語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】プルトニウム輸送船の「日米密約」 ~原子力ムラの極秘工作~

2013年04月08日 | 震災・原発事故
 (1)動燃は、日本の原発などから発生した使用済み核燃料の再処理を、当初フランスに委託していた。
 1984年、フランスから日本へプルトニウムを運んだのは「晴新丸」で、日本独自の護衛はなく、公海上の護衛は米仏の軍艦が担った。これについて、当時の報道などでは「両国の独自の判断で自主的に警備した」と説明されている。
 しかし、「西村ファイル」がその内幕を明らかにした。
 <核物質防護対策の一部を構成する特別な援助を米国政府に依頼する場合であって、米国政府が日本側の依頼がもたらす特別な経費の支払いを請求する場合には、米側関係機関と協議のうえ、双方合意の経費を米側に支払うものとする>
 1984年5月15日に、米側からの問い合わせに動燃が答えたファックス(日英両語で併記)の文言だ。「機密(日英両語で併記)」の印が押されている。関連資料には「無期限秘」の印が押されたものもある。「独自の判断」どころか、日本側が依頼し、費用まで支払う「密約」があった。
 これを傍証するのは、1984年7月に動燃幹部と科学技術庁幹部らの打ち合わせメモだ。
 <日本側は要請するという立場をとらず、米側の自発的な対応としたいが、問題をこじらせる可能性あり>

 (2)1992から93年にかけて、同じくフランスから日本へ、原発100個分の材料にもなり得る1トンのプルトニウムを運んだのは「あかつき丸」だ。この時は、日米原子力協定等の改定により条件が厳しくなった【注1】。 
 佐々淳行は、米国との交渉を『後藤田正晴と十二人の総理たち』(文藝春秋、2006。後に文春文庫、2008)で回想録している【注2】。

 (3)「あかつき丸」による輸送は、輸送の主体となった動燃と科学技術庁によって徹底的に秘匿された。「核防護」を名目に、航路、航海の日程、到着港など一切の情報を隠し、船名すら公表しなかった。
 動燃と科学技術庁との打ち合わせメモには、幹部のこんな発言が残っている。
 <情報管理については、あくまで核防護の名を借りて実施しているもの>【科学技術庁原子力局長】
<まずは、国会対応よりマスコミ対応優先>【動燃理事長】
 動燃側の「情報統制」は、地元政治家や行政機関に対しても徹底していた。事前に情報を伝えるべき相手を「A」「B」の2つにランク分けをしていた。Aは「理解とご協力を得るため、積極的に説明する対象」、Bは「報道その他の情勢により判断し、適宜安全性等を中心とした説明をする対象」だ。要するに、バレてしまったら仕方なく説明するのがBだ。
 例えば、政治家では、Aは梶山静六・元官房長官/衆議院議員(自民党)や塚原俊平・元通産相/衆議院議員(自民党)、Bは大畠章宏・衆議院議員(社会党、現・民主党)。露骨な“与野党格差”だ。
 県議は自民党の6人だけが対象となり、Aは県連会長ほか1人、Bが4人。
 地元の東海村議にいたっては、正副議長や自民党系会派の会長ですらBで、Aランクは皆無。
 ランクは、全体として中央を優先し、地元に辛くつけられていた。
 警察庁、警視庁、海上保安庁はAなのに、周辺自治体の関連部署はB。茨城県警や茨城県漁連もB扱いだった。事故があれば最も影響を受ける人々に重要な情報を隠していた。

 (4)この極秘計画はしかし、フランス側が一定の情報を公開したことで、狂っていく。1992年11月27日には、読売新聞が「あかつき丸」の帰港先が茨城県・東海港だとスクープ報道。動燃が関係各所に説明に回ると、滑稽なやりとりが交わされた。
 県としては動燃から何も聞いていないことで統一する、東海村としても何も聞いていないことで通す、日本原子力発電は関知していないとの姿勢を通す、云々。
 地元自治体や電力会社は、知っていて知らぬふりを演じていたのだ。特に東海港の持ち主である原電は、港の使用契約をめぐって事前に動燃と綿密に打ち合わせていた記録も残っていた。「関知していない」ことなど、あり得ない。「情報管理」の名の下で「ウソ」の口裏合わせをしていたのだ。

 【注1】「日米原子力協定等の改定により条件が厳しくなった
 【注2】「【読書余滴】佐々淳行の、米国との裏交渉 ~プルトニウム輸入~

□今西憲之+本誌取材班「原子力ムラの「極秘工作」をすっぱ抜く プルトニウム輸送船の「日米密約」」(「週刊朝日」2013年4月12日号)

 【参考】
【原発】動燃による反対派つぶし「工作」の記録 ~「西村ファイル」~
【原発】動燃の裏工作部隊 ~「洗脳」と「カネ」~
【原発】動燃の組織ぐるみの選挙~「西村ファイル」~
【原発】NHKに対する「やらせ抗議」 ~科学技術庁~
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