20世紀最高の政治家の一人といわれるウィンストン・チャーチルほど勇気を示し、リスクを取った政治家はいない。2002年の英国放送協会(BBC)の番組「100人の最も偉大な英国人」で、英国民が投票した結果、ウィンストン・チャーチルが一位になった。確かに、チャーチルは白人優越の人種差別発言をしばしばおこない、今の政治家と違って世論調査を軽視した。自らの信念に従い、大衆の抗議に強硬な姿勢を示した。何よりも大英帝国の永続を望んだ帝国主義者だった。存命中に同僚下院議員や有識者、大衆から批判を受けた。それでも英国民は今日に至るまでチャーチルを英国の偉大な指導者だとみなしている。なぜだろうか。
その大きな理由の一つはチャーチルが勇気をもって失敗を恐れずリスクを取ったからだ。現在の日本の政治家にない資質であり、英国のほとんどの政治家からもなくなってしまった政治資質だ。
そのほかに現代の政治家に欠けていてチャーチルが持っていた特質は、国民を説得する弁舌だろう。チャーチルは国民の意見と対立した時、必ず大衆の前に現れ、その雄弁を持って大衆の心をつかんだ。そして自らの政策がうまくいかなかったとき、その理由を話した。
チャーチルは1932年1月4~5日にデイリーメイルに寄稿した小論文にこう記している。「自然は慈悲深く、人間やほかの動物がどうすることもできないことをあえて試すことはありません。・・・(だから)リスクをとって生きなさい。何が起こっても逃げないで立ち向かいなさい。勇気を持ちなさい。(そうすれば)すべてはうまくいくのです」
チャーチルは生涯、少なくとも5回死に直面した。それは交通事故、戦場、病気などだ。また少なくとも6回総選挙に落選した。このような体験から、15年以上チャーチルの身辺警護を担当したトンプソン警部に「死は神様の領域。死ぬ時が来れば死ぬ」と話す。つまり死を自らコントロールできないと述べている。
チャーチルは1934年6月、英雑誌「アンサーズ」にも「わたしはいつもリスクをとる」のタイトルで寄稿し、その冒頭にこう記している。「われわれは今日、『安全が第一』という言葉をよく聞く。道路を横断するときに従う素晴らしい原則である。・・・また『安全が第一』を志向する政治家の政治活動にも非常に役に立つだろう。しかし、そんな政治家は閣僚になることを目的とし、閣僚に引き上げられれば、そのポストを多年にわたって保持することに努め、際立った仕事もせず、閣僚の責任だけを果たし、内閣維持の保証者として働くだけなのだ。しかし生涯にわたって『安全が第一』に固執するかぎり本当に価値のある仕事はできないし、立派な業績も残せない。それは政治家同様、市井の人々にも当てはまる」
また「人生はスポーツの試合のようなものであり、勝敗が伴い危険が存在すると記している。スポーツプレーヤーは試合中、思いもよらずに怪我をする場合もある」と記している。
第二次世界大戦中、英宰相として戦争を指導し、「安全第一」の将軍を最も嫌った。その中に、北アフリカ戦線を指揮したハロルド・アレクサンダー陸軍大将がいた。筆者から見れば、アレクサンダー将軍は臆病だったのではなく、「安全第一」だったのではなく、十分に戦力が整い100%勝つ見込みができるまで動かなかった典型的な英国人気質をもった将軍だった。しかしチャーチルの目には「安全第一」と映った。アレクサンダーの後任のウェーベル将軍にも何度となく、戦力がある程度整えば機を逃さず攻撃すべきだと電報で何度も催促した。英国では、攻撃・退却の最終決定権は首相にあるが、チャーチルは前線の最高司令官の決断を尊重した。
筆者は今日、チャーチルの上記の言葉を思い出しながら、英国のデービッド・キャメロン首相と日本の安倍首相を比較している。キャメロン首相は政治生命をかけて、欧州連合(EU)の移民政策や主権制約問題などで不満を抱く国民に、EU残留の是非を問う国民投票を実施した。実施する必要もなかったが、勇気とリスクをとって英国民からEU残留の信任を取ろうとした。しかし離脱派が小差と言えど勝利し、キャメロン首相はその責任を取り辞任した。
これに対して、安倍晋三首相は現実を無視し、参院選に勝とうと思うあまり消費増税10%を先送りした。日本は約1100兆円の借金に苦しんでいる。
昨日、大手銀行の行員と話す機会があった。筆者は消費増税の先送りについて尋ねた。行員は「このまま政府が果断な政策を取らなければ、あと10年もすれば日本国民の総預貯金と日本の借金が同じ額になり、その後、政府が外国からお金を借りるようなことになれば、日本経済は本当の危機になるでしょう。そして経済破綻だけが待っています。国民の預貯金はハイパーインフレにより紙くず同然になります」と話し、長期的には日本の将来は暗いと示唆した。
その若い行員は「他業種に就いた大学時代の親友はこの問題を深刻には考えていません。この暗い現実を実感しているのは金融に務めている連中ぐらいでしょう」「水面下で進行するガンは、痛みが現れるまで患者は分かりません。わかった時は手遅れです。日本国民も同じです。深刻な痛みが伴うまで、人間はどうしても容易な道に流れていきます」と話した。
「多くの日本国民は日本の借金に実感がわかず、迫りくる危機に無頓着です」と大手銀行の行員が話すように、大衆は目の前に現れたことのみに従って行動する傾向が強い。一方、大衆を恐れる安倍首相や政治家は自分かわいさに有権者や国民に「先見的な見解や見通し」を述べることを恐れる。今日ほど政治家が大衆に迎合し、大衆の顔色をうかがい、世論調査に振り回されている時代はない。
チャーチルは、自らの先見性や信念を国民に吐露し、説得し、理解を求め、大衆を納得させ、その先頭に立って難局を切り開いていった。キャメロン首相は英国民を説得できなかったが、勇気を抱きリスクをとった。安倍首相は勇気もなくリスクも取らず、説得することもしなかった。
日本国民の悲劇がここにある。どうしてこんな質の悪い政治家ばかりになってしまったのだろうか。こればかりか解けない難問だ。
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その大きな理由の一つはチャーチルが勇気をもって失敗を恐れずリスクを取ったからだ。現在の日本の政治家にない資質であり、英国のほとんどの政治家からもなくなってしまった政治資質だ。
そのほかに現代の政治家に欠けていてチャーチルが持っていた特質は、国民を説得する弁舌だろう。チャーチルは国民の意見と対立した時、必ず大衆の前に現れ、その雄弁を持って大衆の心をつかんだ。そして自らの政策がうまくいかなかったとき、その理由を話した。
チャーチルは1932年1月4~5日にデイリーメイルに寄稿した小論文にこう記している。「自然は慈悲深く、人間やほかの動物がどうすることもできないことをあえて試すことはありません。・・・(だから)リスクをとって生きなさい。何が起こっても逃げないで立ち向かいなさい。勇気を持ちなさい。(そうすれば)すべてはうまくいくのです」
チャーチルは生涯、少なくとも5回死に直面した。それは交通事故、戦場、病気などだ。また少なくとも6回総選挙に落選した。このような体験から、15年以上チャーチルの身辺警護を担当したトンプソン警部に「死は神様の領域。死ぬ時が来れば死ぬ」と話す。つまり死を自らコントロールできないと述べている。
チャーチルは1934年6月、英雑誌「アンサーズ」にも「わたしはいつもリスクをとる」のタイトルで寄稿し、その冒頭にこう記している。「われわれは今日、『安全が第一』という言葉をよく聞く。道路を横断するときに従う素晴らしい原則である。・・・また『安全が第一』を志向する政治家の政治活動にも非常に役に立つだろう。しかし、そんな政治家は閣僚になることを目的とし、閣僚に引き上げられれば、そのポストを多年にわたって保持することに努め、際立った仕事もせず、閣僚の責任だけを果たし、内閣維持の保証者として働くだけなのだ。しかし生涯にわたって『安全が第一』に固執するかぎり本当に価値のある仕事はできないし、立派な業績も残せない。それは政治家同様、市井の人々にも当てはまる」
また「人生はスポーツの試合のようなものであり、勝敗が伴い危険が存在すると記している。スポーツプレーヤーは試合中、思いもよらずに怪我をする場合もある」と記している。
第二次世界大戦中、英宰相として戦争を指導し、「安全第一」の将軍を最も嫌った。その中に、北アフリカ戦線を指揮したハロルド・アレクサンダー陸軍大将がいた。筆者から見れば、アレクサンダー将軍は臆病だったのではなく、「安全第一」だったのではなく、十分に戦力が整い100%勝つ見込みができるまで動かなかった典型的な英国人気質をもった将軍だった。しかしチャーチルの目には「安全第一」と映った。アレクサンダーの後任のウェーベル将軍にも何度となく、戦力がある程度整えば機を逃さず攻撃すべきだと電報で何度も催促した。英国では、攻撃・退却の最終決定権は首相にあるが、チャーチルは前線の最高司令官の決断を尊重した。
筆者は今日、チャーチルの上記の言葉を思い出しながら、英国のデービッド・キャメロン首相と日本の安倍首相を比較している。キャメロン首相は政治生命をかけて、欧州連合(EU)の移民政策や主権制約問題などで不満を抱く国民に、EU残留の是非を問う国民投票を実施した。実施する必要もなかったが、勇気とリスクをとって英国民からEU残留の信任を取ろうとした。しかし離脱派が小差と言えど勝利し、キャメロン首相はその責任を取り辞任した。
これに対して、安倍晋三首相は現実を無視し、参院選に勝とうと思うあまり消費増税10%を先送りした。日本は約1100兆円の借金に苦しんでいる。
昨日、大手銀行の行員と話す機会があった。筆者は消費増税の先送りについて尋ねた。行員は「このまま政府が果断な政策を取らなければ、あと10年もすれば日本国民の総預貯金と日本の借金が同じ額になり、その後、政府が外国からお金を借りるようなことになれば、日本経済は本当の危機になるでしょう。そして経済破綻だけが待っています。国民の預貯金はハイパーインフレにより紙くず同然になります」と話し、長期的には日本の将来は暗いと示唆した。
その若い行員は「他業種に就いた大学時代の親友はこの問題を深刻には考えていません。この暗い現実を実感しているのは金融に務めている連中ぐらいでしょう」「水面下で進行するガンは、痛みが現れるまで患者は分かりません。わかった時は手遅れです。日本国民も同じです。深刻な痛みが伴うまで、人間はどうしても容易な道に流れていきます」と話した。
「多くの日本国民は日本の借金に実感がわかず、迫りくる危機に無頓着です」と大手銀行の行員が話すように、大衆は目の前に現れたことのみに従って行動する傾向が強い。一方、大衆を恐れる安倍首相や政治家は自分かわいさに有権者や国民に「先見的な見解や見通し」を述べることを恐れる。今日ほど政治家が大衆に迎合し、大衆の顔色をうかがい、世論調査に振り回されている時代はない。
チャーチルは、自らの先見性や信念を国民に吐露し、説得し、理解を求め、大衆を納得させ、その先頭に立って難局を切り開いていった。キャメロン首相は英国民を説得できなかったが、勇気を抱きリスクをとった。安倍首相は勇気もなくリスクも取らず、説得することもしなかった。
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