英宰相ウィンストン・チャーチルからのメッセージ   

チャーチルの政治哲学や人生観を土台にし、幅広い分野の話を取り上げる。そして自説を述べる。

イスラム圏で女性の地位が次第に向上

2013年10月21日 07時19分56秒 | 生活
 イスラム圏の国々は、女性に厳しい戒律を課している。ベールを被って顔を隠さなければならない国もある。しかしイスラム圏の国の女性の社会的地位は次第に向上している。
筆者はイスラム教を国教にするマレーシアを時々訪れる。マレーシアはマレー人、インド人、華人から構成された民族国家。支配者はマレー人で、イスラム教を信じている。ただ、中東諸国のような厳格なイスラム国家ではない。人口2億4000万人のインドネシアも宗教に寛容だ。
 モロッコの首都ラパトからAP通信社が伝えたところによると、1年半前、強姦された16歳の女性が無理やり強姦した男性と結婚させられたのを苦に自殺したのを受けて、政府は伝統的なイスラム慣習を非合法化する法律を制定する計画を発表した。
インドネシアの地方公務員は、第2婦人が処女ではないと主張して離婚したという。女性は否定している。
一方AP通信社によれば、インドネシアでは最近、「最高裁入りをめぐって国会議員から質問を受けた判事が、女性を強姦した容疑者とその女性はレープを楽しんでいたかもしれない、と冗談を言った。
スヌシ判事は議会の公聴会で、強姦罪で死刑を言い渡すのは誤りかもしれないと述べ、「男女とも強姦を楽しんでいるかもしれない」と大胆な発言をして物議を醸した。
 APはさらにこう付け加えている。上記の「判事は失職する可能性に直面した」。インドネシアの女性がツイッタ―やブログなど女性へのセクシャル・ハラスメントを批判し、昨年12月に抗議デモも実施した。
 「暴言」をはいた判事は最高裁の判事職就任の機会をのがしただけでなく、南スマトラ高等裁判所の判事職も失いかけたが、最高裁が「判事職罷免は行き過ぎ」としてことなきを得た。APによれば、判事の強姦発言はスヌシ判事だけではないという。
 インドネシアでは、現在でも男女平等の観点から見れば、多くのケースで、先進国民国家のはるか後方を走っているという。女性へのドメスティク・バイオレンスなどが見受けられるし、強姦事件も十分捜査されない場合がしばしば起こるそうだ。
 インドネシアでは、第1婦人が同意した時にかぎり、夫は第2婦人と結婚できるという。ただ、女性の権利に目覚めた大多数の女性が同意することはないという。このため、第1婦人の合意を得られない男性は極秘にイスラム聖職者による“非合法”の結婚を行う。
 この種の結婚が「契約」という形で、ほかのイスラム国からの観光客の「売春」目的に利用されることもある。ただ、正式な結婚でなければ、妻の法律上の権利もない。生まれた子どもの非嫡出子と考えられている。 
APは、女性への暴力に反対するナショナル委員会理事長のフセイン・ムハマドさんが「われわれは現在、昔と違った世界に住んでいる」との話を伝えた。まさに誰も時の流れを押しとどめることはできない。
時の変化はモロッコにも押し寄せている。16歳の女性の自殺を受けて、政府が法律を改正する計画を発表した。これを受けて、女性の権利団体がラミド法相の声明を歓迎した。
強姦された女性は、女性の両親と判事により、レイプした23歳の男性と結婚させられたという。イスラム社会では、家族の名誉を護るために、このようなケースでは結婚させるという。
イスラム社会の伝統的な慣習は、女性の処女喪失は家族と家族が属している種族社会の汚点だと考えられている。
 APによると、女性権利民主連盟議長は「新法は夫婦間の暴力を暴力とは認めておらず、男女の婚姻外セックスは罰則の対象になる」と述べ、まだ時代の流れを反映していないと批判した。モロッコでは、女性への暴力の50%は婚姻内暴力だという政府の統計が出ているという。
インドネシアやモロッコでの女性への暴力罰則化は、着実に歴史が変化していることを示している。

シンガポールのチャンギ国際空港は一夜を心地よく過ごせるのに最高

2013年10月20日 12時03分59秒 | 旅行
  飛行場で睡眠をとり一夜を明かすならシンガポールのチャンギ空港が世界でベスト。北イタリアのベルガモ・オーリオ・アル・セーリオ空港は最悪ー旅行者の投票から割り出した調査がインターネットサイト「The Guide to sleeping in airports」に掲載されていた。2013年の調査で、どうも個人が運営しているようだ。
  「睡眠」だけでなく空港の設備やもてなしなど全体から判断して最悪なのはフィリッピン・マニラのニノイ・アキノ国際空港第1ターミナルだとか。全体的な観点から判断した「最良の空港」は掲載されていないから、「ベスト・スリーピング空港」=「全体としても最良」ということなのだろう。
  「ベスト」か「最悪」かは一夜を空港で過ごした旅行者の投票による。この基準をめぐって①快適②便利③清潔④乗客へのサービスーから決められるという。「快適」はアーム付きの椅子やソファーが備えられていることや、静かでリラックスできる環境であることだとか。「便利」であるとは ワイファイ通信が可能。24時間にわたって食料調達が可能(要するにコンビニなどが開店しているということか)、シャワーが使えること、有料のラウンジがあることなどだという。「清潔」とは空港内ののフロアーやファーストフード・レストランにゴミが落ちていないなどきれいなこと。「乗客へのサービス」とは、フレンドリーで、いつも笑みを絶やさない人々が空港内で働いていることだという。また落し物やトラブルに巻き込まれたときに親切に対応することも条件に入れている。
  「一夜を明かすのによい空港」の第2位はソウルの仁川(インチョン)国際空港、第3位アムステルダム国際空港、第4位が香港国際空港と続いている。残念ながら日本の空港は10位以内に入っていない。ただ、アジアの空港では成田空港が7番目に「よい」空港だという。
  「一夜の寝床として最悪の空港」の第2位はニュージーランドのクライストチャーチ国際空港、第3位はアイスランドのケプラビーク国際空港、第4位はベルリンのティーゲル国際空港だ。睡眠をとるだけでなく、空港全体の質として最悪な飛行場「ニノイ・アキノ国際空港」に続いて北イタリアのベルガモ・オーリオ・アル・セーリオ、インドのカルカッタ、パキスタンのイスラマバードと続いている。幸運にも日本の空港は「悪い空港」にはランクされていない。
  シンガポールのチャンギ飛行場を「ベスト」に投票した人々の平均的なイメージは、静かな「うたた寝ゾーン」で休める。空港当局がこのゾーンでは静かにしろ、と言うそうだ。ベッドカバーまで提供してくれるという。ちなみにチャンギ国際空港は17年間、「世界で最高の空港」の地位を明け渡していない。ワイファイを自由に使えるばかりでなく、映画館、音楽やテレビラウンジ、スイミングプール、24時間マッサージやスパ施設もある。
  寝るのには最悪のベルガモについての旅行者のコメントによると、清掃のため午前3時ごろ警備員にたたき起こされ、ターミナルの別の場所に移される。清掃後はフロアーで寝ることを禁止されるそうだ。空港内は騒がしくて寒い。翌朝に空港から出発する飛行機に乗ろうとして一夜を空港で過ごそうとする旅行客にはあまりにも狭いスペース。要するにこの空港で「寝る計画を立てるな」と空港当局者は暗黙に警告しているに同じだ。
  寝るのにも適さず、空港全体の設備やホスピタリティーから見ても、最悪とされたニノイ・アキノ空港について、地元の「フィリピンスター」紙がアキノ空港が世界ばかりかアジアで最悪の空港だと報道していた。自分の国の欠点も自国民に紹介している。このことはフィリピンが民主国家だということだろう。
 この文章だけを読めば最高の空港はまるでホテルであるかのようだ。ただ、百聞は一見にしかずであり、シンガポールに行く機会があれば確かめてみるべきだろう。
  このサイトの運営者は「パーフェクトな空港など世界中にあるはずがない。しかしベストな空港で旅行者が疲れた体を休める時にほかの空港よりも色々なことができると気づくだろう」と述べている。

 写真:チャンギ国際空港内のプール
  

  

台風26号が教える今後の原発政策

2013年10月16日 17時50分33秒 | 地球環境・人口問題
台風26号は大きな爪痕を残して日本列島を過ぎ去った。伊豆大島では16人が死亡、50人以上が行方不明という。この台風の風雨で東電福島第1原発の汚染水がどうなるかも大きな関心を集めた。
   朝日新聞は「台風26号による雨の影響で、東京電力は16日早朝、福島第一原発の汚染水タンクを囲む堰(せき)内にたまった雨水があふれるとして、排出を始めた。東電によると、排出したのは午後0時半現在で9カ所のタンクの区画。放射性物質の濃度を調べ、15日深夜にまとまった暫定基準値未満であることを確認したという。
  東電によると、16日午前5時40分、原子炉建屋の山側にあるCエリア西とCエリア東の堰内の水を約40トン排出した。排出前に一時貯蔵タンクに移して放射性物質を調べたという。その後も堰内に雨水がたまり続け、あふれそうになったことから、午前7時ごろからは堰の排水弁を開けて直接堰外に流した。また、他の7カ所のタンクの区画でも堰の排水弁を開けてたまった水を流したという」と報じた。
 昨日の所信表明演説で、安倍晋三首相は、福島の汚染水問題を解決すると大見得を切ったが、事はそうたやすくは解決できまい。現実を観察すれば、その場限りの対処療法で何とか危機をしのいでいるが、抜本的な解決を見出していない。東電幹部は抜本的な解決策を見いだせないでいるのではないか、とわれわれは疑心暗鬼になる。
 汚染水問題を解決するための努力をする一方、この事故から学ぶ教訓はクリーンエネルギーをどうするかだろう。
 NHKの午後7時のニュースによれば、小泉純一郎・元総理大臣は千葉県木更津市で講演し、再び原発ゼロを訴えた。今後のエネルギー政策について「政府・自民党が原発をゼロにして自然エネルギーに変えていく方向性を打ち出せば、おおかたの国民は協力してくれる」と述べ、「原発ゼロ」社会を目指すべきだという考えを改めて示した。
 この中で小泉元総理大臣は、今後のエネルギー政策について「東京電力福島第一原子力発電所の事故のあと、このまま原発を推進していくのは無理だと感じ始めた。一番の理由は高レベル放射性廃棄物の処分場が日本にないことで『核のゴミ』の捨て場所もないのに原発を再稼働すればゴミはどんどん増えていく」と強調した。
 筆者も長期的な総論は賛成だ。どうのようにして原発をセロにしていくことができるのか、を国民と政府は考える時が来たのだろう。『核のゴミ』が処理できる技術が開発されたとしても、原発だけに頼るのは無理があるようだ。
  ただ即座に廃止というのは現実的ではない。少なくとも原発を増設せず、国民の節電努力に頼りながら、火力発電や、太陽光、水力発電、風力発電、地熱発電をも活用することだろう。いずれにしても原発を限りなくゼロにするため、火力に頼ることなく、風力発電などを改良していくことが大切なのではないか。風力発電や太陽光にも原発同様、必ずデメリットがあるはずだ。そのことも計算しながら、一歩一歩バランスのとれた電力政策を構築すべきだ。
  当面は原発を稼働させながら、火力、風力などのバランスのとれた電力政策を政府は模索すべきではないのか。太陽光などの新しいエネルギーを見据えながら原発縮小均衡へ持っていくことだろう。
 人間の欲望は限りない。この欲望は歴史を通して良い面と悪い面の両方に働いてきた。この際限のない欲望をコントロールする克己心も現在人間に求められているのかもしれない。日本人や世界の人々にとって「ほどほど」が一番良いのかもしれない。この克己心が原発ゼロへの道を切り開く切り札にもなる。

写真は福島第1原子力発電所
 



キスは大切   英紙デーリーメールがオックスフォード大学の研究結果を報道

2013年10月14日 21時56分10秒 | 生活
 女性にとってキスは無意識のうちに未来の最高の伴侶を選別する上で重要な役割を演じている、と英デーリー・メール紙はオックスフォード大学の研究結果としてこのほど報じた。
 オックスフォード大学の研究者によれば、キスは恋人同士の仲を維持し、一層親密にするのに大きな役割を果たしている。また、キスの頻度で男女の仲の濃密を測ることができる。
 900人を調査した「キスの研究」はヒューマン・ネーチャー誌にこのほど発表された。
 キスすることにより女性が自分にとって最高の伴侶かどうかを評価できるという。 無意識のうちに、キスを通して伝わる感触や匂いにより、男性が自分のパートナーとして適しているのか、健康な人かを嗅ぎ分けることができる。
 同大学の心理学研究者は「人間同士の愛情表現としてキスは今や世界中のあらゆる社会や文化に広がり、ご普通のこととなった。なぜこんなにキスが広がったのか、どんな目的でキスが行われているのか?われわれは明確な答えを見い出していない」と話している。
 日本人の男女にも当てはまるかどうかは、各自で考えてください。筆者の感想は、調査結果は当然と言えば当然だ。ただ「未来の最高の伴侶を選別する上で重要な役割を演じている」という話は面白いと思った。

中国の外交・軍事政策は修正主義なのか、それとも革命なのか

2013年10月13日 11時12分58秒 | 時事問題
 現在、ダットン・マンチェスター大学教授が書いた「ネヴィル・チェンバレン」を読んでいる。読むにつれて、1930年代の英国の外交と現在の日本の外交が似ているのに気づく。英国の政治家は1930年代、アドルフ・ヒトラーのベルサイユ条約破棄について、欧州におけるドイツの名誉を回復する外交攻勢だとみていた。
 この見解の代表者がネビル・チェンバレンだ。チェンバレンと聞くと、国際政治をかじった人々には「融和政策」が頭によぎるだろう。
 チェンバレンはヒトラー・ドイツをレビジョニストだと考えた。これに対してウィンストン・チャーチルはヒトラーがドイツを頂点とする新国際秩序を打ちたてようとしていると確信した。また1933-37年まで在ベルリン英国大使のエリック・フィップスもナチスNo.2のゲーリングらナチスの幹部に会い、ナチスが「異常な暴力集団」だと認識、本国政府に警告し続けた。
 ことし6月にBBCが放送した番組「インテリジェンス」で 専門家4人が「チェンバレンは正しいことをしたのか」という題で討論した。
 ジョン・チャムリーとグリン・ストーン両教授はチェンバレンに同情的で、「当時の状況からすれば、ベストな政策ではないが、唯一取り得る政策だった」と主張した。これに対してエバンズ・ケンブリッジ大学教授とケンブリッジ大学のチャーチルカレッジのフェローのピアーズ・ブレンドン氏は「チェンバレンの過誤は明らかであり、フィプス大使らの警告を無視した」と反論した。 
 歴史は繰り返さないと、エバンズ教授は筆者に一昨年春ケンブリッジでお会いしたときに言われた。ただ、こうも言われた。過去を参考にすることは必要だ。
 ナチスの性格を読み誤り、第2次世界大戦に欧州を引きずり込んだ張本人と言われているチェンバレンは、なぜ過誤を犯したのか。過誤を犯さなくても、チェンバレン擁護派教授が言われるように、チェンバレンは、なぜ融和政策が唯一取り得る英国の対ドイツ外交政策だと信じたのだろうか。
 チェンバレンは悲惨な第1次世界大戦を経験し、2度と戦争をしてはならないと悟った。何を犠牲にしてでも平和を維持することが国民の福祉と安寧を促進すると信じた。
 第1次世界大戦は第2次世界大戦より重要な意味を持つ。銃後の市民を巻き込んだ初めての戦争であり、国家のあらゆる資源を投入した初めての総力戦だった。破壊兵器 ー 戦車、飛行機、毒ガス ー が初めて登場した。人間の戦術と英知が主役だったこれまでの戦争を根底から覆した。
 チェンバレンをはじめ大多数の政治家は「悲惨な戦争を二度と起こしてはならない」と信じた。だからこそ、第1次世界大戦後に設立された国際連盟に英国の運命を託し、極端な軍縮をして軍備を激減させ、英国は1920年代、ほとんど無防備状態だった。この考えは、ヒトラーが政権が急速な軍拡に走っている時でさえ多くの英国政治家の信念だった。
 政府とメディアは英国がベルサイユ条約で天文学的な賠償を押し付けたことを反省し、ベルサイユ条約によってアフリカの植民地を奪われたドイツに同情的だった。そして英国人が恐れた共産主義国家、ソ連の防壁にドイツがなれると信じた。
 ヒトラーが1938年のミュンヘン会談で、ドイツ住民が大多数を占めるチェコスロバキアのズデーデン地方をよこせと欧州列強に要求した時、英国が融和政策以外にとり得る政策は残っていなかった。ストーン、チャムリー両教授はこう述べる。
  ミュンヘン会談でのヒトラーの要求は民族自決主義にかなっていた。英国がヒトラーの要求を拒絶すれば、戦争が始まるのは必至だった。英国はヒトラー・ドイツに戦争を仕掛けることができたが、一国で戦うのは現実的に不可能だった。
 巨大な軍事国家に成長したナチス・ドイツを破るには「大同盟」しかなった。大同盟とはフランス、アメリカ、ソ連と英国のが団結してナチス・ドイツと戦うことだ。しかし4国の国内情勢や対ドイツ政策、思惑が違っており、足並みがそろわなかった。
  フランスは国内政治が不安定であり、大陸軍国であっても近代的な軍ではなかった。第1次世界大戦後の軍改革が進まなかった。歩兵が陸軍の主力であり、陸軍参謀本部は戦車や飛行機が次の戦争でどんな役割をするか理解できず、軽視していた。
  当時の欧州の軍事専門家の中には、次の戦争の主役は戦車と飛行機だと踏んでいた。少数意見だったが、この見解は当たっていた。。
 アメリカのフランクリン・ルーズベルト大統領はどうか。大統領はミューヘン会談の結果を聞いてチェンバレンを「グッド・マン。グッド・マン」と称賛し、ズデーデン地方をめぐるドイツの割譲を黙認した。米国民は孤立主義を支持し、欧州の出来事に関心をほとんど示さなかった。また欧州政治は川向うの出来事で自分とは関係ないと思っていた。
 ソ連はどうなのか。当時のソ連の独裁者スターリンは1937-38年にかけて有能な軍の最高幹部を次々と粛清(自らの権力基盤を確立するため)し、このためソ連軍は弱体化した。なによりもスターリンは資本主義国を自らの「体制の敵」だと思い込み、彼らを信じていなかった。ソ連の独裁者は、ナチス・ドイツが1941年6月にソ連に侵攻を始めるまで、ヒトラーに親近感を抱き、支援していた。
 ストーン教授は、チェンバレンが戦おうにも戦うことができなかったと述べた。これに対してエバンズ教授は、ドイツ陸海空軍幹部はミュンヘン会談当時、同国陸軍が英国と戦う意思はなく、英国と戦う戦力はないと結論付けていた。当時のドイツ参謀総長のフランツ・ハルダー上級大将は「もし英国がチェコ問題に武力で介入してくれば、クーデターを起こしヒトラーを逮捕。英国と和平交渉をする」ことを計画していた。当時のドイツの戦力ではロンドンを攻撃する空軍力はまだ備わっていなかった、と融和政策批判派は述べている。
 現在の人々が過去を考察する場合、当時の人々より断然優位な立場にある。われわれのほうが当時の人々より結果を明確に理解し、豊富な資料も手に入るからだ。
 われわれは過去を知っている。チェンバレン首相は、ミュンヘン協定から半年後、ヒトラーに裏切られた。1939年3月、ヒトラーはチェコスロバキアに侵入。チェコを併合、スロバキアに親ナチス政権を打ち立てた。
 中国問題を考察するために、長々と1930年代の欧州情勢やチェンバレン首相と融和政策を説明した。さて、現在の中国に対する日本人の心理はどうか。1931~45年の対中侵略と敗北は日本人の心理を現在でさえ多分に支配している。日本人が平和を欲し主導しれば、平和は手に入ると考えてきた。特に昭和の時代はそうだった。
  現在でも、多くの日本人は、憲法9条の精神に永遠の平和を見いだしている。この心理は第1次世界大戦の英国民の心理とほぼ同じだろう。当時の英メディアと現在のリベラルな日本のメディアの精神構造もほぼ同じだ。
 それは理想としては素晴らしいが、中国は今何を考えているのか。特に軍部は何を考えているのか。毎年10%以上の軍備を増強してきた。何よりも透明さが欠けている。何の目的で軍備を拡大し続けているのか。
 2月26日付の筆者のブログ「中国の夢は世界一の米国を覆す」で、サンデー・モーニング・ヘラルド(豪州)を引用した。「上級大佐で、中国国防大学の劉明福教授は2週間前、豪州メディアのフェアファクスとのインタビューで『核攻撃の正当化』というシナリオにまで舵を切った。ただし彼は中国が核攻撃の引き金を最初にひかないことを明確にした」
  劉明福大佐は2010年3月、ベストセラー「中国の夢」を出版した。この著書で、中国が米国に代わり世界第一に、とアピールした。
  ロイター通信はこのほど、「中国の夢」は「米国の『世界一の国家』の地位を阿諛(あゆ)するものだ」と論評。英紙デイリー・テレグラフは、中国解放軍は、世界最強の軍事力を整備し、迅速に前へと進み、米国の「世界第一」の座を覆すことを考えている、と報じた。
 この報道が事実なら、中国軍人の最終目標は「世界一」ということになる。ヒトラーと同じ政策であり、レビジョニストではない。もしレビジョニストなら、既存の国際秩序を守り、同時にこの国際秩序の中での地位を上げたいと切望するだろう。国際法を遵守し、尖閣諸島や南シナ海で現状を変更しようとして近隣諸国とトラブルを起こすことはなかっただろう。
 いまこそ、日本人は虚心坦懐な心で目を凝らして中国を観察しなければならないと思う。中国へ「プロパガンダ」や「余計な批判」「罵詈雑言」を浴びせることではなく、彼らの意図を観察することだ。
 筆者の独断と偏見でいえば、日本人ほど約束を守り、平和を愛し、卑怯を嫌う民族はいない。優しい心も持って感情豊かだ。ただ、外交政策を論じる時は、その長所を心の奥底にしまいこんで、ディタッチメントな姿勢で周囲を観察してほしいと願う。
 
写真はネビル・チェンバレン首相