英宰相ウィンストン・チャーチルからのメッセージ   

チャーチルの政治哲学や人生観を土台にし、幅広い分野の話を取り上げる。そして自説を述べる。

習近平総書記の人事は中国文化そのもの   家族制度は共産党を飲み込む 野望は果てしない

2022年10月31日 21時11分35秒 | 中国政治
  第20回中国共産党大会は10月16日から22日までの7日間、北京で開催された。5年に一度の大会だ。習近平政権の3期目は船出した。しかし前途は、はなはだ不透明だ。隣国に生きるわれわれに直接、間接に影響を及ぼすのは必至。日本は国難に直面するだろう。しかし日本人の多くは惰眠にふけっている。
  69歳の習近平・総書記は、68歳定年制と2期10年の慣例を破って異例の3期目の政権を発足させた。共産党の慣例では習は辞めなければならなかった。しかし辞めずに続投した。
  中国共産党の序列、ヒエラルキーというかヒエラルキーは約9670万人の一般共産党の党員が底辺にいる。日本の総人口ぐらいの数だ。そして、その中から100~150人の中央委員候補が選出される。その上に中央委員がいる。205人の中央委員に欠員ができれば、中央委員候補から補充する。その上に国家を指導し、政策を決める政治局員24人がおり、この政治局員24人から党の最高指導者のメンバー、政治局常務委員7人が選ばれる。中国は共産党による一党独裁ですから、党のトップは国家と軍のトップを掌握する。
  今回の共産党大会で新しい中央委員が選ばれ、大会閉会後の翌日の10月23日、新しい中央委員205人が中央委員会を開いた。中央委員会は新しい政治局員と新しい最高指導部のメンバー、政治局常務委員7人を選出した。新しい政治局常務委員のお披露目となった10月23日の記者会見でわれわれが目にしたのは、栄美を浮かべながら先頭を歩く習近平・総書記がいた。彼の後ろには常務委員6人が付き従った。すべて習近平の側近だった。
  習の派閥一色である。習近平は子飼いの人間を集めた。政策や能力が疑問があっても自らの側近を引き上げた。彼に忠誠を誓えば良いのだ。しかし自分自身と距離のある幹部を徹底排除した。
  一例をあげる。中国共産党内で早くから次代を担う「ホープ」と見られてきた胡春華副首相は政治局員をはずされた。政治局委員から政治局常務委員に格上げされるどころか中央委員に降格した。習と敵対するエリート養成機関の共産主義青年団出身だから、というのが専門家の見方だ。
  まさに習近平が信奉する共産主義、マルクス・レーニン主義とは縁もゆかりもないやり方で人事を決めた。この人事の選び方は、中国が2千年以上にわたって育んで生きた文化や慣習、国民性が色濃く出ている。
  中国社会の根幹をなすのは共産主義ではない。それは家族制度だ。さらに家族制度を一歩進めた村落制度だ。2000年以上にわたって中国の家族制度は一つの砦を築いてきた。孔子による儒教の教えに、その基礎がある。
  家族という砦の中の人々、つまり親類縁者、数百人の遠い親戚をも含めて、その砦の中にいる人々はお互いに助け合う。その家族が心から信頼する友人もその家族の1人と見なされる。
  この家族制度が2千年以上にわたって中国社会に弊害をもたらしてきた。この鉄壁のうちにいる家族1人1人は互助制度の中で情実を育む。それにとらわれて不正を働く。私腹を肥やす。皇帝の時代なら、身内から科挙試験に合格すれば、その身内の将来は保証される。栄達した暁には一族は繁栄する。科挙合格者は縁者に厚遇を与える。現在の支配者階級は共産主義者だ。1人の共産党員が栄達すれば、個人が私腹を肥やすだけでなく、一族も繁栄する。今の昔もこの社会構図は代わらない。
  これが公民意識の欠如、社会正義の欠如をもたらし、万人に公平な法律、為政者を縛る法律を失わさせて、法律は権力者の圧政の道具となってきた。今回の習近平の人事はまさに中国2千年の弊害そのものだと思う。
  習は法律を我が物にし、汚職という大義名分の旗をかざして、政敵や敵対する派閥の党員、ライバルを蹴落としてきた。ライバルが家族制度の垢にまみれ、実際に賄賂をもらったとしても、賄賂を罰するのが目的ではなかった。ただただ法律を悪用し、ライバルを蹴落としてきた。
  中国大衆は情理を優先し、あまりにも機械的な法制度を嫌悪する傾向があるという。中国人の国民性が法制度の確立を阻害してきたという。20世紀の中国の偉大な文学者、林語堂が家族制度の悪弊を「My country and mu people」という英語の本に記している。  
  習近平総書記は中央委員会総会後の演説でこう話す。「マルクス主義の中国化を進め、特色ある社会主義の新しいページを絶えず書く」。それは具体的に何か?「中華民族の偉大な復興」という民族主義だ、と習は説明する。
  まさに中国共産党という家の表札は「社会主義、マルクス主義」だ。家の中に入ったら、中国文化や伝統そのものをやっている。中国を中心とした中華思想そのものだ。まさに中国共産党は4千年の中国文化に飲み込まれてしまった。
  習近平が提唱するアジア、ヨーロッパ、アフリカ大陸にまたがる経済圏構想「一帯一路」も中国の家族制度の延長なのだ。開発途上国に擦り寄り、経済支援をすると話す。しかしその国の経済状況にお構いなく資金援助し、労働者は中国から派遣する。その国のことなど一顧だにしていない。たとえばスリランカなどの国々は雪だるまのように多額の債務が膨れあがり、債務を返済するため、港などの施設を事実上中国に売り渡している。
  中国を家族制度にたとえよう。家族は中国13億の国民だ。鉄壁の外のが外国民は家族ではない。冷淡そのもの。何してもいいわけだ。この悪癖は紀元前に生きた韓非子の時代にもあった。はびこっていた。韓非子は嘆いた。そして法こそがこの悪癖を除去できると信じたが、ものの見事に失敗した。中国人は今も昔も法の支配を嫌う傾向が強い。
  習近平は中央委員会総会後、「出発のラッパが鳴っている。われわれは勇ましく進み、輝かしい明日をつくり出すのだ」と演説した。輝かしい明日をつくりだす」というのはアメリカを経済と軍事で追い付き追い越し、中国中心の国際秩序を構築することなのだ。台湾を統一し、その暁に明帝国、清帝国時代の版図を回復する、権威主義国際秩序を作りことなのだ。「国恥図」の汚名をそそぐことが最終目的なのだろう。僕らにとっては「輝かしい」どころか「暗い」未来だ。中国共産党を警戒せよ、わが同胞よ。気づいた時には尖閣列島どころか沖縄もとられていよう。沖縄はかつて中華帝国の朝貢国だった。習は中華帝国が影響を及ぼした地域はすべて中国の版図だと主張しているのだ。

 ウクライナのクリミア橋爆破とロシアの報復   戦争の終わりの始まりか

2022年10月11日 16時20分25秒 | 国際政治と世界の動き
 最後にこのブログを書いてから半年がたった。「光陰矢の如し」。まるで歳月はロケットのように早く、われわれを過去から現在、未来へと運ぶ。
 2月24日にロシア軍がウクライナに侵攻してから7ヵ月以上たつ。時の流れほど冷厳な現実を見せつけるものはない。ロシアのプーチン大統領ほど、このことを噛みしめている人物は世界中でいないだろう。
 この”特別軍事作戦”でロシアは苦戦しているのか?。否、敗北の道を進んでいる。私にはそう見える。プーチンが呼ぶ”特別軍事作戦”はそもそも何だったのか。権威主義者プーチンがウクライナの首都キーウを数週間で陥落させられると信じた。彼が言うところの、ウクライナのゼレンスキー大統領ら”ネオナチ”勢力を一掃できると盲信した。しかしキーウ陥落も”ネオナチ勢力”の一掃もできなかった。それどころか泥沼にはまった。
 1931年から1945年の中国戦線で、日本軍が泥沼にはまったように、ロシア軍もはまった。両者に共通するのは傲慢と現実無視だった。ウクライナも中国も国土は広大だ。何よりも当時の中国の指導者、蒋介石も現在のウクライナの指導者、ゼレンスキー大統領も徹底抗戦の意思が硬い。そして何よりもウクライナ軍の士気は高い。それに対してロシア軍の将兵は、なぜ戦っているのをまったく理解できない。
 そうだろう。理解できるはずがない。この戦争はプーチンの戦争だからだ。プーチンの歴史観から出てきた戦争なのだ。歴史的にウクライナはロシア領土だという彼の歪曲した歴史観。それはドイツの独裁者アドルフ・ヒトラーがドイツ人の「レーベン・シュトラウム(生存権)」は東ヨーロッパにあるとした主観的で一歩的に考えた歴史観と同じだ。プーチンこそヒトラー思想の後継者でありネオナチだ。
 欧米から最新兵器を供給されたウクライナ軍は、9月攻勢をかけた。練度の低いロシア兵は次々と敗走している。ロシアは戦争の初期に占拠したウクライナ東部と南部4州の一部を、ウクライナ軍は奪還した。プーチンは苦し紛れに「部分動員令」を出したが、ロシアの若者の多くは「部分」とは見なさず、「総動員」と見なし、そのうちの数十万はロシア国境から国外に脱出した。
 10月8日、2014年にロシアに併合されたクリミア半島とロシアを繋ぐ19㌔の橋の一部が爆破された。爆破はウクライナの仕業だとプーチンは判断し、ロシア軍にウクライナ全土にミサイル攻撃をするよう命令した。このため、ウクライナの首都キーウやリビウなど複数の都市が、ミサイル攻撃を受け、建物などが損壊し民間人の死傷者が出た。
 軍事的に見て、ロシアの劣勢を挽回する助けにはまったくならない。それどころかウクライナ民間人を殺傷したと世界中から非難を受けている。またこの橋を使えず、軍事物資や兵器の貴重な補給路は断たれ、ますますロシア軍は苦境に立たされるだろう。この戦争の終わりの始めかもしれない。
 プーチンが持っている残りのカードはほとんどない。あとは戦術核兵器だろう。もしプーチンが、この悪魔の兵器を使っても、ロシアは勝てない。米国やNATO諸国は核兵器で報復するのではなく、最新通常兵器を大量に供給し、ウクライナとロシアとの戦争に決着をつけるだろう。ロシアの通常兵器がほんとうにお粗末なことを、この戦争後に、世界は知ったのだ。
 プーチンが夢想した「一流国家ロシア」はこれから長い間、出現しない。この戦争でロシアはますます科学技術や経済力などの点で三流国家に転落していくだろう。それでもプーチンはこの戦争をやめない。
 フィンランドのニーニスト大統領は10月10日にこう話した。「プーチン大統領が何らかの敗北を認めることができるとは、とうてい思えないと伝えた。彼にその能力があるのか。それが問題だ。わたしは、彼には敗北を受け入れる能力はないと思う」
 ニーニスト大統領の発言が事実なら、プーチン大統領の末路は悲惨となろう。ドイツの独裁者ヒトラーが、第二次世界大戦でのドイツの敗北とほぼ同時に総統官邸で自殺したのと同じ運命をたどるにちがいない。
 私は思う。歴史はわれわれに「独裁者は必ず転落する」と明白に示しているのに、後世の独裁者は同じ轍を踏む。ルーマニアの独裁者ニコラエ・チャウシェスクやイタリアの独裁者ベニート・ムッソリーニが、怒り狂った国民の前に引きずり出されて、悲惨な最後を遂げたのに、独裁は繰り返され、独裁者は悲惨な最期を遂げる。
 はたして、3期目のトップを目指し独裁を強める習近平・国家主席や北朝鮮の金正恩・総書記は、現在繰り広げられている歴史から学んでいるのだろうか。もし学んでいなければ、彼らの将来もまた暗い。