水問題がわれわれの未来を暗くしている。将来の真の脅威は水不足だ。原油なしに食料を生産できるが、水なしにはそれはできない。
われわれは一日平均4リットルの水を飲む。しかしわれわれが一日で食べる食料を生産するのに2千リットルの水を必要とする。食料の中で大きな比重を占める世界の穀類の40%が潅漑(かんがい)により生産されている。地球人口の増加が、この60年で穀物生産を3倍にし、それを可能にしたのがかんがい設備の普及だ。かんがいで潤された世界の農地は1950年に2億5千万エーカだったが、2000年には7億エーカにまで拡大した。
農業従事者は農業用水を河川か地下水から引いてきている。河川をせき止めダムを建設する方法は近年、ダムに適した地形が少なくなり、河川によるかんがい農業の将来は楽観を許さない。その上、地球人口が増え続けている。増え続ければそれだけ食糧増産をしなければならず、河川のほかに地下水に頼る比重が増えるが、地下水が無限にあるわけではない。
今日、世界人口の半分を占める18カ国は地下水を過剰にくみ上げており、雨水により供給される地下水を超えて利用している。18カ国のうち世界三大穀物生産国は中国、インド、米国。またイラン、パキスタン、メキシコといった人口の多い国も含まれている。
18カ国のうちの数カ国は地下水を使いすぎ、井戸が干上がり始めているという。このままでは水不足は目に見えており、穀物増産も期待薄である。
世界有数の石油産油国のサウジアラビアは豊富な資金を使って1970年代にかんがい設備をつくり、地下水を利用して穀物の自給に成功したが、30年も持たなかった。2006年を境にして、穀物生産は毎年急速に減り、2016年には穀物生産はゼロになった。3千万人の国民の腹を満たすため、原油代金を使って1千500万トンの米、大麦、小麦、とうもろこしを輸入し始めた。
内戦の惨禍に苦しめられているシリアは2001年、穀物生産が最高に達したが、その後、地下水が減少。当時に比べて32%も穀物生産量が落ちている。シリアの隣国、イラクも現在、自国民の食料の3分の2を外国からの輸入に頼っている。かつての古代文明発祥の地にはチグリス・ユーフラテス河の豊富な水量があった。しかしその水量は目に見えて減少している。イエメンも同様の運命に直面している。メキシコ、イランやパキスタンも同様だ。
三大穀物生産国の一つである中国の穀物生産の5分の4はかんがいによるものであり、揚子江や黄河などの大河川に依存する。
2001年に発表した中国政府の地下水調査報告では、華北の大穀倉地帯(中国の小麦とトウモロコシの収穫量の半分と3分の1をそれぞれ占める)の地下水量が急速に減少している。その原因は地下水の取り過ぎである。世界銀行は中国が将来想像を絶する水不足に見舞われる可能性があると警告する。
人口が毎年1500万人増えているインドの食糧事情は将来中国よりも深刻になると、世界銀行は警告している。インドでは地下水の掘削が野放しになっており、農業従事者はなりふり構わず地下水を農地に利用。このため、地下水量は目に見えて減少している。
確かにインドの食糧増産量は増えているが、地下水を犠牲にしているのは明らかだ。そのうち、水不足におちいり食糧増産ができなくなるのは誰の目にもわかる。
米国の事情もインドや中国と似たり寄ったりである。地下水の取り過ぎは明らかだ。地下水を犠牲にして、穀物増産を続けている。
世界は水資源を犠牲にして穀物増産を続けている。水だけではない。土地を使いすぎ、肥沃な土地が干からび始めている。モンゴルや南アフリカのレソトが典型的な例である。
水量の枯渇により食料生産の将来が暗い。それに気候温暖化が将来の食料事情の悪化に追い打ちをかけている。
ちなみに日本の食糧自給率は40%。かつて穀倉地帯といわれた新潟や東北の農地は現在、農業を引き継ぐ人がなくなり荒れ放題だ。いったん田んぼの手入れを怠ると、二度と田んぼとして使えないという。
日本人は食料を他国から買い、毎日暮らしている。しかし、日本が輸入している農業国の将来は暗澹としている。日本への穀物供給国が自国の国民を養うだけの穀物しか生産できなくなれば、当然ながら日本への輸出をストップするだろう。子どもや孫の時代に食糧危機に見舞われる公算は毎年大きくなっているといっても過言ではない。われわれは食料の自給自足をどうするかを真剣に考える最後の時を迎えているのかもしれない。この問題を真剣に考えなければたいへんなことになる。それだけは確かだ。
※最近の英紙「ガーディアン」の特集記事をベースにして書きました。
われわれは一日平均4リットルの水を飲む。しかしわれわれが一日で食べる食料を生産するのに2千リットルの水を必要とする。食料の中で大きな比重を占める世界の穀類の40%が潅漑(かんがい)により生産されている。地球人口の増加が、この60年で穀物生産を3倍にし、それを可能にしたのがかんがい設備の普及だ。かんがいで潤された世界の農地は1950年に2億5千万エーカだったが、2000年には7億エーカにまで拡大した。
農業従事者は農業用水を河川か地下水から引いてきている。河川をせき止めダムを建設する方法は近年、ダムに適した地形が少なくなり、河川によるかんがい農業の将来は楽観を許さない。その上、地球人口が増え続けている。増え続ければそれだけ食糧増産をしなければならず、河川のほかに地下水に頼る比重が増えるが、地下水が無限にあるわけではない。
今日、世界人口の半分を占める18カ国は地下水を過剰にくみ上げており、雨水により供給される地下水を超えて利用している。18カ国のうち世界三大穀物生産国は中国、インド、米国。またイラン、パキスタン、メキシコといった人口の多い国も含まれている。
18カ国のうちの数カ国は地下水を使いすぎ、井戸が干上がり始めているという。このままでは水不足は目に見えており、穀物増産も期待薄である。
世界有数の石油産油国のサウジアラビアは豊富な資金を使って1970年代にかんがい設備をつくり、地下水を利用して穀物の自給に成功したが、30年も持たなかった。2006年を境にして、穀物生産は毎年急速に減り、2016年には穀物生産はゼロになった。3千万人の国民の腹を満たすため、原油代金を使って1千500万トンの米、大麦、小麦、とうもろこしを輸入し始めた。
内戦の惨禍に苦しめられているシリアは2001年、穀物生産が最高に達したが、その後、地下水が減少。当時に比べて32%も穀物生産量が落ちている。シリアの隣国、イラクも現在、自国民の食料の3分の2を外国からの輸入に頼っている。かつての古代文明発祥の地にはチグリス・ユーフラテス河の豊富な水量があった。しかしその水量は目に見えて減少している。イエメンも同様の運命に直面している。メキシコ、イランやパキスタンも同様だ。
三大穀物生産国の一つである中国の穀物生産の5分の4はかんがいによるものであり、揚子江や黄河などの大河川に依存する。
2001年に発表した中国政府の地下水調査報告では、華北の大穀倉地帯(中国の小麦とトウモロコシの収穫量の半分と3分の1をそれぞれ占める)の地下水量が急速に減少している。その原因は地下水の取り過ぎである。世界銀行は中国が将来想像を絶する水不足に見舞われる可能性があると警告する。
人口が毎年1500万人増えているインドの食糧事情は将来中国よりも深刻になると、世界銀行は警告している。インドでは地下水の掘削が野放しになっており、農業従事者はなりふり構わず地下水を農地に利用。このため、地下水量は目に見えて減少している。
確かにインドの食糧増産量は増えているが、地下水を犠牲にしているのは明らかだ。そのうち、水不足におちいり食糧増産ができなくなるのは誰の目にもわかる。
米国の事情もインドや中国と似たり寄ったりである。地下水の取り過ぎは明らかだ。地下水を犠牲にして、穀物増産を続けている。
世界は水資源を犠牲にして穀物増産を続けている。水だけではない。土地を使いすぎ、肥沃な土地が干からび始めている。モンゴルや南アフリカのレソトが典型的な例である。
水量の枯渇により食料生産の将来が暗い。それに気候温暖化が将来の食料事情の悪化に追い打ちをかけている。
ちなみに日本の食糧自給率は40%。かつて穀倉地帯といわれた新潟や東北の農地は現在、農業を引き継ぐ人がなくなり荒れ放題だ。いったん田んぼの手入れを怠ると、二度と田んぼとして使えないという。
日本人は食料を他国から買い、毎日暮らしている。しかし、日本が輸入している農業国の将来は暗澹としている。日本への穀物供給国が自国の国民を養うだけの穀物しか生産できなくなれば、当然ながら日本への輸出をストップするだろう。子どもや孫の時代に食糧危機に見舞われる公算は毎年大きくなっているといっても過言ではない。われわれは食料の自給自足をどうするかを真剣に考える最後の時を迎えているのかもしれない。この問題を真剣に考えなければたいへんなことになる。それだけは確かだ。
※最近の英紙「ガーディアン」の特集記事をベースにして書きました。