英宰相ウィンストン・チャーチルからのメッセージ   

チャーチルの政治哲学や人生観を土台にし、幅広い分野の話を取り上げる。そして自説を述べる。

政治屋に振り回された2018年 まもなく大晦日、ことしを回顧して思う

2018年12月29日 20時52分50秒 | 日本の政治
「真のリーダーの資格は、人としての徳を持っているかどうかだ」「器にあらざるものをその器に据えると、本人も周囲も不幸になる」
 この二つの名言を、現在放映中のNHK連続テレビ小説「まんぷく」の立花萬平のモデルで、日清食品の創業者、安藤百福(ももふく)が残している。安藤は「チキンラーメン」や「カップヌードル」の生みの親として知られる。
 2018年が間もなく暮れる。大晦日が数日後に迫り、新しい年を迎える。2019年は読者の皆さんにとって、日本にとって、世界にとって、どんな年になるのだろうか。それを予測することも大切だが、今年という直近の過去を振り返ることはさらに大切ではなかろうか。読者の皆さんにとって2018年はどうだっただろうか。喜び、苦しみ、悲しみ、反省、悔恨とともに思い出されることもあろうかと思う。そして政治の世界はどうだったかと考えるとき、安藤の名言二つを思い出す。というよりも、この名言二つが2018年を映し出している。
 この格言は日米のリーダーに当てはまる、と私は思う。言うまでもなく、安倍晋三首相とドナルド・トランプ大統領だ。大阪府の国有地が学校法人「森友学園」に評価額よりも非常に低い価格で売却されたとされる問題をめぐって、安倍首相は国会やメディアのインタビューに誠実に答えてきたか?また加計学園の獣医学部新設にあたり、安倍首相の親友の加計孝太郎理事長に、官邸が特別な便宜を図ったのか?一方、米国のトランプ大統領は、異見を述べ、忠告を繰り返す側近を次々と罷免し、即物的とも見える政策を打ち出し世界を混乱させている。
政治家は政策通である前に、党内運営に長けている前に、政治能力が秀でている前に、良心を持ち、正直でなければならない。人格を備えた人物でなければならない。こんな発言をすると、前大阪市長の橋本徹氏に冷笑される。しかし、20世紀の偉大な政治家ウィンストン・チャーチルは1940年11月12日のネビル・チェンバレンへの追悼演説で、人間は、とりわけ政治家は「たとえ欺されても良心という盾を掲げて人生を歩いて行かなければならない」と強調し、ドイツの独裁者アドルフ・ヒトラーに裏切られても自らの信念に正直に生きたチェンバレンを褒めた。
 嘘をつき、「イエスマン」を重視するリーダーは政策に過誤をきたし、国家と国民を存亡の危機に陥れる場合が多い。それは歴史を紐解けば一目瞭然で理解できる。歴史の造詣が深いチャーチルはそれを骨の髄まで理解していた。
 安部首相とトランプ大統領の言行を見て、大変不遜で失礼な言い方だが、私は安藤が残したこの名言二つがこの二人のリーダーに当てはまると確信する。
 100歩譲り、「森友学園問題」と「加計学園問題」に関して、安倍首相は潔白だとしても、部下が安倍首相を「忖度」し、国民の代表者が集う国会で、安倍首相と妻の昭恵夫人に有利な虚偽発言をした。       
この事実から、安藤の名言が首相にのしかかる。なぜ?「忖度」は「イエスマン」を暗示させているからだ。首相が「楯突く部下」を遠ざけていると判断できる。首相が持論を展開する部下に聞き耳を立てるのら、部下は自分の身を守るために「忖度」をしない。
 一方トランプ大統領も「イエスマン」を可愛がる。誰が判断しても。それは明々白々だ。大統領は自分と見解が異なる部下を次々と罷免してきた。コ-ミーFBI長官、ティラーソン国務長官、マティス国防長官と挙げたらきりがない。
 20世紀が生んだ最高のリーダーのひとり、ウィンストン・チャーチルは「イエスマン」を嫌った。約20年にわたってチャーチルの警護を務め、チャーチルから絶大の信頼を得たウォルター・トンプソン警部は彼の著書で「ウィンストンはイエスマンをまったく信用していなかった」と明言する。
 チャーチルの盟友で、官僚として仕えたノーマンブルック卿は「ウィンストンは決定を下すまで異見を述べる人びとにも注意を払って聞き耳を立てました。そして納得すれば異見を政策に取り入れました」と語り、卓越したリーダーシップを持つ政治家は常に人の話を聞き、自らの考えに従って決断すると力説する。
 チャーチルの友人だった20世紀最高の喜劇王チャールズ・チャプリンは彼の著書で、「チャーチルの魅力の一つは他人の見解にどこまでも耳を傾け、それを尊重する姿勢にある。見解が違う相手に悪意を抱かない」と記している。
 チャーチルと安倍氏、チャーチルとトランプ氏との違いはここにある。そして安藤百福の冒頭の名言に戻る。「イエスマン」だけを登用し、議論することを嫌い、「うそ」だと疑われる政治家は「真のリーダー」ではなく、「本人も周囲も不幸」にすると言うことだ。
 私は2018年をふりかえって、そんな思いを抱く。だからこそ民主主義と自由、議論を尊重し、政敵や大衆を説得し、決断した暁には誰からの意見にも左右されない政治家が出現してこそ、われわれは共産党一党独裁の中国やあらゆる種類の独裁国家と対峙して自由と民主主義を守ることができると思う。
 ことしも1年間、わたしの見解をお聞きくださり、読者の皆さまに心から感謝を申し上げます。ありがとうございました。良い年をお迎えください。
 

写真:日清食品の創業者、安藤百福

 

戦略なきトランプ米大統領は政治家資質を暴露   マティス国防長官の辞任で

2018年12月22日 09時00分37秒 | 国際政治と世界の動き
 ドナルド・トランプ米大統領は20日、ジェームズ・マティス国防長官が2019年2月末に退任すると発表した。アメリカのトランプ政権で安全保障政策を担い、国際協調を重視してきたマティス国防長官の辞任は、日本との同盟関係を含め、今後のアメリカの安全保障政策に大きな影響を及ぼすだろう。
 トランプ大統領はツイッターで「2年間にわたって私の政権の国防長官を務めて功績を上げてきた、マティス将軍が2月末に退任する」と発表した。これに対して、マティス将軍は大統領の発表に文書で返答した。その中で、自分は退任するのではなく辞任するのだと強く主張し、「あなたは、さまざまな懸案をめぐり、より価値観を共有する人物を国防長官にする権限がある。私は辞任することが適切だと判断した」と述べた。
 トランプ大統領とマティス国防長官の意見の相違は日がたつにつれて際立っていたとみられ、トランプ大統領は10月のインタビュー番組で、「(マティスは)民主党支持者みたいなもの」と語った。
 19日に発表された中東・シリアからのアメリカ軍の撤退を、トランプ大統領はマティス長官の反対を押し切る形で決めたと伝えられている。またアフガニスタンの駐留米軍を、トランプ大統領が縮小しようとしたとき、マティス長官らがテロ対策として減らせないと説得。北朝鮮が日本列島越しに弾道ミサイルを飛ばしたときには、「北朝鮮との交渉は無駄だ」と言ったトランプ大統領を押しとどめた。さらにNATO(北大西洋条約機構)は「時代遅れ」と言うトランプ大統領に、なぜ軍事同盟が重要かを説き、「ウォーターボーディング(水責め)」という拷問はやめるべきだと話した。
 米ワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワード記者の政権内暴露本「FEAR」では、マティス将軍がトランプ大統領の振るまいと理解力を「小学5、6年生並みだ」と怒る場面が記されている。
 与野党の議員から彼の功績をたたえる声や、トランプ大統領のマティス長官への対応を非難する声があがっている。共和党の重鎮、グラム上院議員は声明を発表し、「アメリカ史上最もすばらしい軍の指導者の1人だ。トランプ大統領にも正しく、道徳的な軍事上の助言を続けてきた」と述べた。また民主党の上院トップ、シューマー院内総務は「マティス長官はトランプ政権で強さや安定を示す数少ないシンボルだった」と指摘した。
 日本の政治家もマティス長官の辞任に驚きを隠していない。自民党の岸田政務調査会長は記者会見で、「びっくりするニュースだ。マティス国防長官は、トランプ政権の重要な重しであり、安定感をもたらすために大切な存在だ。日本の外交・安全保障を考える上で、今後、トランプ政権がどのような方向に動いていくのか、しっかり注視していかなければならない」と述べた。
 「NHK NEWS WEB」によると、複数の日米関係筋は「トランプ政権下で強固な日米同盟を維持できてきたのは、マティス長官の存在によるところが大きい。マティス長官は東アジアのアメリカ軍のプレゼンスの重要性を誰よりも強く訴えていた」「「マティス長官はトランプ政権のなかでも心から安心して安全保障政策を議論できる閣僚だった。その意味でも辞任はとても残念だ」と述べた。
 マティス長官は歴史に造詣が深い戦略家としても知られ、国内や諸外国の多くの政治家や専門家から高い評価を受けてきた。一人の愛国者として、広い観点から客観的に国際政治や軍事を観察し、米国の国益を計ってきた。
 マティス長官は書簡で、「アメリカは強固な同盟関係の維持と同盟国への敬意なくして国益を守ることができない」と記すなど、同盟国との関係の重要性を重ねて強調する。とりわけ、米国の国防費の負担割合が大きいとトランプ大統領が批判するNATO(北大西洋条約機構)について、マティス長官は「アメリカを襲った同時多発テロ事件を受けて、NATOの民主的な国々がアメリカとともに戦う強さを証明した」と強調し、NATO諸国をたたえている。
 またアメリカと同盟国の安全と利益を脅かす国として中国とロシアを挙げたうえで、「われわれは、こうした国々に対して断固とした姿勢で臨まなければならない」と語り、ロシアに融和的とも言われるトランプ大統領の姿勢に対する批判をにじませている。
 ほんのちょっぴりでも国際政治を学んだ人びとや国際政治を学んでいる大学生は、マティス長官の意見に賛同できなくても理解できる。
 シューマー院内総務が「ケリー大統領首席補佐官、マティス国防長官、それにマクマスター前大統領補佐官といった、安定、強さ、知識を示すものがすべてこの政権から去っている」と述べたように、トランプ政権にはもはや「イエスマン」しか残されていないようだ。トランプ大統領が、耳の痛いことを言う閣僚を次々と排除したため、大統領の暴走を止める歯止め役がいなくなった。
 上司におもねる「イエスマン」を信用せず、自らの見解を堂々と述べる政敵を愛した20世紀最高の政治家の一人、ウィンストン・チャーチルと、トランプ大統領とは180度違う人物のようだ。トランプのような人物が国家のリーダー、それも世界にもっとも影響力を及ぼす米国の最高指導者に就任すれば、世界が混乱するのは必至だ。
 同盟重視の方針を強く主張してきたマティス国防長官の辞任により、トランプ政権が同盟重視よりもアメリカ第一主義に今後ますます傾いていくだろう。
 この厳しい環境の中で、トランプ大統領が「ソロバン」をはじき、貿易や安全保障について日本に無理難題を押しつけてくれば、安倍政権はどうするのか。これまでのように「擦り寄り」だけでトランプを満足させることはできなくなるだろう。
 日本は中国という共産党一党独裁国家を隣国にいただく。また先日、韓国海軍の駆逐艦が「攻撃予告」ともいえる火器管制用レーダーによる危険な行為を海上自衛隊のP1哨戒機に対しておこなった韓国は真の日本の同盟国とは言えない。
 今こそ日本の政治家と国民は現実を直視し、「白黒的な見方」や「観念論」、「情緒」を廃さなければならないと思う。中国、米国、韓国(北朝鮮を含む)の歴史を紐解き、そこから彼らの国民性、文化、ものの見方、慣習、社会通念、社会の特性を理解しなければならない。そこから我々の責任で自らの政策を打ち出すべきだ。
 決して自らの歴史の窓や国民性を基準にして他国を判断する愚かさだけは避けるべきだ。このブログに何度も記したチャーチルの名言を記し、このブログを終わりたい。
 「戦争においても政策においても、常に自分を(帝政ドイツの宰相)ビスマルクが『他の人』と呼んだものの立場において見るようにせねばならない。一省の長官がこのことを十分にやればやるほど、正しい進路を発見する機会が多い。相手がどう考えているかについての知識を持てば持つほど、相手が何をするかを知った場合に戸惑うことが少なくなる。だが、深い十分な知識を伴わない希望的観測や想像はワナのようなものだ」

  
 

南青山の反対住民は大局観を持ってほしい    港区の児童相談所建設に思う

2018年12月20日 09時14分53秒 | 時事問題
  民放各局のワイドショーが東京都港区の自動相談所建設問題を取り上げ、反対住民を諫め、港区の説明不足を批判している。私は心情的に反対住民の気持ちを理解できるが、事実に基づいていない住民見解が多い。直感と心情的な発言が大多数で、その中には”高級住宅街”に住んでいるというプライドと排他的な感情が見え隠れしているようだ。
  古希を迎え、暇に任せて昼のワイドショーを聞いている私はふと若い時代に過ごした英国生活を思い出した。そこで出会った”セレブ”で階級の高い(英国は当時、階級社会が顕著だった。現在もその傾向があると聞く)知識人の考えと、南青山の児童相談所反対住民との公共(パブリック)に対する意識の差に愕然とする。
  テレビで見る限り、反対住民の意見はこうだ。「なんで青山の一等地にそんな施設をつくらなきゃならないんですか」「港区としての価値が下がるじゃないか」 「ネギひとつ買うのにも紀ノ国屋に行く。紀ノ国屋はほかの地域のスーパーより高い。DVで保護される人は生活に困窮されていていて生活するのに大変なはずなのに紀ノ国屋に買い物に行けるのか」「100億もかけて、なんで法に触れるような少年の施設をここにつくらなきゃならないのか」
  英国のロンドン・ハムステッドなどに住む”セレブ知識人”と南青山の一等地に住む人びとは物質的な面で恵まれている。両者とも「金持ち」だろうが、精神的な、ものの考え方で両者には大きな開きがある。
 港区主催の説明会で建設反対を唱えた人びと、特にけんか腰で港区職員に詰め寄った人びとには、失礼な言葉を書いてお許し願いたいが、「成り上がり」「成金」者なのかもしれない。物質的には豊かだが精神的には貧困だということだろう。
  英国社会で階級の高い”セレブ”は確かに「上から目線で話す」。私のロンドン時代の友人が「英国の労働者階級と違って上流階級の連中は鼻持ちならないと思わないか。俺は嫌いだ」と私に話した。確かに鼻持ちならない連中だが、彼らはそれ相応の社会的な責任と義務を果たしている。
  言行は父親が子どもを世話するファターナリズムなのだが、自らの社会的な義務を自覚している。たとえば、当時の大学の教授は大英帝国の知識人だと自覚し、旧植民地から来る学生や英国の労働者階級から来る貧しい学生に奨学金の世話をして激励していた。ロンドン・ハムステッドに住む住民は、伯爵家の人びとだけでなく、「成金」上がりの人びとでも、両親が離婚した貧しい家庭の児童らを預かる児童養護施設や非行に走る若者や子どもに温かい手を財政的に、精神的に差しのべていたのを知っている。自分の地域に児童相談所が建設されることに反対しなかった。
 そういう私も英移民当局から、財政的なめどが立たずに不法労働をしたため国外へ追い出されそうになり、英帝国の指導者階級の知識人に保証人になってもらった。その老紳士から見れば、数回会っただけで私の保証人になったことには相当の勇気がいったはずだ。約30年前に亡くなられたが、今でも英国の老紳士に感謝している。
 その時に思ったことがある。日本社会は事実上、世襲身分がないため、精神的、心理的に同じような考えを持つ。皆が同じ目線で見る。だから同じ不安や不満がたまり噴出する。
 私は今でも、英国の上流階級の人びとの見方、考え方に抵抗があるが、彼らはその身分にあったそれ相応の社会的義務を自覚し、その責任を果たしていると思う。
 それを日本に当てはめれば、すでに消滅した「武士道精神」なのかもしれない。明治時代には旧藩主が、優秀だが貧しくて高等教育を受けられない子どもに資金援助し、その子どもが陸軍士官学校を卒業したという話を聞く。満州事変の首謀者のひとり、石原莞爾もその子どもの一人だ。
 茨城県内の児童相談所で10数年にわたって嘱託医を務めてきた成田奈緒子さん(文教大学教育学部特別支援教育専修教授)は青山の反対住民に対して「非常に貧困な発想。ともに地域で子どもを育てるという意識が低すぎると言わざるを得ない。子どもが虐待死すると、何をしているのだと責められるのが児童相談所。港区はその機能を充実させようとしているのに、差別的な認識や偏見で反対しているように聞こえてとても残念です」と話し、怒りを隠さない。
 尾木ママこと教育評論家の尾木直樹氏も児童相談所ができるメリットを挙げる。「「子育て環境が貧しく、身近に子育て相談・支援センターができることは、若いママさんにとっては心強い。子育て・教育に優しい南青山という新しいブランド力がつけ加わるのではないでしょうか?」
 物事にはメリット、デメリットがある。児童相談所建設に対する青山の住民の不安は理解できるが、ここは勇気を出して建設に賛成してほしい。子どもには罪はない。こどもは日本国民の宝だ。彼らが明日の日本をつくる原動力だ。大名の気持ちになってほしいと願う。わたしも来年、母子家庭支援センターでボランティアとして、こどもに英語を教えようと考えている。どんな子どもか、少しばかり不安もあるが、それが余生の社会貢献だと思う。
 

法の国カナダは中国に勝利するか  ファーウェイ事件で中国共産党は本性を暴露

2018年12月14日 20時10分19秒 | 中国と世界
 中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)幹部の拘束をめぐる米国、カナダと中国の駆け引きは日本の戦国時代を思わせる。米国のトランプ大統領や中国共産党政府は司法の問題を政治問題化する。トランプという米国人は“商売人”と言ってしまえばそれまでだが、目先の利益に敏であるが、長期戦略には長けていない。しかし何にもまして、中国人と同様、駆け引きが上手い。
 トランプは、米国建国以来、米国政治の伝統である司法、行政、立法の三権分立を軽視し、経済、司法などすべての問題を政治問題化してきた。トランプほど民主主義制度をないがしろにして、経済、司法の問題にまで政治化している大統領はいない。
 今回のファーウェイ問題で、トランプ大統領はロイター通信に「安全保障上の利益になるか、中国との貿易取引で役立つのであれば(捜査に)介入する」と語り、行政が司法に介入すると断言した。
 一方、中国共産党はファーウェイ事件を通して、その本性を世界に暴露している。中国共産党の特質は、中国の伝統社会や文化、慣習や思想、西洋が生んだ共産主義が混ざり合っているところにある。
 共産主義理論は私有財産を認めない。国家と党が生産手段のすべてを握り、理論上「人民」に公平に生産物を分配する。しかし、ソ連崩壊後、中国共産党は私企業を認めたが、実質的に指導下におく。ましてやハイテク・通信機器など21世紀を牛耳るハイテク・通信機器分野では、企業は門前に「私」の表札を掲げるが、家の中に「共産党」のプレートを貼り付けている。軍事にも応用できるこの分野は、中国共産党の命運を握っている。
 ファーウェイの孟晩舟(モン・ワンジョン)副会長兼最高責任者(CFO)が、米国の要請を受けてカナダ当局に逮捕されてから13日。カナダが孟容疑者の引き渡しを求める米国と即時釈放を要求する中国の板挟みになっている。
 孟容疑者が拘束されてから、中国共産党はカナダ人2人を「国家の安全に危害を及ぼす活動をした疑い」で拘束した。二人はカナダの元外交官でシンクタンク「国際危機グループ」(ICG)職員のマイケル・コブリグ氏とカナダ人ビジネスマンのマイケル・スパバ氏。政治・外交専門家の大多数は中国の行動を報復と見ている。
 私は何度もこのブログでお話ししたが、中国は歴史上、一度として法律で支配された歴史はない。5000年の中国史を紐解けば理解できる。特に紀元前2世紀に中国で初めて皇帝に就いた始皇帝から2000年たっても、「一君万民」の政治・社会秩序だ。皇帝が法であり、法は皇帝の下に置かれる。
 今日も同じだ。中国共産党が法であり、共産党の上に法はない。その支配下では、強大な権力を持った指導者(独裁者)か特権集団が皇帝になる。そして中国の人びとの多くは支配者を信用せず、支配者から距離を置く。
 この歴史上の流れから、中国社会では、宗族という巨大な血縁組織ができあがり、その組織内では相互扶助の精神が行きわたるが、その相互扶助の巨大な壁の外の人びとは利益相反者とみなされ、極論すれば「何をしてもよい」と言うことになる。
 中国人が平気で制作する海賊版、外国特許や知的財産権を平気で盗む行為などはこのことを如実に表している。日本の企業や自治体が知らない間に、「青森」などの特許を使われていたり、平気でドラえもんやディズニーランドのミッキーマウスの特許料を支払わずに使用する行為は彼らの文化や思想に由来する。
 中国共産党の対外政策は、中国社会の伝統や文化、国民性、習慣、風習を理解すれば、一目瞭然で理解できる。中国自体が大きな家族、血縁組織(宗族社会)であり、この壁の外にある外国人や外国には何をしても許される。
 孟容疑者をめぐる中国共産党の行動は法ではなく人治であり、政治・外交の駆け引きであり、「権謀術数」そのものだ。読者諸君が法を遵守しないのは中国共産党だけだと思っているのなら、それは大きな間違いだ。法の軽視や無視は「一君万民」の下で皇帝の横暴に対して自らを守る手段だった。皇帝は法の上に君臨し、それを自由自在に自らの都合の良いように利用してきた。中国共産党は現在の皇帝であり、法の上に君臨する。
 ファーウェイ事件をめぐってカナダはどうするだろうか。カナダのフリーランド外相は「(米国への)引き渡し要請は正義を果たすために行われるべきものであり、政治化したり、他の目的のために乱用したりすべきではない」と中国共産党政府とトランプ米大統領に釘を刺す。 
 カナダのポートランド州立大学のブルース・ギリー教授はカナダ政府が最終的に孟氏を米国に引き渡すとみる。孟氏が米国の金融機関に虚偽の申告をし、米国から禁輸制裁を受けているイランにアメリカ製品を輸出したとの容疑をかけられている。
私もカナダ政府が自国の2人を犠牲にしてでも、孟容疑者を米国に引き渡す公算が大きいと思う。それがカナダの法治国家としての伝統だ。
読者もご存じの通り、カナダ人の先祖は英国からの移民だ。英国は「マグナカルタ大憲章」から約900年以上にわたって法治国家の伝統を築き上げてきた。1688~89年の「名誉革命」以来、「国王君臨すれども統治せず」の伝統がある。国王や女王、国民の上に法が燦然と輝いている。
 ファーウェイ事件をめぐるカナダと中国の政治・外交紛争は、「法治国家」と「法を軽視・無視する人治国家」の闘いである。中国は大国、米国に脅しをかけずに、その矛先を小国、カナダに向けた。中国共産党の指導者や幹部は「中国は現在、米国に歯が立たない」ことを理解しているからだ。
 ファーウェイ事件から我々が教訓として学ばなければならないことは、万が一、中国共産党が軍事的に東アジアを支配する日が来たら、経済的に世界を支配する日が到来したら、「法」ではなく、カナダ政府にくわえたような「脅しと報復」をしてくるということだ。法の支配ではなく、上下関係が厳格な「華夷秩序」が敷かれることになるだろう。それは実質的には中国の帝政時代の対外関係と同じだ。「華夷秩序」は中国の思想だと思っても過言ではない。
 共産党が支配する社会は、英国宰相ウィンストン・チャーチルの言葉を借りれば、「蜂社会」だ。女王蜂に何の不満を抱かず、働き続ける働き蜂。こんな社会は人間社会では成り立たない。自我と欲を持ち、不平不満を日常とする人間は「共産主義社会」では生きることができない。理想を抱き善だと信じた共産主義を実現しようとする共産党の指導者は理想を阻む人びとを容赦なく弾圧する。さらに悪いことには、中国共産党はその理想さえかなぐり捨て、偏狭な民族主義に走り、漢民族だけでなく、他民族をも弾圧している。これが中国社会だ。
  ファーウェイをめぐる中国とカナダの対立から、われわれ日本人は中国共産党を観察しなければ、将来「中国の魔の手」から逃れられないだろう。


 (補足)中国社会や伝統や中国人の国民性を理解するには、石平氏の「中国人の善と悪はなぜ逆さまか 宗族と一族イズム」と林語堂の「中国=文化と思想」を推薦する。私見だが、中国人から日本に帰化した石平氏は数々の作品を世に出している。日本人が大好きと見える。それはうれしいのだが、日本人の欠点がまだ見えておらず、情緒的な右派の人びとを礼賛しているように推察する。彼の考え方に賛同できないところもあるが、この書籍はすばらしいと思う。事実を客観的に記している。
  また、林語堂先生は20世紀初めから中葉に生きた人。米国人に中国人の思想や文化を紹介するために、この本を書いた。原題は「My Country and My People」。1936年に書かれた。この本は古典であり、中国人を理解する格好の教材である。

 写真は孟晩舟容疑者