英宰相ウィンストン・チャーチルからのメッセージ   

チャーチルの政治哲学や人生観を土台にし、幅広い分野の話を取り上げる。そして自説を述べる。

お粗末な日本政府と外交官  アフガンでの日本協力アフガン人を救い出せず

2021年08月31日 14時37分36秒 | 東アジアと日本
この半月のアフガニスタン状勢はアメリカ軍の撤退で一段落した。しかし先行きは依然として不透明だ。この不透明な状況の中で、日本に協力してくれたアフガニスタン人やその家族は取り残された。米英もこのような支援者全員を救い出せなかったが、日本はゼロだった。
 日本指導部の楽観主義、無能力、のろまな行動がアフガニスタン支援者を救い出せなかった。後手後手になる行動はコロナ感染症対策と同じだ。否、アフガン人の救出失敗は日本の安全保障を映し出しているだけに、コロナ以上に深刻だ。
 その上、イスラム主義勢力タリバンが日米両政府の想像を遙かに超えたスピードで首都カブールを陥落させた時、英米やフランス、ドイツの外交官は米軍が治安維持に当たっているカブール国際空港に退避、そこから、自国に協力してくれたアフガン人や国連機関など非政府組織の属してアフガンの復興に携わっていたアフガン人を懸命になって救出しようとした。
 一方、日本人の外交官を含む大使館員は、カブール陥落2日後の8月17日、英国軍機でアラブ首相国連邦に脱出した。まさに”敵前逃亡”である。カブール国際空港に少なくとも大使と日本人外交官数人は留まるのが外交官の責務ではないのか。嘆かわしい。 彼らはアフガン人協力者を見捨てたのだ。
 また、菅首相を初めとする日本人政治家のお粗末さは目を覆うばかりだ。タリバンによる首都カブール占領後、直ちに自衛隊機を派遣すべきだった。自衛隊法の制約はあったが、同法は飛ばせることを可能にしていた。「紛争国に行く場合、自衛隊の安全が確保されなければならない」と言う文言はあったが、有事である。菅首相は決断すべきだった。
 菅首相は、チャーチルが生前に口が酸っぱくなるほど繰り返し話した「勇気」がなかった。そして時間と競走しなければならないときに、直ちに行動できなかった。それが韓国政府が300人以上のアフガン人を救い、一方日本は1人のアフガン協力者を救うことができなかった。
 菅首相を初めとする政治家連中は、日本人が紛争地から助かれば、それで良いという意識がしかなかったと思われる。アフガン協力者など眼中になかったのではないのか。悪しき、日本人の考え方だ。これはメディアや日本人の悪しき伝統だ。これは今日の難民受け入れの少なさにも表れている。
 戦前も日本政府は孫文ら中国の革命家の亡命を歓迎しなかった。フランスからの独立を願うベトナム人革命家を守らなかった。それでも今ほど酷くはなかった。
 一方、アフガニスタンの日本人外交官の”逃亡”は日本人の伝統を踏みにじる。日露戦争(1904~05)での旅順港封鎖作戦に参加した日本軍艦の艦長広瀬武雄大佐は自らの軍艦がロシア軍の砲撃により沈没する直前、「総員退艦」を命じた。デッキで、ただ1人部下の姿が見えない。杉野兵曹長だ。
 広瀬大佐は再び艦内に戻り、「杉野はいずこ」と叫びながら杉野を探し回るが結局発見できず、 部下とともに退避しようとしているところを被弾して戦死した。
  1940年7~8月にかけて、杉原千畝領事は外務大臣の訓令に反しながらも、ナチスドイツが占領するポーランドから逃れてくるユダヤ人に「命のビザ」を発給。リトアニアの総領事館が閉鎖され、杉原領事がリトアニアのカナウス駅頭で列車が出発するまで、「命のビザ」を書き続けた。多くのユダヤ人はシベリア鉄道と日本経由でアメリカに逃れた。今でもイスラエルとユダヤ人は杉原を命の恩人と考えている。
  民間船でも軍艦でも、沈みいく艦船では、船長や艦長は一番最後に艦船を下りる。この伝統は今回のアフガニスタンでは実行されなかった。私はアフガニスタン外交官、特に大使に猛省を促す。
  日本に協力したアフガン人をこれから救い出すのはますます難しくなる。しかし日本政府と外務省は必死になってタリバンと交渉し、彼らを救い出す義務がある。新渡戸稲造先生が書いた「武士道」を読んでほしい。日本の良心をもって彼ら全員が母国から脱出する日まであらゆる手段を尽くせ!もしその努力をしなければ世界の笑いものになるし、これから日本の在外公館や日本の国際協力機構(JICA)に、開発途上国の人々は働くのを拒否するだろう。

文政権は米韓同盟解消へ向かう兆候   日本の前途は茨の道

2019年09月03日 23時43分27秒 | 東アジアと日本
  韓国の文在寅・左派政権のある高官は「新しい米韓同盟」の構築を言い始めている。そして文政権は在韓米軍と韓国軍の指揮権を握っていた米軍が韓国にその権限を委譲するよう望んでいるという。
  TBSの番組「報道1930」を視聴し、日本の前途は茨の道だとあらためておもった。今晩の番組のタイトルは「韓国は“敵”か“味方”か  米政府は揺らぐ日米韓の連携“Korexit”の可能性は…  文政権が進める“米軍基地返還” やっぱりGSOMIAは必要?  日韓歩み寄りのヒントとは」だった。この番組に出演したのは、森本 敏氏(元防衛大臣)、木村太郎氏(フリージャーナリスト)、薬師寺克行氏(元朝日新聞政治部長)。
  韓国の文政権は明らかに“Korexit”へ向かっているという。英国の欧州連合(EU)からの離脱(Brexit)
をもじって“Korexit”は、韓国が安全保障面で日米から離脱することをいう。
  森本氏は「歴史上、韓国は絶えず大国の狭間にあって、生き残りのため、近隣の大国がどう動くかという狭い視点からしか世界を見てこなかった。そんな国は戦略を立てることができない。日本は海に囲まれているため(現在のミサイル時代には役に立たない)、開国をへて明治新政府以降、世界の中の日本という視点から近隣諸国を観察することができた。そうしてきた」と述べる。
  私は同感だ。20世紀初頭の伊藤博文の時代に、大韓帝国(韓国)は清(中国)とロシア帝国、日本の狭間の中でしか世界を見ることができなかったため、大失敗して日本に併合された。
  文在寅大統領を動かす最側近(1980年代の韓国民主化を先導した学生)は民主化以前の軍事政権を「親日」と否定し、親北朝鮮だという。
  日経ビジネスによれば、統一外交安保特別補佐官の文正仁(ムン・ジョンイン)氏は9月27日にソウルの国会憲政記念館で開かれた討論会で、トランプ大統領が北朝鮮への軍事行動の可能性に言及したことに関連し、こう話した。
  「多くの人が『韓米同盟を破棄しても、戦争は(したら)いけない』と言う。同盟の目的は戦争をしないことであって、同盟が戦争をする仕組みになるのなら、賛成する人はそれほどいない」「北朝鮮が非核化しないなら対話しない、というのは現実的でない。条件なしに北朝鮮と対話せねばならない」
  駐韓米国大使のハリー・ハリス氏が昨年の終わりに「米韓同盟がいつまでもあると思うな」と発言したことも左派政権を刺激した。またハリス氏が日系人であることも左派政権の反感を買ったという。
  東アジアの軍事バランス、平和と安全を不安定にさせている韓国左派政権の北朝鮮への思い違いを心配しているのは、韓国軍だという。文大統領と側近は冷厳な現実を見ず、幻想を追い続けている。
  安全保障に関心のないトランプ大統領も不安定要因の一つだ。トランプ大統領は北朝鮮が7~8月に6~7発の短距離弾道ロケット実験をしたのを「問題ない」と言っている。米国務省や米国防総省の高官はトランプ大統領の言行をハラハラしながら見守っている。
  薬師寺氏らは安倍晋三首相がもう少しトランプ大統領に正面から直言すべきだと言っている。また文政権に対しても、自らの立ち位置を明確にして交渉を始めるべきだと話した。
  安倍首相は米国のトランプには安全保障は「金では買えない」と直言し、文大統領には「北朝鮮との融和は韓国の滅亡の序曲になる可能性がある」と語るべきだ。
  日本と日本人の安全と平和は朝鮮半島と米国にかかっているが、日本は中国とも意思疎通を図らなければならない。私は中国共産党独裁政権に反対するが、彼らは中国人であり、彼らの考え方は中国5千年の歴史によって培われている。
  日本は米韓中を協力の渦に巻き込んでいく大戦略を立てなければならないと思う。それが日本の安全と東アジアの平和を保障する。
  元経済産業省貿易管理部長の細川昌彦氏や拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏らが出演した「BSプライムニュース」の一部を聞いて思った。中国が数十年単位の戦略を持っている。米中貿易戦争にしても、いかにして対米貿易からの損害を軽微するかを考えている。あらためて日米韓中の歴史という履歴書の違いを思い知った。
  
  

文政権と毅然と交渉開始を   GSOMIAをめぐる米韓同盟の亀裂? 米国と伊藤博文の怒りは同じ     

2019年08月29日 10時18分50秒 | 東アジアと日本
   今月(8月)の私のブログは日韓問題一色だった。また日本の大幅な人口減少と経済の衰退をめぐるデービッド・アトキンソン氏の見方をも紹介した。この二つの話題は密接につながっていると思う。この日韓問題は今日でしばらく間、何か重大な進展がない限り、打ち止めとしたい。
  安全保障と防衛問題の窓から見れば、韓国の文在寅大統領の日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄は東アジアの勢力均衡バランスを崩し、平和と安定を損なうだけだ。
  韓国のGSOMIA破棄の発表後、トランプ政権、国務省や国防省の高官は文政権を痛烈に批判している。1999年に香港(中国)を拠点に創設された日刊のオンライン新聞「Asia Times」やMSNニュースに掲載された高濱 賛氏の「米国、米韓同盟破棄を真剣に検討か」が引用するアジアニュースレター「Nelson Report」は米国の怒りのすさまじさをリポートしている。
  「この決定の戦略上の愚かさは言うまでもない」(米政府高官);「印刷にするのも阿呆らしい。文在寅の決定は愚かで、人を思い違いさせ、誤った方向に導く以外のなにものでもない。後世の史家は、こう述べるに違いない。『この決定は何十年にもわたって築き上げられてきた北東アジアにおける米国の安全保障の中枢構造が終焉する、その始まりを暗示するシグナルだった、と』。なんと戦略的な計算間違いをしているのか」(駐韓大使館でかつて高位の地位にいた人);「文在寅は愚かだ」(米情報機関で朝鮮半島を担当した専門家);「文在寅という男は、韓国に対する安全保障上の脅威がどこから来ると思っているのか、全く分かっていない。コリア第一主義(Korea First Tribalism)に凝り固まった衆愚の知恵(Wisdom of the crowd)としか言いようがない」(米外交官)
  もし文在寅政権が依然として米側に立っているのなら、この論評は妥当だと思う。しかし、文大統領が日米韓同盟に決別する決意を内に秘めているのなら、彼の行動に合点がいくし、米側の批判は的外れだ。
  シュライバー米国防次官補(インド太平洋安全保障担当)は28日、ワシントンの政策研究機関「戦略国際問題研究所」(CSIS)で講演し、GSOMIA破棄に関し、「韓国から事前の通告はなかった」と公式に確認した。また韓国軍の大規模な竹島(韓国名は独島)防衛軍事演習を批判した米国に対し、文政権は正式に「内政干渉」だとやり返している。
  文大統領には北朝鮮政策しかなく、米国が韓国に高高度迎撃ミサイルシステム「THAAD」(サード)を配備したことをめぐる中国の対韓批判を和らげ、冷却した中韓関係の修復を願っている。
  統一日報」論説主幹の洪熒(ホンヒョン)氏は28日のBSフジプライムニュースに出演し、「文政権と反文政権の内戦が現在、進行している」と話した。「内戦」という表現を使って、韓国内の左右両派の動向を伝えていた。

  ●安全保障をめぐる米国の怒りは伊藤博文と同じ
  なぜ、文政権は米国の国務省や国防省を激怒させたのだろうか。朝鮮半島をめぐって、独裁国家の中国や北朝鮮と対峙する米国の安全保障が絡んでいるからだ。日本との元徴用工問題にしても、韓国による日韓GSOMIA破棄にしても、文政権と支持者は自己中心的で独善的な見方しかできないらしい。それはたぶん、韓国国民を500年間縛ってきた朱子学(儒教の一派)からくるものだろう。
  国際法の観点から、日本が主張する正論は脇に置いたとしても、大法院が国際法に反する判決を下せば、日本がどう反応するかは、事前から当然分かるはずだ。GSOMIA破棄にしても米国の反応は明々白々だと予測できよう。
  安全保障をめぐる米国の激怒を知って、約110年前の、明治の元勲、伊藤博文(韓国では韓国併合の極悪人)の大韓帝国(李氏朝鮮)への怒りを思い出した。
  戦前の日本憲政史を代表する歴史学者で、伊藤博文研究の第一人者だった深谷博治(1903~1975)は1959年4月29日に朝鮮史研究の会合で、日本人学生や在日韓国人学生を前に講演し、「伊藤が書き送った書簡や明治天皇に提出した上奏文、韓国皇帝の高宗に進言した書簡」から伊藤の保護国としての統治信念を紹介した。
  日本国内の併合派の主張を抑えていた大韓帝国総監の伊藤は、第三次日韓協約が締結された1907年7月24日の数日後、新聞記者を集めてこう述べた。
  「最近、私は韓国の両班(支配者階級)に次のようになじった。朝鮮国を独立すべく、最初に発言したのは自分である。そして、韓国の独立を最初に承認したのは日本である。・・・日本はできるだけ(中国の清帝国から)韓国を独立させようと欲してきた。けれども韓国は遂に独立できなかった。ために日本は日清・日露の二大戦役を開くのやむなき結果になった。その結果として日本は韓国を保護国にした。これしも日本が禍心を包蔵するものであるというなら、言うがよい。日本は自衛上、実にやむをえずして韓国を保護国にした。どんな強大国でも、今日未だ一国だけで世界の平和を維持できるものではない。・・・これすなわち同盟国の必要なゆえんであって、もし一衣帯水をへだてる韓国に外国の一指を染むるを許さんか、日本の独立は危うくなる恐れがある。・・・ただひとつの条件がある。すなわち韓国は日本と提携すべしということだ。日章旗と巴字旗(大韓帝国旗)とが並び立てば日本は満足である。日本は何を苦しんで韓国を滅ぼすであろうか。・・・しかし日清・日露の両戦役の間、韓国はいったい何をしたのか。陰謀(対ロシア工作)のほかに何をしたのか。日本は韓国の陰謀を杜絶するため、韓国の外交権を日本に譲れというた。・・・韓国は自治を必要とする。・・・これが今回の新協約を結んだ所以である」
  また伊藤は韓国人に蔑視感を抱いていた当時の日本人を批判した。「朝鮮は古い歴史と文化を有し、体質的にも頭脳的にも立派な民族である。蔑視的な感情で対することは甚だよろしくない。そういうことが日韓対立・悪感情の原因になる」
  伊藤の発言は帝国主義的な側面を拭いきれないが、それでも日本の安全保障の観点から見れば、現代に通じる。満州(中国東北部)から武力南下をしているロシアの脅威を感じた日本は韓国と同盟してロシアの南下を阻止しようとしたが、当時の大韓帝国の高宗ら政府要人はロシアに接近しようとした。
  当時の英帝国の駐韓大使ジョン・ジョーダンは駐日英国大使クロード・マクドナルドに書簡を送り、「日清戦争後に独立した韓国の状況を見ていると、韓国の政治家に統治能力がないため、ここ 10 年の韓国は名目上の独立国に過ぎず、このまま独立国として維持されるのは困難である」と見解を示した。
  伊藤は日本が幕末から明治中期にかけて、欧米列強の脅威にさらされながらも必死になって国力を増進したのに、大国に寄りかかるだけで、なぜ韓国は何もしないのか、と歯ぎしりして不満を口にしたという。
  1907年から110年以上がたち、日本の立場は米国になった。そして当時のロシアから、現在の中国、北朝鮮、ロシアに代わった。伊藤の時代と同様、米国は現在、いらだっている。しかし、韓国皇帝と同じように、独善的で自尊心に占有されている韓国の文政権の姿勢は、「どこが自分を滅ぶすのかが分かっていないようだ」。伊藤は天国から苦笑いしているかのしれない。
  
  ●日本の安全保障を考えれば、少なくとも文政権と交渉を開始すべき
  安倍晋三首相と日本の右派は文大統領が退陣するまで、傍観するのだろうか。自らの政策を変更せず、交渉もしないのだろうか。確かに、元徴用工問題や対韓半導体輸出規制強化問題については安倍政権の発言は正論だと思う。しかし手をこまねいて時の過ぎ去るのを座視するのが日本の国益にかなうかどうかは別問題だ。日本政府は自らの確固とした姿勢を堅持し、文政権と粘り強い交渉を開始すべきだ。
  それは日韓の経済的な結びつきが強いだけでなく、韓国を民主主義陣営に留まらせるためだ。金正恩の北朝鮮や中国への接近が韓国国民を底のない沼に突き落とすことに同じだと説き続ける。それは無駄だと言うかもしれないが、日本の安全保障のために必要不可欠だと確信する。
  また韓国の後継政権が文政権(2022年で終わり。韓国憲法は1期しか認めていない)の外交政策を継承するのなら、韓国の北朝鮮と中国への接近がますます強くなるだろう。そうすれば、日本にとって緩衝地帯としての朝鮮半島の価値が失われ、日本の防衛ラインは「38度線」から「対馬海峡」に移る。それは朝鮮戦争(1950~53)直前に当時の国務長官ディーン・アチソンが示した米国の防衛ライン(アチソンライン)と同じだ。そして中国の「第一列島線」(中国海空軍の作戦区域・対米国防ライン)とも同じである。
  米国の防衛ラインにとって、「38度線」が「対馬海峡」に変更されることは大きな問題でないかもしれないが、日本にとっては重大な問題だ。
  日本の安保と国防の基本は明治時代から、朝鮮半島にある。それは悩ましい問題だ。そして日本の防衛と安保は今後の経済状況とも密接な関連がある。
  大幅な人口減少と少子高齢化、それに伴う国内総生産(GDP)の減退は、朝鮮半島をめぐる米中ロと南北朝鮮の動向と相まって、日本の国防や安全保障に大きな影響を及ぼす。アトキンソン氏が数々の著書で指摘されているように、人口減と少子高齢化の中で、生産性を高めてGDPを現在水準に維持するか、伸ばしていくことが、日本の安全保障にもつながると思う。

日米同盟を基軸にし、中国を敵にしてはならない   東アジア100年の歴史から日本の今後の長期戦略を思う

2019年08月28日 10時01分30秒 | 東アジアと日本
   私が昨日記したブログ「GSOMIA破棄後の最悪時を想定して備えるべき 東アジアは19世紀末の情勢に戻るのか」に続いて、この問題についてもう少し筆を進めたい。
  日本は戦後一貫して、「日米同盟」と米国の核の傘の中で、安保・防衛を考えてきた。自らの思考に立脚して安保・防衛問題を考え、長期的構想をしてこなかった。その必要もなかった。私はそう思う。しかし、歴史は時計の針を刻み、私はこのブログで何度も読者の皆さんに申し上げたが、変化してきた。その変化の真相を把握できなければ、国民と国家は、どんな国であろうが、存亡の危機を迎える。現在、歴史は潮目がを変えようとしているのだろうか。たぶんそうだろう。
  戦前の日露戦争(1904~05)年以降、それまでの欧米帝国主義列強からの脅威に対する独立維持の長期戦略から、積極戦略へと転換した大日本帝国は大陸へと進出していった。満州(中国東北部)を日本の生命線と考えるあまり、中国(当時、日本人は支那と呼ぶ)の民族主義を見誤り、そして最後には侮り、泥沼の日中戦争に引き込まれていった。最後には日中戦争を解決するため、苦し紛れに仏印(ベトナム)に進出、直接の利害を持っていた米国と英国と太平洋戦争を引き起こした。
  フィリピンを植民地とした米国との国力差は、当時の日本の指導者の認識では、「日米20対1(戦後、13対1と改められた)だった。それでも、米国に一撃を加えれば、和平に持ち込めるとの希望的観測を抱いていた日本の指導者。米国の内戦、南北戦争などの米国史を研究していれば、米国人には「和平」という言葉はないことを理解していただろうに。米国には「勝つか負けるか」しかないことを理解しなかった。日本は1945年8月、米国や英国などの連合国に完敗した。
  戦後は米ソ冷戦、ソ連崩壊、米国の一極中心、共産党・中国の台頭と米国の国力の相対的な低下へと続いていく。この歴史の変化の中で、今日、トランプ氏という異質の米国大統領がいる。また、近視眼的で、北朝鮮との友好によってのみ朝鮮半島の平和と安定がもたらされると盲信している韓国の文在寅大統領の登場が東アジアの平和と安定の攪乱要因になっている。
  金正恩氏の世襲独裁国家、北朝鮮は核とミサイルを保有する戦略目標を捨てていない。そして韓国の文在寅大統領の対北宥和政策により、時は金委員長に有利になってきている。
  一方、中国は米中「貿易戦争」から、戦略目的を持って日本に近づいている。この戦争は単なる貿易紛争だけでなく、IT(情報技術)やロボットなどの21世紀技術での覇権を目指す争いだ。米中はこれから長期間にわたって覇権争いをするだろう。そして中国は西太平洋と極東や東アジア(日本や朝鮮半島、東南アジア)から米国を駆逐する長期的な戦略目標を頭に描いている。
  米国はこれから、日米同盟の強化を通じて中国を押さえる方針だ。一方、中国は戦略的観点から、日本を敵にしたくないと思っているにちがいない。あわよくば日本を中国陣営に引き入れたいと思っているだろう。
  中国共産党の指導者は彼らの先輩の抗日戦争から、日本人の優秀さを理解している。だから中国人は畏怖の念、潜在的な恐怖の念を抱いてきた。ここから対日批判の一部分が生まれてきた。ここが韓国人や北朝鮮人と違うところだ。韓国人や北朝鮮人は一度として日本と戦ったことはない。だから彼らは日本人を「小中華思想」で蔑視することはすれ、中国人のように畏敬の念は抱いていない。
  中国共産党は韓国が自らの陣営になびいてくることが戦略的見地から、プラスとは見ても、韓国人を戦略上のパートナーとは決して見ないだろう。これに対して、中国人は日米同盟に亀裂が生じることを願い、あわよくば日本をパートナーとしたいだろう。
  だが、日中には戦略的な合理性だけでは済まされないところがある。中国では、抗日戦争と共産党の中国統治の正当性が結びついている。歴史問題や尖閣諸島など、両国にとって互いに一歩たりとも譲れない外交案件がある。
  日本はこれまで、安保・防衛上、日米同盟を基軸として国益を追求してきた。しかし日米同盟軽視を繰り返すトランプ大統領の登場で、これまでの安保政策は岐路に立たされている。
  日本の指導者は明治時代の日露戦争までを除いて長期的な展望を持っていなかった。日露戦争以降は現実無視の長期戦略か、戦後の米国依存の安保・防衛政策だった。その意味で、戦後、日本は長期戦略をたてる必要がなかったと言えるのかもしれない。
  これから、日本人は自らの生命線をどこに置くのか?われわれは「白黒」思考や、観念や感性思考、情緒思考にけっしてなってはいけない。
  日本にとり、日米同盟は日本存立の生命線だと思う。いずれ、トランプ氏は米国政治の表舞台から退場する。時の動くのを待つしかない。しかし、日米同盟を安保・防衛の基軸にはしても、戦後一貫してきた米国依存になってはいけない。安保や防衛を米国に依存してはいけないということだ。
  私は最悪のシナリオを頭の片隅に置いている。万一、北朝鮮が朝鮮半島をと統一したら、核とミサイルを持った国が出現する。人口約5000万以上の国が出現する。そして、理念国家は日本を今までと同様、敵視し続けるだろう。この朱子学理念国家、中世世襲国家を押さえることができる国は中国だけだ。
  日本は中国と歴史、領土問題を抱えているが、それに配慮を示して対立を制御しながら経済的な相互依存を深めて協調していく以外に道はない。中国人が日本人に抱く「畏敬」心理をも頭に入れて行動しなければならないと思う。日本人右派が抱く中国への敵対単純思考では、日本の安全は守れない。現実主義と長期的利益を考える英国人の保守思考になることに尽きるのではないだろうか。
  これからの東アジア政策は、現在の米国とイランの深刻な対立のなかにあって、日本が友好国の米国とイラン両国に、困難ではあってもバランスをとる政策をすすめているように、米中とバランスをとることだ。特に中国を味方にする必要はないが、敵にしてはならない。しかし、それは日米同盟を蔑ろにすることではない。中国共産党の瓦解を願うが、もし中国が日本の存亡に関わるときになれば、日米同盟を盾にして中国の侵略を抑止することだ。
  民主主義国の米国ととことん対話して理解と意思疎通を図る努力は不可欠だ。特に、日本は対中外交では米国との意思疎通と対話は不可欠。つかず離れずの難しい対中外交を、日本は強いられるが、中国の窓から見た景色を考慮しながら、5000年にわたって戦略に長けた「孫子の国」とつきあわなければならないと思うし、われわれは戦国時代の知将で、豊臣秀吉の名参謀(軍師)だった黒田官兵衛や竹中半兵衛にならなければならない。 
  

GSOMIA破棄後の最悪時を想定して備えるべき 東アジアは19世紀末の情勢に戻るのか

2019年08月26日 12時02分40秒 | 東アジアと日本
   昨日しるした「韓国の日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄の地平線の彼方に何があるのか」で、私は最悪のシナリオを読者に示し、北朝鮮が韓国を併合し、東アジアの勢力図が塗り替えられるかもしれないと話した。
  最悪のシナリオを考慮しながら、私は「日本はどうすべきなのか」と読者に問いかけをした。
 この最悪シナリオの前提にあるのは文在寅大統領の対北朝鮮宥和政策の深化と米韓同盟の解消が前提になる。そして最悪シナリオがつくり出す東アジアの風景は、19世紀末の姿だと思う。ただ違うのは19世紀末のロシア帝国が中国に取って代わったことだ。
  米韓同盟の瓦解、米国の東アジアへのプレゼンスの弱体化、北朝鮮による韓国併合は、日本の安全保障の最前線が「38度線(南北の停戦ライン)」から「対馬海峡」に移ることを意味する。このことは明治政府が朝鮮半島を「日本の生命線」と認識した時代に逆戻りすることになるのだ。
  明治期の日本は、朝鮮半島全域が敵対勢力(清帝国とロシア帝国)の手に堕ちることを懸念したゆえにこそ、朝鮮半島への関与を深め、日清戦争、日露戦争という2度の対外戦役をへて、朝鮮半島を併合した。百数十年前の日本を悩ませた風景が再現されるかもしれない。
  1894~95年の日清戦争後、日本は最初から大韓帝国(当時、李氏朝鮮)を併合しようとしたのではない。
  1905年12月から1909年5月まで朝鮮半島を「保護国」として総監した、明治の元勲、伊藤博文の本国政府や政治家への書簡や韓国皇帝に進言した書類から理解できる。また1959年4月29日に朝鮮史を研究する会合で、日本人学生や在日韓国人学生を前に講演した、戦前の日本憲政史を代表する歴史学者の深谷博治・早稲田大学教授(1903~1975)の話にも出てくる。
  帝国主義列強が虎視眈々と朝鮮半島や中国を狙っている帝国主義時代に、伊藤は「朝鮮半島がその地形から日本の胴腹に突きつけられた短刀」だと認識し、もし帝国主義国家、この場合はロシア帝国、が朝鮮半島に勢力を伸ばしてくれば、日本の安全にとってゆゆしき事態になると確信した。
  伊藤は日本の存亡の危機が絶えず北から来ると信じ、満州(中国東北部)から武力南下しているロシア帝国が朝鮮半島を奪取すれば日本の滅亡は必至だと考えていた。しかし幕末から明治初期にかけて、西洋列強のアジア侵略で国が滅びる悲惨さを熟知していた伊藤は当初から韓国を併合することを考えてはいなかった。「朝鮮半島の併合後の植民地統治は余計な出費をし、朝鮮人の性格からしてやっかいだと考えた。だから朝鮮半島の自治を主張する。ただ、朝鮮の自治の条件として、常に日本と提携する形でなければならない」。
  故深谷氏は「あくまで日本の国益を考えて行動した」が、当時の弱肉強食の帝国主義の時代から判断すれば的外れではないと述べる。
  伊藤は韓国皇帝や支配階級の両班が日本政府に隠れてロシアに接近しようとするのを知ると彼らをなじり、彼らの前でこう吐露した。記録にこうある。
  「韓国の独立を最初に承認したのは日本である。朝鮮人の何人が、自ら韓国の独立を承認したであろうか。(事大主義に落ちいり中国の中華華夷秩序に甘んじてそれを誇りにしている)。そうでないと言うのなら聞きたい。日本はできるだけ、韓国を独立させようと欲してきた。けれども韓国はついに独立できなかった。・・・もし一衣帯水をへだてる韓国に外国が一指を染むるを許さんか、日本の独立を危うくする恐れがある。・・・けれども、日本は非文明的、非人道的な働きをしてまでも韓国を滅ぼさんと欲するものではない」
  伊藤は欧州列強の脅威を肌で感じた人物の一人だった。伊藤は若い頃の日本の苦難(幕末から明治初期)を知っていた。日本は必死に独立を守り、繁栄を築こうと頑張ってきたのに、なぜ韓国人はしないのかと思っただろう。
  韓国にとって昨日のロシア帝国は、今日の中国、北朝鮮であるのに、文在寅大統領と彼の一派は気付こうとしない。
  この国際情勢の変化の中で、日本は取り得る道を読者に考えてほしい。私見だが①韓国の反日態度に目をつむり、自由主義圏からの離脱を止めるように説得する②韓国の中国、北朝鮮、ロシア同盟網への移行を黙って見ている。
  前者の①は日本の安全保障を今まで通り38度線に置き、韓国を主導の朝鮮半島統一を助け、対馬海峡への後退を黙認しない「伊藤博文思考」だ。つまり朝鮮半島を緩衝地帯にし、日本の安全を守ることだ。しかし、日本人の冷却した対韓世論から、「そこまで日本がする必要があるのか」という意見が多数出てくるだろう。
  またGSOMIA破棄に失望している米国がこれから、対韓外交を変えてくるかもしれない。先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)初日の24日夜(日本時間25日午前)の外交安全保障に関する討議で、トランプ大統領は韓国の大統領を批判し、「「韓国の態度はひどい。賢くない。彼らは金正恩になめられている」と話したという。
  一方「2」は明治の元勲が最も恐れたことである。歴史の変化を踏まえても、伊藤の考え方が現在、無効だとは言い切れない。しかし日本人の大多数は安全保障上の最前線が「対馬海峡」に後退する事態が何を意味するかを理解していない。
  「2」が実現されれば、北朝鮮が韓国を飲み込み、新しい中国による中華圏が実現し、中国共産党の性格からして、米国を東アジアから駆逐し、日本に自分の勢力圏に引き入れようとするだろう。日本は独裁国家群と対峙することになる。
  私は「2」があまりにも日本の安全保障にとってリスクが大きいし、非現実的だと思う。しかし韓国の対日敵視政策からして、日本が韓国に直接働き掛け、説得することは不可能であり、逆効果だろう。
  日本は米国に米韓同盟の維持と対東アジアへの安全保障上の関与をこれからも説き続け、それが米国の国益だと言うことだ。トランプ大統領のような「安全保障とは何か」をまったく理解できない人物に対しても粘り強く語り続けることしかないと思う。そして米国を通じて、日本の意思を韓国に伝え、米国の意思をも伝達して、文政権に現在の厳しい東アジア情勢を説くしかない。また文大統領の「北朝鮮への融和政策」は大いなる思い違いだと悟らせるべきだ。
  それは東アジアの平和と安定、そして日本の安全にとって最も大切なことだ。韓国の文在寅大統領が北に媚びを振り続け、日本を蔑視し続けようとも、日本人は長期的な視野に立ち、米国の東アジア関与と日米同盟の重要性を明日、明後日においても米国に言い続ける。そして最悪のシナリオが万一、到来したときのことをも念頭に置きながら、冷静に長期戦略を練り、日本と東アジアの安全と平和を模索しなければならないと思う。

(写真)大韓帝国時代の伊藤博文と帝国皇太子、李垠(イ・ウン)。現在、当然だが、韓国では伊藤博文を韓国併合の張本人と見なし、教科書には大悪人として記載されている。