英宰相ウィンストン・チャーチルからのメッセージ   

チャーチルの政治哲学や人生観を土台にし、幅広い分野の話を取り上げる。そして自説を述べる。

ヤンキース黒田の古巣への電撃移籍  驚きと称賛

2014年12月27日 14時48分45秒 | スポーツ
 広島のオーナーが、黒田の古巣復帰に「驚いている」と興奮気味に話した。朝日新聞はこう伝えている。筆者も驚いた。彼が所属しているヤンキースのキャッシュマン・ゼネラルマネジャー(GM)は、フリーエージェント(FA)になった黒田博樹投手との再契約を望む意向を明らかにしていた。バリバリの現役大リーガーということになる。
 朝日新聞や読売、産経の電子版によると、、獲得に乗り出していたドジャース、パドレスは、今季の1年1800万ドル(約21億6千万円)を提示したと報じられていた。これに対して広島が提示したのは、1年契約で年俸4億円プラス出来高払い。8年ぶりの日本球界となる。広島が提示した金銭面の条件は、獲得を目指す大リーグの各球団に比べ、大きく下回った。広島にとって、遅ればせのクリスマスプレゼントだろう。広島ファンには朗報だ。
 黒田は自らの体力やヤンキース球団での自分の位置を正確に把握しての結論だ思われる。この男、これほどまでに冷静な人間だとは思わなかった。拍手したい。人間は、筆者も含めて、目先のことばかりに目がいく。なかなか長期的な展望ができない。今の損を受け入れて、将来の得を手に入れることがなかなかできない。できたとしても、それを実施するには勇気と決断が必要だ。大多数の人間にはこれができない。言うは易く行うか難しである。
 黒田自身が一番自分のことを知っているだろう。来年、日本のプロ野球で活躍できる保証はない。自分の衰えを知り、最後の花を古巣で咲かせたいと思っているのかもしれない。黒田自身が「働けるのはあと一年か二年」と考えているのかもしれない。筆者が感心したのは、黒田のそんな考え方だ。自分を分析するのは容易ではない。それができる黒田に来年の活躍を期待したい。
 
 この一年間、筆者のブログを訪問して「主観と偏見に満ちた」言い分を読んで下さった読者の皆様にこころから感謝申し上げます。ありがとうございました。来たるべき未年が読者の皆様にとりよい年でありますように祈ります。

自然熱帯雨林で休暇を過ごすならブルネイへ     観光で脚光をあびる国

2014年12月09日 21時37分20秒 | 旅行
 日本を訪れる外国人旅行客が過去最速のペースで伸びている。日本政府観光局が11月19日発表した今年1~10月の訪日外国人客数は、前年同期比27%増の約1101万人だった。
 円安が外国人観光客の訪日を後押ししている。また日本行きの航空路線やクルーズ船が増えている。政府は東南アジア向けに短期滞在査証(ビザ)の発給要件を緩めるなど、日本を訪れやすい環境も整えている。
 さらに10月からは、免税対象となる品目が従来の家電製品や衣類から化粧品や飲食料品などにも拡大。なかでも中国人旅客が日本の得意先だ。観光庁の「訪日外国人消費動向調査」によると、今年7~9月に中国人旅客が国内で使った金額は、1人あたり約23万6千円と全体平均を8万円弱上回った。一方、円安にもかかわらず、日本人の観光客は今年も年末から来年の年始にかけて外国に観光旅行にどっと繰り出すという。
 一方、日本人の海外旅行先のトップは中国、2位は韓国で、米国(本土)、台湾、香港、ハワイと続くが、今日お話しするブルネイはトップ50位にも入っていない。(2013年、日本旅行業協会統計)
 ブルネイの多雨林は最近、外国人観光客を魅惑している。この半世紀、ブルネイは観光スポットとして世界の注目を浴びてこなかった。しかし最近、ブルネイの治安の良さと相まって世界から注目を浴びるようになった。
 ブルネイはボルネオ島の北部海岸に位置し、世界の産油国の一つとして数えられている。王国であり、エコツーリズムのメッカになりつつある。かつてはマレーシアのキナバル自然公園の後塵を拝していた。
 クルーズ船がブルネイのムアラ港に寄港するなどして、外国人観光客の数が近年、増加している。旅行会社もツアーのひとつにブルネイを加えているという。
 外国人旅行客は2007年の200万人から2013年には300万人に増えたという。
 ブルネイ政府は原油の輸出依存から脱却し、外貨収入源の多様化を図る。その一環として観光にも力を入れ始めている。観光の目玉は観光客を魅了する自然熱帯雨林。特にテンブロン国立公園は人気スポット。ここでも中国人観光客が目を引く、と地元の観光会社は話す。中国人観光客はマレーシアのサバやサラワクを訪問、その足をブルネイにまで延ばしている。
 ブルネイの観光旅行会社は日本人観光客の誘致にも積極的で、日本語スタッフも常駐させているという。ただ、物価はシンガポール並みで、安くない。20年前には二つしかなかった旅行会社は現在50に増え、豪華な超一流ホテル「エンパイア―・ホテル」が海岸リゾートに建てられている。一泊3万5千円以上するそうだ。
 静かな雰囲気を醸し出しているブルネイはほかの東南アジア諸国に比べて、治安がすこぶる良い。犯罪とは無縁で、雄大な自然の中で家族と過ごす休日は素晴らしい、とブルネイ観光局は宣伝する。
 ブルネイ森林局によれば、テンブロン国立公園の訪問客は2003年に4千500人にすぎなかったが、2012年には1万人に達した。
 ブルネイ観光局のスタッフは「ブルネイは大量の観光客を迎えようとは思わない。ブルネイの自然、文化、遺産を愛する観光客を待っている」と話している。また「もっと多くのシンガポールと日本の観光客を待ち望んでいる」とも語る。
 フレームトラベルサービス(Freme Travel Service)の支配人は「観光客の中心は中国人だが、われわれが経営するテンブロン国立公園のロッジに日本人観光客もぜひ来てほしい。日本人のツアーガイド5人が働いている」と宣伝する。
 ブルネイはイスラム国家だが、外国人に対してアルコールの持ち込みを制限しているが、許容している。あと20~30年で石油の埋蔵が尽きる前に観光立国としての地位を築きたいと考えているようだ。
 熱帯雨林地帯でスコールでも聞きながら、静かな休日を過ごしたい日本人にとってブルネイ訪問は一考に値するかもしれない。断っておくが、筆者は残念ながらブルネイ観光局から宣伝費を一銭もいただいていない。(笑い)

中国の富の蓄積は開発途上国をいっそう貧しくさせている 2014年版清潔度(汚職)指数を読んで

2014年12月08日 23時02分07秒 | 国際政治と世界の動き
 腐敗/汚職に対して取り組む非政府組織のトランスペアレンシー・インターナショナル(本部・独ベルリン)は3日、世界各国/各地(175カ国)の腐敗を数値化した「2014年版清潔度指数(腐敗認認知指数)」を発表した。
 筆者は昨年7月25日に2012年清潔度指数を半年遅れてサイトに掲載。2013年の清潔度指数を掲載しなかった。
 トランスペアレンシー・インターナショナルが発表した2014年版清潔度指数の特徴は、中国が2012年、2013年が80位だったが、ことしは100位に大幅に後退したことだ。
 経済成長が著しい国は、ますます腐敗が広まっている、と英紙「ガーディアン」は報じている。
 中国、アフリカのアンゴラ、トルコは昨年4%以上の経済成長と遂げたが、トルコは174位中64位、アンゴラ161位。2013年にはトルコは53位、アンゴラは153位だった。三国には申し訳ないが、その国の人々の文化的背景があるように思う。
 贈収賄事件や汚職意識など13のデータや、腐敗をめぐる経済人の意識、世界各国の専門家の分析などを基にして順位を決めている。
 最近会長に就任したトランスペアレンシー・インターナショナルのホセ・ウガズ氏は「国家経済が成長すればするほど、国家指導者や高級官僚はまます多額の公金を懐に入れる」と英紙に語る。
 またウガズ氏は「腐敗にまみれた経済大国は最貧国の基本的人権をブロックするだけでなく、最貧国の統治能力を弱め、不安定な社会をつくる。経済成長が著しい国家が腐敗に寛容だと刑罰を免れる文化を創造し、それが腐敗を加速させる」と述べた。
 ウガズ氏の発言は中国を想定して話しているのかもしれない。それは私の想像の域を出ないので、「当てはまる」と話しておこう。
  中国のアフリカ経済支援はアフリカ支援諸国の官僚や指導者の腐敗を助長している。中国の派遣労働者と被支援国の官僚の富を増やしているだけであり、大衆はますます貧しくなっている。
 中国政府・外交部の華春瑩報道官は「事実に合致していない」と述べた。「中国が反腐敗運動で、世界が目をみはる成果を達成している現実と、完全に相反しており、ひどく間違っている」、「中国の反腐敗により顕著な成果を上げているというのは、人民群衆の公正な評価によるものだ。国際的な“清潔度指数”によるものではない。トランスペアレンシー・インターナショナルは国際的に一定の影響力を持つ組織だ。“清潔度指数”の客観性や公平さを真面目に見直すべきだ」
 BBCによると、トランスペアレンシー・インターナショナルのアジア太平洋地域責任者のスリラク・プリパト氏は、中国のランクダウンについて「(中国が今後)挑戦せねばならない問題を明確に示している」と説明。 同氏は「情報の透明度、政府に対する問責、報道の自由、公民社会がみな欠乏している状況では、上から下までを挙げての反腐敗の効力が、どの程度のものかということだ」と述べた。
 プリパト氏の話に同感だ。一言で言えば、中国共産党の独裁と法を軽視する中国国民の姿勢が腐敗社会の改善を拒んでいる。面子を重んじる中国人の華春瑩報道官は苦しい言い訳をしている。
 ちなみに日本はどうか。2013年が18位、2014年が15位である。今年も昨年もデンマークが一位(最も腐敗のない国)で、2位がニュージーランド、3位がフィンランド。1-3位は不動の順位だ。
 2014年度の主なランクを取り上げると、ドイツ12位、英国14位、米国17位、韓国43位、インド85位、フィリピン85位、ソマリアと北朝鮮が最も腐敗にまみれた国(共に174位)になっている。
 昨年、2012年のトランスペアレンシー・インターナショナルの腐敗指数を掲載したとき、筆者は、腐敗指数はぞれぞれの国の文化や伝統、習慣を表していると書いた。現在もこの考えは変わらない。
 日本人の国民性の一端を筆者は批判しているが、腐敗の少ない日本人に心から誇りを持っている。この意味で日本に生まれてほんとうによかったと思う。素晴らしい日本文化の側面だ。筆者はそのような土壌文化を育ててくれた祖先の人々に心から感謝する。

民主選挙を求める香港の学生をめぐる中英の対立に思う

2014年12月05日 12時36分38秒 | 民主主義とポピュリズム
 香港特別行政区行政長官の民主主義選挙をめぐって、自由選挙を求める香港学生を支持する英国政府と、それに反対する中国政府の対立が先鋭化している。この対立から浮かびあがる中国共産党の考え方と中国人の国民性を、われわれ日本人は理解しなければならない。われわれは中英の対立を日中政策に生かさなければならない。
中国共産党の機関紙「人民日報」の日本語版が12月4日午後4時28分、次のようなコメントを掲載した。見出しは「英国は植民地主義の考え方を捨てよ」
 まずこの抜粋を掲載する。

 
 香港特別行政区の一部の人間が始めたいわゆる「セントラル占拠」により、社会秩序が乱れ、現地の経済や人々の生活に影響が及んでいる。中国は今、問題を解決し、損失を減らし、できるだけ早く香港の安定を取り戻すため努力しているが、英国などの外部勢力は問題を煽り立て、もめ事を大きくしようとしている。(文:華益声・国際問題専門家。人民日報海外版コラム「望海楼」掲載)
 英下院外交委員会はこのほど、香港情勢の調査のため、議員団を派遣することを決定した。中国はこれに断固として反対、計画を取りやめるよう求めたが、英国側は訪問調査の考えを固持している。英下院はこのほど、中国が調査団の香港入りを拒否したことについて審議を行い、「中英共同声明の調印国である英国は、返還後の香港に対して今も責任を持つ」と言い出す人まで出てきた。
 英国は、いくつかの重要な事実を忘れてしまったようだ。
(1)香港の主権は中国に属する。
 英国は良くわかっているはずだが、英国の香港統治は実質上「強制占領」であった。歴史は嘘はつかない。香港は古来より中国の領土だった。英国は侵略戦争を起こし、清朝政府に不平等条約を強要し、香港島、九龍、新界を含む香港地区を徐々に占領した。その後、英国は香港で殖民統治を行った。
 主権は極めて重要であり、香港返還の核心は主権の返還だ。「中英共同声明」の第一条に明確に規定されているが、中華人民共和国は1997年7月1日をもって香港の主権を回復した。「中英共同声明」を持ち出して英国が香港に対し「道義的責任」を持つなどと言う人は、まさに論理が矛盾している。・・・
(2)民主主義かどうかは、英国が決めることではない。
 英国は「民主主義」と「自由」を旗印に香港問題に干渉しようとしている。英国のキャメロン首相は議会で質問に答え、「中英共同声明は、香港人は言論、出版、集会、結社、旅行、ストライキなどの自由を有すると規定している。英国は香港人の権利を支持するべきだ」と述べた。
しかし、実際のところ、香港人が有している権利は、全ての中国人が有する権利でもある。中国の憲法でも、上述の自由が明確に規定されている。重要なのは、どんなことでも、民主主義・自由を言い訳に、法律に背いてはならないという点だ。・・・
(3)中英関係の大局を維持するためには、実際の行動が必要。
 英国のキャメロン首相は2012年、ダライ・ラマと会談し、中英関係を損なった。中国は英国に対し、いかなる国も中国の内政に干渉してはならないという明確なシグナルを伝えている。・・・他国の内政に干渉し、西洋の価値観やイデオロギーを他国に強要し、2国間関係で好き勝手に振舞うといったやり方は、植民地主義の悪しき考え方の名残だ。今の世界において、国家間は平等、相互尊重を重視している。英国よ、時代に逆らう行いを止めよ。(編集SN)


 読者は人民日報をどう解釈するだろうか。確かに英国はアヘン戦争(1839-41)の勝利により、中国から香港を奪った。ただ、中国共産党政府は都合の良いように解釈している。筆者はそう考える。英国政府は、当時の中英の最高権力者の鄧小平とサッチャー女史が1984年に結んだ中英協定の履行を求め、協定の内容にそって履行されているかを調べたいと発言しているにすぎない。
 1997年に英国から中国に返還された香港は1997年以降50年間、民主主義社会を保障された。鄧小平も保障した。英国政府は、民主主義的な手続きによる長官選挙を要求している学生に、中国政府が不当な圧力が加えていることを憂慮している。少なくとも50年間、香港での民主主義社会を保障した協定が十分に守られていないことを危惧し、調査団を派遣しようとした。中国政府はこの派遣を拒絶した。
 筆者に言わせれば、それは条約を履行しているかどうかを調査する英国政府と議会の当然の権利だろう。内政干渉ではない。あくまで条約履行の一環としての調査だ。
 英議会外交委員会議長のリチャード・オタウェー下院議員は駐英中国大使から手紙を受け取ったという。その内容について同氏は「わたしに伝えられた中国政府の議論の核心(11月28日)は、中英協定の無効について述べている。現在、協定は無効だという。協定がカバーしている内容は1984年から1997年までである、と大使は力説している」と話した。オタウェー議員は中国を批判し、「香港の政治制度は50年間、変化なしと協定に規定していることは一体何なのか。あまりに無責任だ」と語った。
 英紙テレグラフによると、キャメロン首相の報道官は1日、中国側の拒否は「懸念を打ち消すどころか、募らせるだけだ」と指摘した。また中国側の対応は「非生産的」だとして遺憾を表明した。
 13世紀のエドワード1世前後の時代から、また1215年6月のマグナカルタ大憲章成立から800年にわたって営々と法治国家を築き上げてきた英国人から見れば中国人は「無責任」だ。
 中国人の法の概念はあくまで為政者を助けるだけにあるということだ。鎌倉幕府の執権、北条泰時公が御成敗式目を制定した時、弟の重時に「この法律の前に統治者も非統治者も平等である」と語った法の精神をいくら中国人に説いても無駄である。
 彼らの5000年の歴史は、一君万民。“偉大”で“賢明”な皇帝の下で皆が幸せになれる。孔子もそう説いている。しかし歴史を通じて、そのような立派な皇帝が中国を支配したことはほとんどない。中国人はよくそのことを知っている。習や共産党幹部は、共産党の指示に従えば皆幸せになれると考えている。心の奥底は知らないが(多分そうは思っていないだろう)、公言している。だから中国の大衆は昔から誰一人として権力者、支配者を信じてこなかった。信じるものは親戚、親族などの身内だけだ。身内の中の互助精神こそが中国社会では大切なことだ。裏を返せば、身内以外は誰も信じない。何をしても許される、ということになる。
 私は駐英中国大使の「無効」という発言には少々驚いた。中国人の法軽視は長い伝統に培われたものだとは理解していたが、それでも驚いた。中国共産党の法律観が現在の世界の常識からかけ離れているということだ。
 英国人は地政学的に中国から遠い国に住んでいる。彼らと交わる度合いは低い。これに対して日本人はそうはいかない。隣の“変な人間”(われわれ日本人から眺めればの話、われわれの価値観)とつき合わなければならない。価値観も思想もまったく違う隣人とどう付き合うか。われわれはじっくりと考えなければならない。ただ少なくとも言えることは、多くの中国人、中国政府や中国共産党と交わる時は、相手を疑うことだ。そして相手は法律を守らない、力関係を重視する、と理解してから話し合うことだろう。
 中国人とわれわれ日本人の価値観が違っているからと言って、怒ってはならない。日本人の欠点は、筆者の偏見と独断かもしれないが、相手を信じ込みやすい、自分の見解や親切な行動を相手は好意的にとってくれると思い込むことだ。法を重んじ、約束を厳格に守る伝統をもった国の人々ならそれでも通じる。ただ東シナ海を越えた政府と多くの人々には通じない。香港をめぐる中英の対立から、私はそう確信する。

中国は欧米主導の国際秩序にとって代わることができるのか?       独裁と覇権の矛盾

2014年12月01日 22時26分47秒 | 時事問題と歴史
 1日付朝日新聞の7面にベタ記事「欧米主導の秩序 中国が変革意欲」に目が留まった。とるに足らない記事なのかもしれないが、筆者には興味深い記事だった。「習近平指導部は発足後初の「中央外事工作会議」を(11月)28、29日の両日に北京で開き、共産党や政府、軍の幹部が集まった。この中で習は「国際秩序をめぐる争いの長期性を十分に見通し、国際システムの変革が避けられないことを認識せよ」と強調。周辺外交や大国外交、発展途上国外交を駆使して「わが国と発展途上国の発言力を向上させる」と述べたという。そして尖閣諸島や南シナ海での「領土と島々を巡る争い」について「原則的な立場を守りつつ、武力衝突などの事態を避ける外交努力の必要性をにじませた」。
 習総書記の発言の中に、戦わずして中国の戦略目標を達成することが示されている。この目標達成は代を継いで半世紀から100年ぐらいかけるのだろう。中国人の戦略思考を垣間見る。
  いつの世紀も、「持たざる国」は「持つ国」に挑戦する。16世紀はスペインがポルトガルに、17世紀はオランダがスペインに、18世紀はフランスがオランダに、19世紀はフランスにとって代わって大英帝国の時代だった。20世紀はドイツが英帝国に挑戦し敗れ、米国が英国に代わって世界の覇者になった。米国はソ連の挑戦を受け、ソ連は消えていった。そして21世紀になり、中国が米国に挑み始めている。「挑戦する側」はいつも覇者の国際システムと秩序を壊して、自らのシステムをつくろうと躍起になる。
 中国も例外ではない。固有の戦略思想と一君万民主義を持つ中国人は果たして世界の主人になり得るのか。5千年の歴史に裏打ちされた権謀術数、巧みな外交、戦わずして勝つ孫子の戦略思想などは中国人をしたたかな人間に仕立て上げてきた。しかし統治に必要な「公」と「法」の概念がない。19世紀と20世紀の世界を牛耳つてきた英国と米国は法秩序と民主主義と自由の理念、それに自由経済を下敷きにして、他国を間接支配した。
 19世紀から20世紀にかけて、世界に挑戦したドイツ帝国、ナチスドイツやソ連は、権威的な皇帝主義国家か、独裁国家だった。中国は確かに経済は資本主義に変化した。しかし政治は共産主義の一党独裁。この二つの制度の矛盾は日々大きくなっている。官僚の腐敗は目を覆いたくなるほどの酷さだ。貧富の差はますます著しくなっている。巨万の富をもった国家官僚資本家がいるかと思えば、家に便所もない極貧の人々もいる。一方、ウィグル族らの民族独立運動は日に日に勢いを増し、消えることはない。香港や台湾の人々の中国共産党への抵抗は今後次第に大きくなるだろう。
 習総書記が描く、中国を中心とした世界秩序が到来する前に、中国共産党が崩壊する現実は十分にある。中国はあまりにも大きい。統治は難しい。習のいうように民主主義は中国に向かないのかもしれない。しかし世界の趨勢は自由と民主主義に分があるように思える。この制度は、ある意味では即座に決定できない最悪の制度かもしれないが、人類がつくり出した制度のうちで最良だと思う。第2次世界大戦の英国の指導者ウィンストン・チャーチル首相もそのようなことを述べていた。
 中国の歴史は専制帝朝をめぐる興亡だった。野望を抱いた人物が支配者を倒し、新しい権力を打ち立てる繰り返しだった。「易姓革命」と歴史家はいう。中国共産党も、気の遠くなる中国史の中で、ひとつの帝朝である。
  中国共産党と中国が世界のリーダーになる道は遠い。多分、中国は永遠であっても、共産党は一時の栄華を謳歌しているのかもしれない。習総書記の「夢」は「夢」で終わると強く思う。共産党が政治の民主化を断行しないかぎり、中国の「夢」の実現はないだろう。中国が民主主義国になっても、政府を信じず、家族・親戚との絆に頼る中国人がその制度を定着させるには数百年かかるだろう。日本のような国でさえほんとうの民主主義国家どうかは疑わしいのだから。
 また、中国が世界を牛耳ろうとすれば、現在の共産党による「皇帝政治」に世界は抵抗するに違いない。フィリピン人、ベトナム人をはじめアジアの民族は中国のやり方に抵抗し始めている。朝日新聞のベタ記事は筆者に習総書記の描く壮大な夢と、その夢に潜む大きな矛盾を想起させている。

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