語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>途方もないフクシマの潜在的リスク ~米国技術者の緊急提言~

2012年03月21日 | 震災・原発事故
 福島第一原発はマークⅠ型だ。
 米ゼネラル・エレクトリック(GE)社のマークⅠ型は、設計や運用上の危険性について何十年も前から警鐘が鳴らされていた。構造的な欠陥を抱えているのだ。

 米原子力規制委員会(NRC)の内部メモによれば、NRCは1972年にマークⅠ型の使用禁止を検討していた。原子炉が出力するパワーに比べ、格納容器のサイズが小さすぎるからだ。しかし、禁止すれば今後の米国の原子力産業の成長を妨げかねないという理由から口をつぐんでしまった。
 マークⅠ型の格納容器のサイズは、当初の設計では、現状の10倍だった。しかし、価格を抑えて競争力を高めるために、小さな格納容器にしてしまったのだ。
 格納容器が大きければ、メルトダウンによって発生する水素を巨大な格納容器内で再燃焼させ、炉内の圧力を下げることができるから、安全性が増す。小さい格納容器には、こうした余裕はない。水素と酸素が混じれば、火花が生じただけで爆発する可能性がある。
 そこで、マークⅠ型の小さすぎる格納容器には、内部の水素を逃がすためのバルブが側面に付け加えられた。
 しかし、福島第一原発では、うまく逃がすことができず、原子炉建屋内で水素爆発を起こし、放射性物質を撒き散らしてしまった。

 もう一つの問題は、冷却用海水ポンプに防水対策がなされていなかったことだ。福島で起きたのは、チェルノブイリのような原子炉の暴走ではなく、スリーマイルと同様の冷却機能の喪失だった。
 問題は電源の喪失ではない。
 福島第二原発も停電寸前だったが、冷却できる状況だった。冷却用海水ポンプの防水対策が厳重で、熱交換器建屋に設置されていたため、親水してもポンプ本体の損傷は免れたからだ。
 結局のところ、福島第一原発1~3号機は、冷却用海水ポンプが原因でメルトダウンが運命づけられた。ディ-ゼル発電機が津波で機能を喪失しても、ポンプさえ防護されていれば、バッテリーや電源車で動かして冷却できたはずだ。なぜ、東電はこの話を避けるのか。

 現在の一番の懸念は4号機だ【注】。4号機のプールには、炉心数個分もの核燃料が入っている。使用済み核燃料プールは遮蔽されていない。しかも、4号機の建屋は構造が弱体化し、傾いている。
 事故後プールを補強したが、ひとたび大きな地震が起これば倒壊する可能性が四つのうちでは最も高い。取り出してまもない炉心が入った使用済み核燃料プールで起きる火災を消し止める方法など、誰も研究すらしたことはない。
 大気圏内で行われた過去の核実験で放出された総量と同じくらいの放射性セシウムが4号機のプールに眠っている。

 長期的に見れば、原子炉から一度流出した核燃料を取り出す技術は、この世には存在しない。遠隔操作する必要があるが、核燃料を適切に処理するロボットはまだ設計すらされていない。
 スリーマイル島事故では、溶けた核燃料は圧力容器の底に残っていたし、稼働して3ヵ月しか経過していなかったので蓄積された排熱は高くなかった。それでも核燃料を取り出す技術を開発するのに10年かかった。1980年代の物価で20億ドル(1,400億円)要した。
 福島第一原発の場合、溶けた核燃料は原子炉の底部から外へ流出しているし、1~3号機の原子炉だけでも257トンのウランを回収しなければならない。格納容器の蓋から底までの高さは35mもある。
 取り出す技術の開発、設計、実施に20年はかかるだろう。
 取り出しに成功するまで、放射性物質の放出は続くだろう。
 取り出しても、どのように処理し、どこに保管するかも決まっていない。

 【注】「【震災】原発>いまだ収束せず ~米国が恐れる「核燃料火災」~

 以上、アーニー・ガンダーセン「米国技術者が緊急提言 途方もない「フクシマ」の潜在的リスクと日本の未来」(「朝日ジャーナル」2012年3月20日臨時増刊号)に拠る。
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