英宰相ウィンストン・チャーチルからのメッセージ   

チャーチルの政治哲学や人生観を土台にし、幅広い分野の話を取り上げる。そして自説を述べる。

政治家の質がなぜこれほどまでに落ちているのか  与謝野さんの死去に思う

2017年05月26日 11時32分24秒 | 日本の政治
 与謝野馨さんが亡くなられた。数日前の新聞に掲載されていたが、私的な仕事に追われ、直ぐにブログに書けなかった。2016年6月17日付ブログに与謝野さんについて記した。この数日、この記事が筆者のブログのトップを占めている。それまでは読む読者はほとんどいなかったが、関心があるのだろう。
 前置きが長くなった。与謝野さんが亡くなられ、また一人の真面な保守政治家がいなくなった。真の保守主義者がいなくなった。残念至極だ。ご冥福を祈る。
 与謝野さんは自分の政治信念に生きた人だ。党のボスや党是を無視はしなかったが、自分の信念を曲げてまで、ボスに従うことはなかった。「たちあがれ日本」の結党に参加したが、その仲間と袂を分かって民主党の菅直人改造内閣に入閣、社会保障と税の一体改革に取り組んだ。彼にとり、日本の財政赤字が将来、この国の人々の生活の安定を脅かすことを憂いたのだろう。その後、民主党政権を去り、無所属議員として活動、咽頭がんで声を失い、政界を去った。
 一見、日和見のように見えるが、いつも日本の遠い将来を見つめて行動した。このために自民党を離党したときもあれば、民主党政権に入閣したときもあった。だから近視眼的な政治家や国民から冷ややかな目で見られた。
 英国の宰相ウィンストン・チャーチルは「演説を書く際の注意点」の中でこう述べている。「たとえ政府や自分が所属する党に打撃を与えても真実を書くこと。野党(他党)の倒閣運動の道具や、選挙での相手候補の攻撃材料にされても気にしない。演説を聞いた国民や有権者が演説を聞いて一時的に離反することがあっても、最後にはその一貫した演説姿勢に信頼を寄せるようになる」
 与謝野さんの心にもチャーチルの政治姿勢を読み取れる。現実を見据えた政治家であり、真の保守政治家だ。安倍晋三首相や日本会議の人々に常にあるよううな情緒的な感情がどこにもない。情緒的感情は冷厳な現実の窓を曇らせ、間違った判断を助長する。
 朝日新聞によれば、中曽根康弘元首相が自ら、新憲法全文の原文を執筆した際、「日本国民は・・・太平洋と日本海の波洗う美しい島々・・・」と書いた際、与謝野さんが「俺が書き直す。情緒的な表現は削る」と話し、臆する風もなく全面的に書き直したという。
 与謝野さんにも間違いがあった。与謝野さんは「たちあがれ日本」を離党するとき、「私は『打倒民主党』という言葉を使った覚えはない」と弁明しているが、朝日新聞2010年4月7日に掲載されたインタビュー記事では与謝野は「打倒民主党」という言葉を使っており、与謝野のHPにも掲載されている。この点だけは正直に信念を曲げずに堂々と「何が悪いのだ」と開き直ってほしかった。
 チャーチルを研究しているとつくづく思うのは、政治家は自立心、先見性、議論力、独立心を持たなければならないということだ。与謝野さんには間違いもあったが、チャーチルが言う政治家の資質を備えた政治家だった。誰でも人間は過失、間違いを犯す。大切なことはそれを認め、健全な精神を維持することではないのだろうか。
 一年前、事務所に拙書お送りした際、礼状が届いた。市井の人々にも礼を失しなかった与謝野さんの冥福をあらためてお祈りする。合掌。