚くべき事実は、永渕教授らの研究チームによって初めて明らかにされた。
 中国からの越境汚染が、日本全土の環境を確実にむしばみつつある。

□長谷川照(ライター)「中国から飛来する水銀」(「AERA」2014年3月17日号)
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