英宰相ウィンストン・チャーチルからのメッセージ   

チャーチルの政治哲学や人生観を土台にし、幅広い分野の話を取り上げる。そして自説を述べる。

トランプに振り回される世界       これからの4年間は長すぎる?

2017年01月28日 10時43分41秒 | 国際政治と世界の動き
 「おごりが目に余る」-。「米の強圧外交」に驚き、怒り、批判した1月25日付朝日新聞の社説の見出しだ。「メキシコとの国境に壁をつくる。壁の費用はメキシコが払え」とトランプ米大統領。これに対してメキシコのペニャニエト大統領は「一銭たりとも支払わない」と反撃する。
 両者の言い合いがツイッターだったのには筆者も驚いた。これでは外交交渉もあったものではない。秘密外交を得意としていた第1次世界大戦前の欧州の指導者が生き返れば、その場で気絶するだろう。
 時代は変化するというが、ここまで変化したのかと思うと驚きと同時に言い知れない不安を感じる。トランプ大統領の特異な性格だと信じたい。それにしても、事実を捻じ曲げており、「米国第一主義」というよりも「米国以外のすべての国は負けもよい」と言うほうが正しい言い方だと思う。
 トランプ米大統領が、就任式典につめかけた人数がオバマ大統領の時と比べて「3分の1」と米メディアが伝えた報道に怒り、就任演説をした連邦議会から約2キロ離れたワシントン記念塔まで聴衆で埋まったと主張。メディアは正確な報道をしていなと批判した。両者の就任式典を見比べれば一目瞭然なのに平気でうそをいうこの性格。
 昨年の大統領選の得票総数についても、民主党のクリントン元国務長官が300万票リードしていたとメディアが報じれば、トランプ氏は不法移民の票だと述べ、「正確ではない」という。
 さらに困ったことには、ホワイトハウスのスパイサー報道官やコンウェイ大統領顧問までがトランプ大統領に追随し、「(メディアと)オルタナティブ・ファクト」だと言い切った。「もう一つの事実」と苦し紛れのメディアに対する答えだった。
 この状況に対し、サンダース上院議員は「われわれは巨大な問題に直面している。妄想を抱く大統領がいることだ」と述べている。
 トランプという男を、朝日新聞は「虚言」「誇張」と表現しているが、とにかく「敗北」を認めない人物だ。負けることが自らの尊厳を傷つけるとでも思っているのだろうか。自分が絶対に正しいと信じ込んでいる。自己中心的な男のようだ。自分に不都合なことは「黙っていろ」と恫喝する。裏を返せば精神的に弱い人間なのだろう。この点では第2次世界大戦を指導した英国のウィンストン・チャーチルとは真逆の人物のようだ。
 すべてを取引材料にしている。メキシコが壁建設費用を拒絶すれば、ペニャニエト大統領との会談は「無意味」だと公言した。会談を取引材料にして壁の費用を支払えと強要する。前代未聞だ。こんな外交交渉は聞いたことがない。この点だけでもトランプは歴史に残る大統領になる。
 ヒトラーは「嘘も100回つけば真実になる」と公言してはばからなかった。トランプ氏も自分の言っているのは嘘だとわかっていても、公言するにちがいない。
 ただヒトラーとドイツ議会の関係と違って、米国の議会は大統領をチェックする力がある。大統領令をトランプは頻発しているが、議会がその大半を葬り去るだろう。またヒトラーやナチスが私兵SAやSSを持ち、反対者を次々と不法逮捕して殺害したが、トランプは私兵は持っていない。ほっとする。ただ、核兵器発射指令ボタンを持っている。
 米国が巨大な独裁国家になることはないが、これからの4年間、トランプに対して幻想を抱いてはならないと思う。自民党の茂木政調会長が「トランプは公正な貿易を唱えている」「日米は自由と民主主義の価値観を共有している」と述べ、日米関係の将来を楽観的に見ている。トランプは価値観などまったく重視していない。それどころか、軽視している。どうでもよいのだ。この10日間で明らかになってきた。
  「公平」は米国にとっての「公平」である。間違えないようにしてほしい。「良いように良いようにとる」癖が日本人にはある。同胞よ、冷徹に現実と向き合え、と言いたい。
 トランプの外交政策を観察していたニュージーランドと豪州は米国抜きのTPP(環太平洋経済連携協定)を模索しはじめた。これに対して、安倍首相は「米国に自由貿易の重要性を説く」「2国間貿易交渉もOK」と言い始めた。これがトランプの真意をさぐるアドバルーンならよいのだが、本当にそう思っているのなら「おめでたい」と思う。
 筆者は自由貿易、自由、民主主義は時代の流れだと思う。この流れに逆行すれば、国と国との紛争が多発するだろう。
 現在、安倍首相と日本人に求められているのは、自分の羅針盤を構築し、現実を見ながら漸進することだ。豪州やニュージーランド、シンガポールのアジアの自由貿易国との連携を強めることだ。
 日本の指導者は遠い未来を見据えて、世界の経済繁栄と平和に貢献すべきだ。ゆめゆめ、米国に日本の安全を守ってもらおうとすることに目がいくあまり、日米貿易をめぐるトランプの主観的な見解を受け入れてはいけない。
 最後にチャーチルが政治指導者に助言した言葉を贈る。「広い視野、遠大な理想、道義、勇気、高い目標といったようなもの中に、われわれは人生の航海に必要な海図や羅針盤を求めていると言えるだろう。ただ、それだけでは不十分だ。確固とした不退転の決意や覚悟を持たねばならない。そうすることで初めて、船尾によりかかって航跡の渦を凝視するとき、船を動かすためには潮の流れが大きな役割を果たしていると感じ取ることができるのだ」

子どもの手本になる稀勢の里  横綱昇進おめでとう

2017年01月25日 11時48分56秒 | 生活
 日本相撲協会は25日朝、東京・国技館で臨時理事会を開き、満場一致で、初場所で初優勝を果たした大関稀勢の里の横綱昇進を決めた。72代横綱が誕生した。19年ぶりで日本出身力士の横綱が誕生した。
 相撲協会から派遣された使者の前で稀勢の里は、「謹んでお受けいたします。横綱の名に恥じぬよう、精進いたします」と口上を述べた。
 過去4~5代の横綱のように四文字熟語を使用せず、平易に自分の気持ちを表現したのは素晴らしかった。記者会見で相撲が強くなるだけでなく、人格面でもますます磨きをかけ、誰からも尊敬される横綱になりたいと抱負を述べた。この言葉の中に彼の愚直さと良心がある。
 元横綱審議委員で脚本家の内館牧子さんが「裏切られても裏切られても、私は稀勢の里が好きだ」と話したと朝日新聞が伝えている。
 内舘さんが語った「裏切られても裏切られても」という言葉を言い換えれば「失敗しても失敗しても」ということだろう。
 稀勢の里は失敗しても失敗しても腐らずにあきらめずに稽古に励んで精進し、横綱という大輪をつかんだ。稀勢の里の先代師匠の鳴門親方(元横綱・隆の里)が生前、稀勢の里に「勝って喜ばず、負けて悔しがらず」と教えたという。読書家として知られた故隆の里ならではの言葉だ。
 稀勢の里は亡き先代師匠の遺言を頑なに守り、土俵上ではまったく表情を変えてこなかった。冷たささえ感じる表情だ。これに対してモンゴル出身の横綱は、勝って懸賞金を受け取る際に派手なパフォーマンスやガッツポーズをすることがしばしばある。私のような日本人にはどこか違和感がある。
 稀勢の里は負けても負けても歯を食いしばって精進した。その精神を英国の名宰相のウィンストン・チャーチルは天国から拍手しているだろう。「失敗にもめげずによく頑張った」と褒めることだろう。
 第2次世界大戦で不屈の精神により英国を勝利に導いたチャーチルは「失敗しても失敗してもあきらめてはいけない。失敗の連続から成功と勝利があるのだ」と語っている。また自分の信じる道を、それが他人から批判されようが、進みなさい、とも語り、「もしそうすれば、慈悲深い自然はあなたを見捨てはしない」と強調している。
 稀勢の里はチャーチルの信念の道を進んで横綱という大相撲の最高峰に至った。子どもにとって稀勢の里の生き方は人生の道を歩く教科書になる。少しばかり大げさな言い方かもしれないが、筆者はそう思う。