英宰相ウィンストン・チャーチルからのメッセージ   

チャーチルの政治哲学や人生観を土台にし、幅広い分野の話を取り上げる。そして自説を述べる。

コーギー犬と人生を歩んだエリザベス女王 在位期間最長記録を樹立

2015年09月09日 14時33分18秒 | イギリス王室
 エリザベス女王が9日、王室の在位期間最長記録を更新した。これまでの記録保持者はビクトリア女王の63年216日。英国が大英帝国として世界に君臨した19世紀の君主だ。
 ビクトリア女王の在位記録を更新するエリザベス女王は、正確に言えば、エリザベス2世である。エリザベス1世は16世紀後半のイングランド女王で、1588年に当時欧州最強のスペインの無敵艦隊を撃破した時にその先頭に立った。生涯独身だったエリザベス1世は歴代の君主の中でも最も英邁な元首であり、国民の人気はたいへん高かった。
 エリザベス2世は1世に勝るとも劣らないぐらい英国民に親しまれている。本来なら女王になることができる境遇になかった。
 エリザベス2世の父親はジョージ6世。彼の兄、エドワード8世は、父親のジョージ5世の逝去(1936年1月)を受け、国王に即位。しかしエドワード8世が、イギリスと対立しつつあった独伊の独裁国家に親近感があるような態度をとった上、離婚経験のあるアメリカ人女性のウリス・シンプソン夫人との結婚をほのめかした。このため、スタンリー・ボールドウィン首相ら保守党幹部や世論に退位を迫られ、同年12月に退位することとなった。そして、エリザベス2世の父が即位して、ジョージ6世となった。
 もしエドワード8世が、国民に祝福された結婚をしていれば、当然子どもが生まれただろう。その子が君主になるのだから、エリザベス女王(2世を省く)が君主になるとは英国民の誰もが予想していなかった。
 誰もが君主になることを予想していなかったエリザベス女王は犬好きで、コーギーは女王の愛犬として広く知られている。2012年に開催されたロンドン五輪の開会式の映像で、女王の周りを歩いていた愛らしい犬の姿を覚えている人は多いのではないだろうか。
 女王自身はコーギーを「家族」と呼んでいる。幼いころから89歳となった現在に至るまで、人生の大半をコーギーとともに過ごしてきた。女王に即位してから飼ったコーギーの数は、実に30匹以上。一時は13匹ものコーギーを同時に飼育していたという。エリザベス女王の周囲に群がる犬が一斉に移動していく様子を、故ダイアナ妃は「動くじゅうたん」と揶揄したほどだ。
 現在飼育している2匹のコーギーは、エリザベス女王が18歳のときに飼い始めた犬から数えて14代目の子孫になる。エリザベス女王は、史上最長となる在位期間をコーギーとともに歩んできたといっても過言ではない。
 コーギーは、王室メンバーの一員としてVIP待遇を受けている。ロンドンのバッキンガム宮殿内には「コーギー・ルーム」と呼ばれる専用の部屋を特設。最も多いときには、6名のスタッフが世話をしていたという。ただ、あまりに元気がよく、人を追い立てたり、噛んだりする「腕白犬」で、王室の人々から敬遠されてきたという。
 故ダイアナ妃の執事を務めたポール・バレル氏は、宮殿の階段で9匹のコーギーに追い立てられて転倒した末に気絶した経験があると告白。「(王室関係者の)皆がコーギーを嫌っていた」と述べている。 
 エリザベス女王が飼育したコーギーたちはこれまでに、王室職員、郵便配達の職員、警察官、女王の母親のクイーン・マザーの運転手などを噛んだ「前科」があり、1991年には、十数匹のコーギーが喧嘩しているところを仲裁に入ったエリザベス女王の手さえも噛んでしまったという。
 女王がコーギーを飼い出したのは、今から80年以上も前。女王がまだ少女だったころにジョージ6世(当時はヨーク公爵)がプレゼントしたのだが、このプレゼントの背景にはひとつの悲しい物語があった。
 女王が幼児だったある日、テルマ・エバンズという名の9歳の女の子が飼っていた愛犬が車にひかれた。この車の所有者はヨーク公爵だった。心を痛めたヨーク公爵は、この女の子に新しい犬を贈った。その後テルマは大人になり、犬のブリーダーとして働き始めた。
 彼女が飼育に力を入れ、その魅力を広く伝えようとした犬種がコーギーだった。やがて著名なブリーダーとしての地位を確立したテルマは貴族から注文を受けて自身が育てたコーギーを提供。この貴族の家を訪れたエリザベス王女(当時)とその妹のマーガレット王女が、コーギーをいたく気に入った。
 親交のあったこの貴族の紹介を受けて、ヨーク公爵は後日、テルマに対し、コーギー数匹を連れて自身の家族の元まで訪れるよう依頼。その中から選んだ1匹が、女王が初めて飼うコーギーとなった。このコーギーは、公爵(英語でデューク)から名を取り、「デューキー」と名付けられた。
 後に国王となったヨーク公爵に対して、テルマは、自身が過去に犬をプレゼントしてもらった少女であることを告げぬままであったという。ジョージ6世が逝去した後、このエピソードを記した本が出版され、皆に知られるようになった。
 コーギーの愛称で親しまれるこの犬種の正式名称は「ウェルシュ・コーギー・ペンブローク」。ウェールズ地方原産の品種で、牧場に放牧されている家畜を誘導したり、見張ったりするための牧羊犬だ。
 コーギーの動きは俊敏で運動量が豊富、小型犬であるにもかかわらず吠え声は大きい。毛深いので寒さに強く、山道や沼地を歩くのが大好き。
 筆者は1980年秋からウェールズに9カ月間住んだ。休日には、学生寮を出発し、牧場を横切って散歩した。その時、コーギーをよく見かけた。ただ、当時、その犬がコーギーとは知らなかった。
 スコットランド特有の厳しくそして広大な自然 が広がるハイランド地方のバルモラル城で山道を散歩することを趣味とする女王にお供するには、最適のペットである。
 コーギーはエリザベス女王とともに英国の歴史を刻んできた。ウェールズで生まれ、スコットランドの山奥を駆け回り、女王とともにバッキンガム宮殿で暮らしてきた。史上最長の在位期間を誇る女王の側近中の側近なのかもしれない。女王陛下のさらなる長寿を祈ります。
 
(注)英国の邦字紙である生活情報誌を参考文献として引用した。