英宰相ウィンストン・チャーチルからのメッセージ   

チャーチルの政治哲学や人生観を土台にし、幅広い分野の話を取り上げる。そして自説を述べる。

トランプ米大統領は「阿呆」なのか?  米国のパリ協定離脱通告に思う

2019年11月06日 22時22分29秒 | 地球環境・人口問題
  世界一「阿呆」な政治家は誰か。米国のドナルド・トランプ大統領だと私は思う。私は名誉毀損と思える言葉をリードにあえて置いた。それは私の嘆きであるばかりか、世界の人々の慟哭である。
  トランプ政権は4日、温暖化対策の国際ルール「パリ協定」からの脱退を国連に通告し、正式に手続きを開始した。
  パリ協定は、温暖化に向かっている気候変動に歯止めをかけるため、長期目標として今世紀末までに、国連加盟国に気温の上昇幅を2℃未満、できれば1.5℃以内に収めるよう求める。そのため、22世紀の夜明けまでに人為的な温室効果ガス排出量を実質ゼロにまで減らすことを規定する。
  トランプ大統領の脱退への思惑は明確だ。彼は3年前の大統領選期間中、気候変動は「でっち上げ」だと主張し、炭鉱労働者に媚びを売った。来年の大統領選挙に勝つために、石炭や鉄鋼などの重厚長大産業の労働者の支持を得たい気持ちは4年前と変らない。
  今までアメリカの主要なエネルギー供給源だった石炭産業界や、経済成長を支えてきた重工業産業は米国のパリ協定からの離脱を歓迎している。
  朝日新聞の報道によれば、ポンペオ米国務長官は「(パリ協定が)米国の労働者、ビジネス、納税者に経済的な重荷を課している」と、脱退理由を説明した。パリ協定に基づいて、米国が拠出(一部は拠出済み)する30億ドルを、ポンペオ国務長官は「重荷」と述べたが、はたいしてそうなのか。それは「重荷」ではなく、「貢献」だ。
  今まで米国産業を支えてきた石炭労働者や鉄鋼労働者は、イギリス産業革命(18世紀後半から19世紀前半)当時の英労働者と同じ心理だ。そして、目の前の現象(来年の大統領選)にのみとらわれ、長期的な展望を描く能力が全くないトランプが彼らの票を求める構図だ。
  産業革命当時、英労働者は、さっそうと登場した蒸気機関などの「新兵器」を打ち壊して、自分らの仕事を守ろうとあがいた。しかし、時の流れは彼らを押し流した。トランプと石炭労働者も、パリ協定に反対しても、石炭や鉄鋼産業を押しつぶす元凶であるIT革命に飲み込まれよう。時の流れの変化に対抗する者は必ず滅びる。IT革命はパリ協定を背後から後押ししているように見える。
  歴史は将来、トランプという史上最悪の指導者を正しく評価するだろう。それは必然の歴史の法則だと思う。この男の判断尺度はすべて「金」である。環境問題だけでなく、安保もしかり。政治家にとって致命的な欠陥だ。
   米国での山火事の多発、アマゾン流域の山火事による広大な森林焼失面積、台風によって一度に多数の河川が氾濫した今年の日本。どれをとっても温暖化現象の証拠にほかならない。
  米国のビル・クリントン元大統領はツイッターで「パリ協定に背を向けることは大きな間違いだ。気候変動は現実だ。子供達にもっといい未来を。未来を保証することによってもっと仕事が生まれる」と書き込んだ。それは歴史の流れを正確に捉えている。

(写真)パリ協定からの離脱を発表するトランプ米大統領

 

地球温暖化はスピードを増している  ヘーゲル思想でこの問題を切る

2019年10月25日 11時30分49秒 | 地球環境・人口問題
     地球温暖化は相当深刻な様相を呈しながら進んでいるようだ。愚かな人間はそれに気づいていない。否、気づいていても「地球温暖化ではない」と呪文のように唱えながら現実を見ないように努めている節がある。哲学者ゲオルク・フリードリッヒ・ヘーゲルの思想と照らし合わせると、人間の愚かさが理解できる。
  哲学思想はそれぞれの人々の生き様から生まれる。17世紀末から18世紀前半を生きたドイツの哲学者ヘーゲルは古代ギリシャのソクラテスからの欧州の哲学を集大成し発展させた偉大な哲学者である。ヘーゲルの前にヘーゲルなし、ヘーゲルの後にヘーゲルはなし、と言われた人物だが、決して聖人君主ではない。
    若い頃は学校の勉強ができず、女たらしで、不倫して既婚女性に子どもを産ませ、10年以上も、今で言えばフリーター(家庭教師)をしながらその日その日を食いつないでいた。しかし47歳のとき、ベルリン大学に招かれた。以降13年間在職し、広汎な講壇活動を展開した。
  彼の思想の中核は「弁証法」だ。大学時代ほんのちょっとだけこの思想をかじった私は「テーゼ、アンチテーゼ、ジンテーゼ」と難解な理論を振りかざす思想家だとしか認識してこなかった。カール・マルクスやサルトル、西田幾太郎らに大きな影響を与えたぐらいにしか理解していなかった。
  会社を完全に退職してから4年過ぎ去り暇をもてあましていた私は、この4月から白鴎大学(栃木県小山市)の聴講生としてヘーゲル哲学を学んでいる。そこで、素晴らしい教授に出会い、ヘーゲル哲学の一端を理解した。
  弁証法とは平たく言えば、「勝ち組が負け組になり、負け組が勝ち組になる」と言うことだ。ヘーゲルは「人間社会と、そこに住む自分を固定化して考えてはならない」という。
  高校時代、まれに見る優秀な生徒が40年後に再会すれば、平凡な生活をしていることがよく見かける。当時の先生が将来を嘱望したほど優秀な生徒が転落の人生を歩むこともある。平凡が悪いのではない。それもまた「是」である。しかし、高校時代、校則に何度も違反して謹慎処分を喰らい、成績は下から数えた方が早かった生徒が40年後に一流会社の枢要な職責についているケースもある。私の友人の1人だが、後に担任の先生が驚いているを目の当たりにした記憶がある。
 ヘーゲルは著書「精神現象学」で「自分があるものを肯定する。自分が気づいていようがいまいが、必ず肯定するものがあれば否定するものが存在する」「社会は矛盾だらけだ。しかし社会はそれを超えた有機的な統一がある」
  ヘーゲルは「弁証法」を編みだし難しいことを言っているが、要するにそれは「自らが経験したこと、それを叙述して把握したあかつきに、そのものを俯瞰(ふかん)して見なければ、統一した全体像は見えてこない。ものは変化しながら動いていくのだから」。だから永遠不滅の真理は存在しない。トータルにものを見なければならないのだ。
  19歳のとき、ヘーゲルはフランス革命を隣国ドイツ(当時は日本の江戸時代と同じように諸侯の国々《藩》に分かれていた)から見た。彼は最初、一般の人々が国王・貴族社会をひっくり返し自由と博愛を手に入れたことを諸手を挙げて支持した。しかし、彼らが国王と貴族と同じ圧政を始めたことにお驚き落胆した。
  マクシミリアン・ロベスピエールらフランス革命の急進派は国王ルイ16世や貴族を断頭台に送り、自らの理想に反対する人々を殺した。ヘーゲルは革命と理想は虐殺を生み反動に変ることを、自らの経験で理解した。つまり「世の中は定在(動かずに存在)することはない」と悟った。時とともに変化するのだ。理想は理想のままではありえず、真っ黒などぶに変るのが普通だ。
  地球温暖化も社会の変化のひとつだと私は思う。人間は営みの中で、社会や環境を変えていく。トランプ大統領のような人物はものは「定在」しているかのようなことを主張し、地球温暖化を否定する。彼は愚か者か、それとも偽善者のどちらかだと思う。社会と時の変化から目を背けている。
    このまま地球温暖化が進めば今世紀末に海面が1メートル強上昇し、世界の氷河は40%以上失われる恐れがある。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が9月25日、特別報告書を公表し、こう述べた。生態系に深刻な被害が生じ、高潮や巨大台風による災害リスクが増すと警告する。
  IPCCは「温暖化抑制のためエネルギーや土地利用といった社会のあらゆる面で変革が必要だ」と指摘、来年に本格始動するパリ協定の下で温室効果ガス排出を迅速に減らす必要性を強調する。
  特別報告書によると、海面の高さはこの100年ほどで最大21センチ上昇した。南極などの氷が解けて上昇のペースが加速している。
  われわれはヘーゲルの思想を思い浮かべながら、地球温暖化と正面から向き合い、適切に対処していかなければならない。そうしなければ、その変化は人類を飲み込み、人類は死滅することは火を見るよりも明らかだ。

差し迫る世界の危機を救える指導者が現れるのか    UNEPの地球温暖化報告書発表で

2018年11月28日 10時21分08秒 | 地球環境・人口問題
 外国人労働者受け入れ拡大に向けた「入管法案」の衆院通過の記事がきょうの各紙朝刊の一面トップを飾った。その影に隠れて国連環境計画(UNEP)の年次報告書が目立たなかった。しかし、その報告内容は憂慮を超えて危機感と表現できる内容だ。
 UNEPは27日、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定(Paris Agreement)」で定められた目標達成に向けた進捗に関する年次報告書で、現状の温室効果ガス排出量と目標達成に必要な水準との差は広がり続けていると警告し、人類の生存が将来、危機に陥る可能性を示唆した。
 これまでの気温上昇幅はわずか1度だが、世界各地では大規模な森林火災や熱波、ハリケーンが増加の一途をたどっている。このままのペースで行けば気温上昇幅は今世紀末までにおよそ4度に達するとの予測もあり、科学者らは文明の基盤を揺るがす事態になると警鐘を鳴らしている。
 今年で9回目の公表となる「排出ギャップ報告書(Emissions Gap Report)」によると、パリ協定で掲げた温室効果ガスの世界全体の削減目標を、2度未満で現状の3倍、1.5未満で5倍に高める必要があると指摘。現在の目標のままでは今世紀末までに現在より平均3.2土前後上昇すると予測する。
 大規模な森林火災といえば、過去最悪の米カリフォルニアの山火事だ。2週間あまりでようやく25日に鎮火した。山火事の頻発は地球温暖化の証拠のひとつ。
日本でも、ことし7月下旬から8月上旬にかけて熱波が襲った。40年前には気温が35度以上になることはめったになかったが、今や気温が35度から40度に上昇するのは珍しくなくなった。この半世紀の地球温暖化は加速し、その深刻さが増している。
 だが、世界のリーダーは自国の利益と経済発展ばかりに目が向き、地球が破滅に向かっているのを知らんぷりしている。この問題は「だれもが危機感を抱いたときには手遅れになる」。そして温暖化で地球が滅びる前に、各国が生き残りのための戦争を始め、自滅する。私は人類の愚かさ故に、こんなシナリオを描き、危機感を強めている。古希を最近迎えた私にとり、孫やひ孫の不幸が目に映る。
 わたしは世界のリーダーが「馬鹿」なのか、それとも「自殺願望者」なのか分からない。特に米国のトランプ大統領にいたっては「地球温暖化など、この世に存在しない」と何度も主張する。本当にそう思っているのなら、愚かの極みの指導者だ。議論せずに政敵をツイッターでののしるだけ。指導者に値しない。
 20世紀の偉大な政治家ウィンストン・チャーチルは1925年5月の英議会で、「諸君は現実を見なければならない。現実が諸君を見つめているのだから」と述べた。政治家はもちろん理想を掲げることが大切だが、それを実現するためには冷厳な現実を友としなければならない、と大宰相は言う。そして「イエスマン」を信頼しなかった。通算20年間チャーチルの警護を務めたトンプソン警部は「チャーチルはイエスマンに割く時間はほとんどなかった」と述べる。
 トランプ大統領はチャーチルと真逆の人物のようだ。イエスマンだけを側近に置いている。自分に反対する人物を批判する。自国の産業を擁護するため、地球温暖化を軽視し、地球環境保護者の見解を批判する。地球温暖化などで世界はこれから危機に見舞われる可能性が強いとき、世界最強国のリーダーであるトランプ大統領の存在は日本人だけでなく世界中の人びとにとって不幸だと思う。一日も早く世界を率い、環境問題の解決に奮闘する指導者の出現を切望する。

(写真)米カリフォルニア州の森林火災

地球は確実に温暖化の道をたどっている   熱中症で亡くなった愛知県・豊田市の小1男子生徒の冥福を祈る

2018年07月18日 10時55分17秒 | 地球環境・人口問題
  17日正午前、愛知県豊田市の市立梅坪小学校の校外学習から帰った1年男子児童(6)が意識をなくし、救急搬送されたが熱射病で亡くなる事故があった。
ご両親の嘆きと怒りはいかばかりであろうか。学校側が環境の変化に気づかず、従来の慣行にしばられたことが原因だ。学校側には重大な落ち度があったが、非難だけでなく貴重な教訓を全国の小学校に伝え、各市の教育委員会はこの児童の犠牲を教訓にすべきだ。
  市教育委員会と学校によると、午前10時ごろ、1年生4クラスの112人が校外学習の一環で約1キロ離れた和合公園へ歩いて出発。虫捕りや遊具を使った遊びをした後、11時半ごろに学校へ戻った。11時50分ごろ、担任の女性教諭が男子児童の唇の色の異変に気づき、児童は間もなく意識を失ったという。
  児童に持病はなく、出発前の健康確認では異常を訴えていなかった。だが、公園に向かっている途中から「疲れた」と話し、ほかの児童からも遅れ気味になっていて、教諭が手を引いて歩いたという。
  豊田市内は午前9時に気温が30度を超え、11時には33・4度、正午には34・8度を観測。児童たちは水筒持参で、こまめに飲むよう指示していたという。教室にはエアコンはないが扇風機が設置されており、戻った際も動かしていた。
  今回の校外学習では、ほかにも3人の女子児童が体調不良を訴え、1人は保護者と一緒に早退したという。
  17日夕、男児が亡くなった市立梅坪小の籔下隆校長と鈴木直樹・市教育委員会学校教育課長が記者会見で「水分は補給するよう声はかけていた」「健康は異常がないか事前に確認した」と釈明したが、「学校教育の場で尊い命が失われた。深くおわび申し上げます」と陳謝した。
  籔下校長は校外学習の目的が「虫捕り」であり、夏に実施した点は「問題はない」としつつ、「こういう結果になったことは判断が甘かったと痛感している」と声をつまらせた。
  熱中症に詳しい兵庫医科大特別招聘(しょうへい)教授の服部益治さんは「過去に熱中症が起きなかったから大丈夫という考えは、捨てないといけない」と訴える。「命は他のなにものにも代えられない。高温注意情報が出たときは原則、炎天下の外に出ず、野外活動は中止すべきだ」
  本当に悲惨な結果になった。服部さんの訴えに耳を傾けるべきだ。チャーチルが生前、強調していたことにひとつに「変化」がある。明らかに環境が変化している。それも重大な変化だ。
  私が20代の頃、夏に35度を超えることはほとんどなかった。30代後半の1980年代、名古屋に赴任した。当時「名古屋は暑いよ」と聞かされて赴任した。確かに暑かったが、それでも35度を超えることはなかった。
  日中暑くても夜半に熱帯夜になることは7,8月を通して10~20日ぐらいだった。現在はほぼ毎日熱帯夜だ。また夜中、エアコンをつけて寝ることはなかった。夜明けは涼しかった。現在、専門家は、夜中、エアコンをつけ、26~27度ぐらいして寝なさいと勧告している。 朝のワイドショウで暑さ対策をこれほどまで長時間にわたって放送しているのが今年の特徴だ。
  明らかに地球温暖化現象が表面に現れてきた証拠だ。取り返しのつかない分岐点に差し掛かっているのかもしれない。船で言えば、45度傾いていて、これ以上傾けば復元できないところまできているのかもしれない。
それなのに人間という動物は二酸化炭素を排出し続けている。中国やインドはどの中進国は先進国に追いつこうとして二酸化炭素の排出におかまいなしだ。このままでは21世紀末にはどうなるのだろうか。
  中国の人々の暮らしが豊かになることを否定しないが、中国やインドなどの中進国や開発途上国と先進国とが協調して真剣に地球温暖化防止対策を施さなければ、地球は滅びるだろう。暑さに耐えられなくなったときは、農業は壊滅寸前で食糧不足におちいり、食料戦争が起こるにちがいない。そして干ばつで地球が干上がり、人類が滅亡する前に、食料戦争で原子爆弾により滅亡するのは目に見えている。
  わたしはこのブログで「人間ほど愚かな動物はいない」と申し上げたが、私の独言を否定するためにも世界中の人々が地球温暖化の防止に今こそ立ち上がらなければならないと思う。この温暖化をもたらしたわれわれの世代や前の世代がこの問題を解決する義務を子孫のために負っている。

 写真:男児死亡について記者会見で説明する愛知県豊田市教委の鈴木直樹・学校教育課長(左)と籔下隆・市立梅坪小校長

日本の食料不足の危機招く厳しい世界の水事情 英紙を読んで思う

2017年07月29日 22時30分39秒 | 地球環境・人口問題
 水問題がわれわれの未来を暗くしている。将来の真の脅威は水不足だ。原油なしに食料を生産できるが、水なしにはそれはできない。
 われわれは一日平均4リットルの水を飲む。しかしわれわれが一日で食べる食料を生産するのに2千リットルの水を必要とする。食料の中で大きな比重を占める世界の穀類の40%が潅漑(かんがい)により生産されている。地球人口の増加が、この60年で穀物生産を3倍にし、それを可能にしたのがかんがい設備の普及だ。かんがいで潤された世界の農地は1950年に2億5千万エーカだったが、2000年には7億エーカにまで拡大した。
 農業従事者は農業用水を河川か地下水から引いてきている。河川をせき止めダムを建設する方法は近年、ダムに適した地形が少なくなり、河川によるかんがい農業の将来は楽観を許さない。その上、地球人口が増え続けている。増え続ければそれだけ食糧増産をしなければならず、河川のほかに地下水に頼る比重が増えるが、地下水が無限にあるわけではない。
今日、世界人口の半分を占める18カ国は地下水を過剰にくみ上げており、雨水により供給される地下水を超えて利用している。18カ国のうち世界三大穀物生産国は中国、インド、米国。またイラン、パキスタン、メキシコといった人口の多い国も含まれている。
 18カ国のうちの数カ国は地下水を使いすぎ、井戸が干上がり始めているという。このままでは水不足は目に見えており、穀物増産も期待薄である。
 世界有数の石油産油国のサウジアラビアは豊富な資金を使って1970年代にかんがい設備をつくり、地下水を利用して穀物の自給に成功したが、30年も持たなかった。2006年を境にして、穀物生産は毎年急速に減り、2016年には穀物生産はゼロになった。3千万人の国民の腹を満たすため、原油代金を使って1千500万トンの米、大麦、小麦、とうもろこしを輸入し始めた。
 内戦の惨禍に苦しめられているシリアは2001年、穀物生産が最高に達したが、その後、地下水が減少。当時に比べて32%も穀物生産量が落ちている。シリアの隣国、イラクも現在、自国民の食料の3分の2を外国からの輸入に頼っている。かつての古代文明発祥の地にはチグリス・ユーフラテス河の豊富な水量があった。しかしその水量は目に見えて減少している。イエメンも同様の運命に直面している。メキシコ、イランやパキスタンも同様だ。
 三大穀物生産国の一つである中国の穀物生産の5分の4はかんがいによるものであり、揚子江や黄河などの大河川に依存する。
 2001年に発表した中国政府の地下水調査報告では、華北の大穀倉地帯(中国の小麦とトウモロコシの収穫量の半分と3分の1をそれぞれ占める)の地下水量が急速に減少している。その原因は地下水の取り過ぎである。世界銀行は中国が将来想像を絶する水不足に見舞われる可能性があると警告する。
 人口が毎年1500万人増えているインドの食糧事情は将来中国よりも深刻になると、世界銀行は警告している。インドでは地下水の掘削が野放しになっており、農業従事者はなりふり構わず地下水を農地に利用。このため、地下水量は目に見えて減少している。
 確かにインドの食糧増産量は増えているが、地下水を犠牲にしているのは明らかだ。そのうち、水不足におちいり食糧増産ができなくなるのは誰の目にもわかる。
 米国の事情もインドや中国と似たり寄ったりである。地下水の取り過ぎは明らかだ。地下水を犠牲にして、穀物増産を続けている。
 世界は水資源を犠牲にして穀物増産を続けている。水だけではない。土地を使いすぎ、肥沃な土地が干からび始めている。モンゴルや南アフリカのレソトが典型的な例である。
 水量の枯渇により食料生産の将来が暗い。それに気候温暖化が将来の食料事情の悪化に追い打ちをかけている。
 ちなみに日本の食糧自給率は40%。かつて穀倉地帯といわれた新潟や東北の農地は現在、農業を引き継ぐ人がなくなり荒れ放題だ。いったん田んぼの手入れを怠ると、二度と田んぼとして使えないという。
 日本人は食料を他国から買い、毎日暮らしている。しかし、日本が輸入している農業国の将来は暗澹としている。日本への穀物供給国が自国の国民を養うだけの穀物しか生産できなくなれば、当然ながら日本への輸出をストップするだろう。子どもや孫の時代に食糧危機に見舞われる公算は毎年大きくなっているといっても過言ではない。われわれは食料の自給自足をどうするかを真剣に考える最後の時を迎えているのかもしれない。この問題を真剣に考えなければたいへんなことになる。それだけは確かだ。

※最近の英紙「ガーディアン」の特集記事をベースにして書きました。