「真のリーダーの資格は、人としての徳を持っているかどうかだ」「器にあらざるものをその器に据えると、本人も周囲も不幸になる」
この二つの名言を、現在放映中のNHK連続テレビ小説「まんぷく」の立花萬平のモデルで、日清食品の創業者、安藤百福(ももふく)が残している。安藤は「チキンラーメン」や「カップヌードル」の生みの親として知られる。
2018年が間もなく暮れる。大晦日が数日後に迫り、新しい年を迎える。2019年は読者の皆さんにとって、日本にとって、世界にとって、どんな年になるのだろうか。それを予測することも大切だが、今年という直近の過去を振り返ることはさらに大切ではなかろうか。読者の皆さんにとって2018年はどうだっただろうか。喜び、苦しみ、悲しみ、反省、悔恨とともに思い出されることもあろうかと思う。そして政治の世界はどうだったかと考えるとき、安藤の名言二つを思い出す。というよりも、この名言二つが2018年を映し出している。
この格言は日米のリーダーに当てはまる、と私は思う。言うまでもなく、安倍晋三首相とドナルド・トランプ大統領だ。大阪府の国有地が学校法人「森友学園」に評価額よりも非常に低い価格で売却されたとされる問題をめぐって、安倍首相は国会やメディアのインタビューに誠実に答えてきたか?また加計学園の獣医学部新設にあたり、安倍首相の親友の加計孝太郎理事長に、官邸が特別な便宜を図ったのか?一方、米国のトランプ大統領は、異見を述べ、忠告を繰り返す側近を次々と罷免し、即物的とも見える政策を打ち出し世界を混乱させている。
政治家は政策通である前に、党内運営に長けている前に、政治能力が秀でている前に、良心を持ち、正直でなければならない。人格を備えた人物でなければならない。こんな発言をすると、前大阪市長の橋本徹氏に冷笑される。しかし、20世紀の偉大な政治家ウィンストン・チャーチルは1940年11月12日のネビル・チェンバレンへの追悼演説で、人間は、とりわけ政治家は「たとえ欺されても良心という盾を掲げて人生を歩いて行かなければならない」と強調し、ドイツの独裁者アドルフ・ヒトラーに裏切られても自らの信念に正直に生きたチェンバレンを褒めた。
嘘をつき、「イエスマン」を重視するリーダーは政策に過誤をきたし、国家と国民を存亡の危機に陥れる場合が多い。それは歴史を紐解けば一目瞭然で理解できる。歴史の造詣が深いチャーチルはそれを骨の髄まで理解していた。
安部首相とトランプ大統領の言行を見て、大変不遜で失礼な言い方だが、私は安藤が残したこの名言二つがこの二人のリーダーに当てはまると確信する。
100歩譲り、「森友学園問題」と「加計学園問題」に関して、安倍首相は潔白だとしても、部下が安倍首相を「忖度」し、国民の代表者が集う国会で、安倍首相と妻の昭恵夫人に有利な虚偽発言をした。
この事実から、安藤の名言が首相にのしかかる。なぜ?「忖度」は「イエスマン」を暗示させているからだ。首相が「楯突く部下」を遠ざけていると判断できる。首相が持論を展開する部下に聞き耳を立てるのら、部下は自分の身を守るために「忖度」をしない。
一方トランプ大統領も「イエスマン」を可愛がる。誰が判断しても。それは明々白々だ。大統領は自分と見解が異なる部下を次々と罷免してきた。コ-ミーFBI長官、ティラーソン国務長官、マティス国防長官と挙げたらきりがない。
20世紀が生んだ最高のリーダーのひとり、ウィンストン・チャーチルは「イエスマン」を嫌った。約20年にわたってチャーチルの警護を務め、チャーチルから絶大の信頼を得たウォルター・トンプソン警部は彼の著書で「ウィンストンはイエスマンをまったく信用していなかった」と明言する。
チャーチルの盟友で、官僚として仕えたノーマンブルック卿は「ウィンストンは決定を下すまで異見を述べる人びとにも注意を払って聞き耳を立てました。そして納得すれば異見を政策に取り入れました」と語り、卓越したリーダーシップを持つ政治家は常に人の話を聞き、自らの考えに従って決断すると力説する。
チャーチルの友人だった20世紀最高の喜劇王チャールズ・チャプリンは彼の著書で、「チャーチルの魅力の一つは他人の見解にどこまでも耳を傾け、それを尊重する姿勢にある。見解が違う相手に悪意を抱かない」と記している。
チャーチルと安倍氏、チャーチルとトランプ氏との違いはここにある。そして安藤百福の冒頭の名言に戻る。「イエスマン」だけを登用し、議論することを嫌い、「うそ」だと疑われる政治家は「真のリーダー」ではなく、「本人も周囲も不幸」にすると言うことだ。
私は2018年をふりかえって、そんな思いを抱く。だからこそ民主主義と自由、議論を尊重し、政敵や大衆を説得し、決断した暁には誰からの意見にも左右されない政治家が出現してこそ、われわれは共産党一党独裁の中国やあらゆる種類の独裁国家と対峙して自由と民主主義を守ることができると思う。
ことしも1年間、わたしの見解をお聞きくださり、読者の皆さまに心から感謝を申し上げます。ありがとうございました。良い年をお迎えください。
写真:日清食品の創業者、安藤百福
この二つの名言を、現在放映中のNHK連続テレビ小説「まんぷく」の立花萬平のモデルで、日清食品の創業者、安藤百福(ももふく)が残している。安藤は「チキンラーメン」や「カップヌードル」の生みの親として知られる。
2018年が間もなく暮れる。大晦日が数日後に迫り、新しい年を迎える。2019年は読者の皆さんにとって、日本にとって、世界にとって、どんな年になるのだろうか。それを予測することも大切だが、今年という直近の過去を振り返ることはさらに大切ではなかろうか。読者の皆さんにとって2018年はどうだっただろうか。喜び、苦しみ、悲しみ、反省、悔恨とともに思い出されることもあろうかと思う。そして政治の世界はどうだったかと考えるとき、安藤の名言二つを思い出す。というよりも、この名言二つが2018年を映し出している。
この格言は日米のリーダーに当てはまる、と私は思う。言うまでもなく、安倍晋三首相とドナルド・トランプ大統領だ。大阪府の国有地が学校法人「森友学園」に評価額よりも非常に低い価格で売却されたとされる問題をめぐって、安倍首相は国会やメディアのインタビューに誠実に答えてきたか?また加計学園の獣医学部新設にあたり、安倍首相の親友の加計孝太郎理事長に、官邸が特別な便宜を図ったのか?一方、米国のトランプ大統領は、異見を述べ、忠告を繰り返す側近を次々と罷免し、即物的とも見える政策を打ち出し世界を混乱させている。
政治家は政策通である前に、党内運営に長けている前に、政治能力が秀でている前に、良心を持ち、正直でなければならない。人格を備えた人物でなければならない。こんな発言をすると、前大阪市長の橋本徹氏に冷笑される。しかし、20世紀の偉大な政治家ウィンストン・チャーチルは1940年11月12日のネビル・チェンバレンへの追悼演説で、人間は、とりわけ政治家は「たとえ欺されても良心という盾を掲げて人生を歩いて行かなければならない」と強調し、ドイツの独裁者アドルフ・ヒトラーに裏切られても自らの信念に正直に生きたチェンバレンを褒めた。
嘘をつき、「イエスマン」を重視するリーダーは政策に過誤をきたし、国家と国民を存亡の危機に陥れる場合が多い。それは歴史を紐解けば一目瞭然で理解できる。歴史の造詣が深いチャーチルはそれを骨の髄まで理解していた。
安部首相とトランプ大統領の言行を見て、大変不遜で失礼な言い方だが、私は安藤が残したこの名言二つがこの二人のリーダーに当てはまると確信する。
100歩譲り、「森友学園問題」と「加計学園問題」に関して、安倍首相は潔白だとしても、部下が安倍首相を「忖度」し、国民の代表者が集う国会で、安倍首相と妻の昭恵夫人に有利な虚偽発言をした。
この事実から、安藤の名言が首相にのしかかる。なぜ?「忖度」は「イエスマン」を暗示させているからだ。首相が「楯突く部下」を遠ざけていると判断できる。首相が持論を展開する部下に聞き耳を立てるのら、部下は自分の身を守るために「忖度」をしない。
一方トランプ大統領も「イエスマン」を可愛がる。誰が判断しても。それは明々白々だ。大統領は自分と見解が異なる部下を次々と罷免してきた。コ-ミーFBI長官、ティラーソン国務長官、マティス国防長官と挙げたらきりがない。
20世紀が生んだ最高のリーダーのひとり、ウィンストン・チャーチルは「イエスマン」を嫌った。約20年にわたってチャーチルの警護を務め、チャーチルから絶大の信頼を得たウォルター・トンプソン警部は彼の著書で「ウィンストンはイエスマンをまったく信用していなかった」と明言する。
チャーチルの盟友で、官僚として仕えたノーマンブルック卿は「ウィンストンは決定を下すまで異見を述べる人びとにも注意を払って聞き耳を立てました。そして納得すれば異見を政策に取り入れました」と語り、卓越したリーダーシップを持つ政治家は常に人の話を聞き、自らの考えに従って決断すると力説する。
チャーチルの友人だった20世紀最高の喜劇王チャールズ・チャプリンは彼の著書で、「チャーチルの魅力の一つは他人の見解にどこまでも耳を傾け、それを尊重する姿勢にある。見解が違う相手に悪意を抱かない」と記している。
チャーチルと安倍氏、チャーチルとトランプ氏との違いはここにある。そして安藤百福の冒頭の名言に戻る。「イエスマン」だけを登用し、議論することを嫌い、「うそ」だと疑われる政治家は「真のリーダー」ではなく、「本人も周囲も不幸」にすると言うことだ。
私は2018年をふりかえって、そんな思いを抱く。だからこそ民主主義と自由、議論を尊重し、政敵や大衆を説得し、決断した暁には誰からの意見にも左右されない政治家が出現してこそ、われわれは共産党一党独裁の中国やあらゆる種類の独裁国家と対峙して自由と民主主義を守ることができると思う。
ことしも1年間、わたしの見解をお聞きくださり、読者の皆さまに心から感謝を申し上げます。ありがとうございました。良い年をお迎えください。
写真:日清食品の創業者、安藤百福