英宰相ウィンストン・チャーチルからのメッセージ   

チャーチルの政治哲学や人生観を土台にし、幅広い分野の話を取り上げる。そして自説を述べる。

知られざる名品名産に驚き           茨城県筑西市を訪ねて

2018年08月30日 22時08分03秒 | 時事問題
 「灯台下暗し」。人間は身近なことに気づかない、という意味だが、読者の方々もそんな体験をしたことがあるだろう。
私は茨城県と栃木県の県境に住んでいる。栃木県の住民だが、茨城県筑西市の下館を最近まで訪れなかった。車で1時間ほどのところにある。平安時代の890年頃に上館・中館・下館の三館を築いたことが、その始まりという古い町。江戸時代は城下町だったが、その後、「関東の大阪」と呼ばれるまでになった商業の町として発展。戦災に会わなかったとみられ、古い町並みが印象的だ。そして何よりも「知られざる名品名産」の町だ。
 平成の大合併では、2005年(平成17年)に、下館は関城町、明野町、協和町との合併により筑西市となり、1000年以上の歴史を持つ「下館」の地名は消滅した。ただ駅だけは下館の地名を残している。水戸線の駅。この駅から真岡鐵道が出発し、蒸気機関車が走っている。
 家内はこの地で茶道を習っている。友人の車に乗せてもらうため、私は最近までこの地と関わりがなかった。しかし友人が所用で欠席し、私が送迎するはめになったのがきっかけだ。家内はペーパードライバーだ。
 前置きが長すぎたが、この町の名品名産を少し紹介する。私が推奨したいのは日本銘菓「ひろせ」。栗がまるまるひとつ入った「わたぼうし」が絶品だ。東京の銀座や東京駅・大丸にはおいしい銘菓が店を並べているが、「わたぼうし」は有名店の和菓子にひけを劣らない。個人的な意見だが、この菓子は有名店の和菓子よりおいしい。
 大正7年創業の「乙女屋」の最中もおいしい。「壺最中」は第23回全国菓子大博覧会総裁賞を受賞する。「十一屋煎餅店」の炭焼き手作りせんべいも美味しい。ここの主人は、夏は暑いのでつくらないという。金儲けより健康第一なのだろうか。味にこだわっているのだろうか。そこはわからない。
 牛乳プリンを試すのなら、「パティスリーラシーヌ」。下館郊外の住宅街にある。細い道に沿ってあるので、見つけるのが難しかった。濃厚なプリン。さっぱりした味を好む人々には向かないような気がした。
 そしてびっくりしたのが「潮田農園」。カーナビで行き着いたところが農園ではなく倉庫。直売していないという。電話注文だけ。品物は「にんじんジュース」。経済産業省が認定したワンダー500「世界にまだ知られていない、日本が誇るべき優れた地方産品」のひとつだ。
 最後に醤油。スーパーの醤油しか知らなかった私には、醤油がこれほどまでに多くの味があるのを初めて知った。調味料の醤油、ベーコンや目玉焼き用の醤油、刺身用の醤油などなど。用途によって醤油の味が違う。この醤油屋「上ホ醤油」は創業は明治6年。下館駅から北へ8キロ。保存料、人工甘味料、着色料を使用していない「ぶっかけたまご醤油」「和風極みだし」は特に人気が高いという。わたしも買って味見した。いけると思った。
 そのほかにもこだわりの店屋が軒を連ねている。興味のある方は、筑西市観光協会の「名品名産」をご一読ください。このブログは筑西市の宣伝になってしまった。しかしわれわれに知られていない町や名品名産がある。私が「上ホ醤油」の女将さんに「筑西市には他県の人々が知らない名品名産がありますね」と話しかけた。女将さんは「筑西市の商売人はコマーシャルが下手なんですよ」と返答した。そして「味見をしてください」とおっしゃって、小さな皿に色々な醤油を入れてくださった。感謝。


 写真:筑西市の下館にある懐石料理屋「食の蔵」。江戸時代、明治時代、大正時代の建築物からなる建物。日本庭園を見ながら日本食を味わうのも一興。大正時代の建物には、日露戦争の第三軍司令官、乃木希典大将の漢詩つき掛け軸が壁に掛かっていた。ここで日本食を味わい方は「予約が必要」とのこと。遠くからやって来て飛び込みで断られないようにしてください。

将来の進路や選択肢はいかにあるべきか  夏の高校野球を観戦して日本の未来を思う

2018年08月22日 10時18分41秒 | 中国と世界
 夏の第100回全国高校野球選手権大会が昨日終わり、大阪桐蔭高校が2度目の春夏連覇を達成し、日本は秋を迎えようとしている。今回の大会は秋田県代表の金足農業高校が主役だった。私立の野球名門校が甲子園を席巻している中で、公立高校で選手全員が秋田県出身。半世紀前の高校野球を知っている私には清新な気持ちになった。日本国民の多くが金足高校を応援。これに対して試合前、大阪桐蔭の西谷浩一監督は、こう自嘲気味に話していた。「(決勝戦前日の)昨日の晩から、今日の朝まで金足農の報道ばっかり。大阪桐蔭はほとんどなかった。1回から9回までアウェーの覚悟です」。
 今も昔も日本人のDNAは変わらないと思った。判官贔屓(ほうがんびいき)ともいえる。「弱い立場に置かれている者に対しては、あえて冷静に理非曲直を正そうとしないで、同情を寄せてしまう」心理現象を指す。私はこれを否定しない。日本人の良き国民性であり、損得や利だけで動くといってもよい中国人の国民性とは違うのだろう。
 その中国人が住む中国共産党一党独裁の国、中国について記された本を読み終えようとしている。中国解放軍(中国軍、軍は中国では党の軍であり、国家の軍ではない)の将軍で周近平総書記のブレーンの劉明福氏と日本人の加藤嘉一氏の共書「日本夢」。内容は中国のこれからの戦略や中国が望む未来が書かれている。そして日本人は夢がないのか、とある。しかし、それは付け足しに過ぎない。
 きょうの全国紙の朝刊に「Gゼロの世界の先に」という題で国際政治学者のイアン・プレマーさんが書かれていた。インタビュー形式で、「Gゼロ」と持論を展開。それはリーダー不在の世界を形容していた。
 劉将軍は加藤氏への質問で、「中国が米国を軍事・経済力で超越してはじめて、世界は反覇権世界になる。中国は米国のように、決して覇権国家にはならない」と強調していたのが印象に残ったが、「反覇権」の定義は何かがこの著書ではまったく記されていなかった。これに対して、プレマーさんは中国が「国家資本主義と強権体制(周総書記による独裁強化体制)を維持しつつ、世界最大の経済大国になる」ことを目指していると強調する。
 劉将軍は中国の一帯一路構想は中華民族の復興の柱の一つだと力説。中国が世界一の経済・軍事大国になれば、古代の漢帝国や唐帝国のように世界は覇権国が存在し得ない世界になる。漢や唐は近隣諸国を征服せず、近隣諸国の政治制度や社会制度に干渉を加えなかったと説明している。私には冊封体制と朝貢外交が目に浮かぶ。
 これに対してプレマーさんは「中国は(20~30年のうちに)支配的なパワー(国家)になる」「(中国が主導する多国間機構の)一帯一路構想も(中ロと中央・南アジアの計8カ国が参加する)上海協力機構も多国間協調の体裁を装っていますが現実は違います。自転車のハブとスポークのような構造で、中心にあるのは北京。中国の経済利益が最大化される仕組みです」と述べる。
 また、「世界が中国モデルに牛耳られる最大の問題は、中国が中所得国だからです。環境や人権などの優先順位が高い高所得国とは異なる物差しで統制される事態をあなたは望みますか」と読者に尋ねている。「『中国はダメ』ではなく、「そもそも中所得システムは脆弱でリスクが高いことを強調しておきましょう」と話す。
 「中国が消費主導の経済になれば、政治改革は避けられないという楽観論があったが、それは誤りだった」とも話している。私もそう信じた一人だ。一方、劉将軍は中国社会が西洋の自由と民主主義に{毒されなかった」ことは、中国共産党がマルクスやソ連型社会主義の欠点と資本主義の長所を利用して、中国型の新しい社会主義を構築したからにほかならないと、著書で自賛している。
 劉将軍の書籍から読み取れることは、中国は共産党の一党独裁を決して手放さないということだ。世界が中国の支配に服すれば、それぞれの国の社会・政治体制は制限され、自由と民主主義も制限されよう。中国共産党の支配を侵す政治体制を弱体化させ、民主主義と自由が中国社会に影響力を及ぼさないようにすること。「反覇権」世界になると主張しようがしまいが、当然の帰結となる。
 
●世界の状況
 中国共産党の「夢」は現在、「時」の後押しを受けている。多分、未来でも受け続けるだろう。民主主義世界の旗手、米国はトランプ政権の誕生で保護主義に傾き、国際協調に背を向けている。トランプ大統領は強いリーダーを望み、独裁国や強権国のリーダーと良好な関係を持つことを望んでいる。民主主義国のリーダーは大局的には強いが、はた目には弱く映る。即決でディシジョン・メイキングができないからだ。議論が優先されるからだ。
 プレマーさんは「トランプ氏が関心を持つのは長期的な戦略や国益ではなく、目先の政治的利益です。環太平洋経済連携協定(TPP)が対中バランス上、長い目で見て米国に恩恵をもたらすことを考えず、反対する支持者に受けると考える。並外れたナルシシズム(自己陶酔)の持ち主で『いかに自分が偉大に見られるか』が全てです」と力説する。
 21世紀に入ってから次第にポピュリズムが幅をきかせ始めている。特にトランプ政権が誕生してから、この傾向が強くなっている。またグローバル化と国際協調を支持してきた既存の政治に対する大衆レベルの反感の広がりが強くなっている。日本も例外ではない。政権奪取の戦略を持たない野党政治家の野合と、それにあぐらをかき、権威主義を強める与党自民党が、政治に対する無関心層を広げている。

●これからの日本の進路は?
 プレマーさんは「ドイツは『もう米国に頼らない』と言えます。代わりに強い欧州を築けばよく、差し迫った安全保障上の脅威もない」と述べる。確かにそう思う。20世紀末まで約450年にわたって血みどろの抗争を続けてきた欧州。しかし、その困難を乗り越え、同じ政治価値観や社会土壌に培われた欧州は史上初めて永遠の平和を約束されているようにみえる。
 これに対して東アジアはどうか。日本は自国最優先を掲げるトランプ米政権に追従する。その懸念が聞こえてくる。プレマーさんは「一般論でいえば、日本の首相が米国の大統領と良好な関係を築くのは正しい」という。基本的には賛成である。トランプから見返りがなくても、米国と敵対するのは愚の骨頂だ。ただ、自国の国益はトランプ大統領に言うべきだ。怒らせない程度にジャブをかませる必要があろう。
 世界の中心である米国は中国の台頭で、これからますます日本を必要とする。そこを日本が自国の利益のためにどう米国を突くか。自国の運命を米国に任せっぱなしにしていては、日本の未来は暗い。日本人が自分で考え、勇気とリスクをとりながら前進していかなければ、誰も助けてはくれないと思う。日本のような軍事的な小国が生きる選択肢は限られているが、その中で米中という大国を相手に外交や技術力で生き抜いていかなければならない覚悟が日本人にあるのだろうか。
 中国に対してはどうだろうか。「中国との関係改善こそ日本がとりうる唯一の選択肢です。・・・軍事力を強化して対抗していくことは賢明な策とはいえません。歴史認識をめぐる対立も解消しておいたほうがよいでしょう」とプレマーさんは日本人にアドバイスする。
 私も同感だ。日本にとって平和こそが生き残りの道だ。中国とはつかず離れずの姿勢で友好を堅持する。中国は法の国ではない。利の国である。日本には中国にないものがたくさんある。優れたインフラ、質の高いサービス産業。この頃日本人の民度が落ちてきていると、私は批判しているが、それでも中国人に比べれば、共同体への協調や社会秩序への順応性は非常に高い。
 中国人旅行者が何百万人もこの頃、日本を訪れ、日本人の礼儀正しさや公徳心に感心を抱き帰国する。日本人は鬼畜と教えられてきた中国人の見方も変化している。中国を統治する共産党の指導部も、毛沢東時代と違って、民意を気にする。大衆を恐れている。これもまた日本人にとっては良いことだ。
 これから将来に向けて、我々日本人はどんなときでも自ら律し、広い視野で現実を見て進んでいかなければならない。現実の中に理想があるのであって、理想の中には理想はない。それどころか、このような考えで荒野を進んでいけば、危険に遭遇した場合、必ず危機に瀕する。夏の高校野球で日本国民が金足農業の選手に見せた麗しい感傷心を決して否定しないが、国際政治を見つめるとき、捨てなければならない。
 チャーチルが1930年代に民主主義の敵、ナチス・ドイツと独裁者アドルフ・ヒトラーに対応した現実主義的態度こそ、今の我々に必要ではなかろうか。

写真はイアン・プレマー氏