村山由佳著『雪のなまえ』
徳間書店のサイトにはこうある。
【著者からのコメント】
「自分探し」の記憶はあまりありませんが、「居場所探し」はつい最近までくり返してきた気がします。
心安らげる居場所がないのは不安なことです。つい、間違ったものにしがみつきたくなってしまう。
ここにいていいのだと信じられる場所、ほんとうの自分を受け容れてもらえる場所さえ見つかったなら、誰もがもっと生きやすくなるし、自信を持てるし、ひとに優しくなれるんじゃないか。そうした場所を見つけようとして今までいた場所に別れを告げるのは、決して〈逃げ〉ではないんじゃないか──。
今作『雪のなまえ』は、そんな思いをこめてつづりました。
時にすれ違っても、みんながお互いのことを思い合う物語です。
若い人にも、かつて若かった人にも、ぜひ。
「夢の田舎暮らし」を求めて父(島谷航介)が突然会社を辞めた。いじめにあい登校できなくなった小学五年生の雪乃は、父とともに曾祖父母(茂三、ヨシ江)が住む長野で暮らしを始める。仕事を諦めたくない母(英里子)は東京に残ることになった。
胸いっぱいに苦しさを抱えていても、雪乃は思いを吐き出すことができない。そんな雪乃の凍った心を溶かしてくれたのは、長野の大自然、地元の人々、同級生(竹原)大輝との出会いだった――。
ほんとうの自分を受け容れてくれる場所。そこを見つけるため、今いる場所に別れを告げるのは、決して逃げではない。
竹原広志:航介の高校以来の友人。息子が大輝。妻は病の優美。
初出:「日本農業新聞」2018年11月5日~2019年12月31日
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
主に中高生向けだと思う。理知的で有能な母が実は……、場当たり的で感情的な父が意外と……、など予想がつく展開で、安心して読める。
田舎に移住した都会居住者への地元の人の反応もよく聞く話の範疇で想定圏内に留まる。
曾祖父の農業に関する知恵も、航介ほど感嘆するものには感じられない(巻末に農業関係の書籍が2冊挙がっているが)。農業に関するノウハウは本当に深く豊かなものがあることは私も承知している。私にも、10年ほど野菜作りの経験がある(実益ねらいの趣味に終わったが)。
村山由佳(むらやま・ゆか)
1964年東京都生まれ。立教大学文学部卒後、不動産会社勤務、塾講師。
1993年「天使の卵~エンジェルス・エッグ」で第6回小説すばる新人賞受賞。
2003年『星々の舟』で第129回直木賞受賞。
2009年『ダブル・ファンタジー』で中央公論文芸賞、柴田錬三郎賞、島清恋愛文学賞受賞
その他、『放蕩記』『花酔い』『天翔る』『天使の柩』『ありふれた愛じゃない』『La Vie en Rose ラヴィアンローズ』『嘘 Love Lies』『風は西から』
アンソロジー『最後の恋』(TUNAMI)
ふだんから理解しあい、愛しあっている夫婦というものは難しい、なんでも話しているようでいて、むしろ逆だったりする。黙っていてもきっとわかってくれている、と思いこむせいばかりではない。相手がどいう場面でどんな反応を示すか前もって想像がつくだけに、かえって話さないことや、あらかじめ諦めることも増えてしまうのだ。(p18)
楽しいとは、また明日、の明日が早く来ればいいと思うこと――。(p323)
茂三「おれらみたいなロートルと比べちゃなんねいわ」。ロートルとは、老人を否定的意味合いでさす言葉。昭和40年代までは使われた俗語で、中国語からきている。