hiyamizu's blog

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後深草院二条『とはずがたり』を読む

2022年10月07日 | 読書2

 

後深草院二条(ごふかくさいんにじょう)著、佐々木和歌子訳『とはずがたり』(光文社古典新訳文庫2019年10月20日光文社発行)を読んだ。

 

鎌倉時代の宮中の性愛スキャンダルを赤裸々に書き記した日記というようなことが、何かのメディアに紹介されていて、さっそく読んでみたのだ。

 

裏表紙にはこうある。

後深草院の寵愛を受け十四歳で後宮に入った二条は、その若さと美貌ゆえに多くの男たちに求められるのだった。そして御所放逐。尼僧として旅に明け暮れる日々……。書き残しておかなければ死ねない、との思いで数奇な運命を綴った、日本中世の貴族社会を映し出す「疾走する」文学!

 

1938年(昭和13年)に宮内省で偶然発見された「新しい古典」で、埋もれていた、たった1本しか残っていなかった奇跡の5巻の写本。この本を元に瀬戸内晴海氏は小説『中世炎上』を書いている。

「とはずがたり」(問はず語り)は「問われなくても話し出してしまう語り」の意味。

 

 

後深草院二条(ごふかくさいんにじょう)(1258 ~ ?、鎌倉時代末期):美貌、気位高く、強気。
父は大納言・久我(源)雅忠(こが・まさただ)。四条隆親の娘が母で(大納言の典侍(すけ))、母は後深草院の乳母(めのと)となり、当時の慣例として成長すると性の手ほどきを担った。後深草院は典侍をひそかに慕っていたが、諦めて、女の子が生まれたら(それが二条)を自分が面倒をみようとした。典侍もこれ以上の庇護者はいないと思い、託した。

(後深草院(ごふかくさいん):89代天皇。17歳で弟の亀山天皇に譲位し、後深草上皇となる)

 

二条は、4歳で後深草院が親代わりになって、御所に出仕した。後深草院は14歳の二条を後宮に入れたいと父・雅忠にささやく。西園寺実兼(雪の曙)が求愛するが、後深草院は強引に二条と結ばれる。しかし、后でなく女房としてその後も寵愛する。

⦅源氏物語を思わせるこのあたりからすでに現代の規範からずれている⦆

 

二条は2歳で母を亡くし、後深草院の子を身ごもる中、15歳で父を亡くし、孤独の身となる。失意の二条に西園寺実兼(雪の曙)が求愛し、二人は結ばれる。院の皇子出産後も二人は関係を続け、雪の曙の子を身ごもる。出産後、雪の曙は赤子をどこかに連れ去り、院の皇子も亡くなったと聞き、二条は17歳で出家に憧れるようになる。

 

二条は女房の役目として院と前斎宮(さきのさいぐう)の恋の手引きをさせられる一方で、后の東二条院に嫉妬され、非難される。

 

二条は、院の弟で強い法力で知られた性助法親王(有明の月)に愛を告白され、院の病気平癒の祈祷に召された法親王と結ばれた。二条は21日間の祈祷の間、自分から抱かれに行っているのに、院の病気が治るとその後は急に冷めてしまい、「うとましいし、気味が悪い」とつれなくした。

 

当時、客人や恩人に女性を供してもてなすのはさほど特異なことではなかった。院にとって愛人である前に「女房」であった二条を賞品として別の男にあてがわれることもあった。院の後見人で50歳と老齢の近衛の大殿(鷹司兼平)に20歳の二条を差し出したことがある。


御所に祈祷にやってきた有明の月が二条に思いをぶつけていたところを院に聞かれ、院は悪化していた二人の仲を取り持ち、公認の仲となる。有明の月の子を懐妊した二条を、弟の亀山院が望み、院は情を交わすことを黙認し、二夜を過ごす。出産した子は院の子として引き取られる。有明の月は流行り病で死亡し、二条が亀山院と通じているという噂が立ち、院は冷たくなり、后の東二条の訴えで二条は御所を出る。後の院の求めにも応ぜず、御所に戻ることはなかった。

⦅このあたりまで来ると、あまりにも乱脈で何が何だか頭がゴチャゴチャになる⦆

 

次の巻四では、二条は32歳の尼となっていて、あこがれの西行のように東国への旅に出て、歌を詠む。最後の巻五では、西国へ旅する。後深草院崩御の折には、裸足で葬送の車を追い、その足を止めることができず、明け方の空に上る荼毘の煙を見上げ、ほんとうの終りを知った。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

王朝文学のように、くねくねした文章の心理描写でなく、ストレートに事実をあからさまに語るので読みやすい。

現代語訳ながら約450頁と大部で読み通すのは大儀だが、気位が高く、強気の二条の振る舞い、個性に魅せられて読み進められた。

 

鎌倉時代末期の貴族の性風俗文化に驚き、興味をそそられながらも、保守派に目の敵にされそうなこんな本が奇跡的に残っていたことに感謝したい。

 

年とってからの想いで書きであり、自分に都合良いように、あるいは面白くなるように脚色した点もあるようだが、歴史家でない人にはそのまま採って楽しく読めばよい。

 

 

佐々木和歌子(ささき・わかこ)

1972年、青森県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科修士課程修了。専門分野は日本語日本文学。(株)ジェイアール東海エージェンシーで歴史文化講座の企画運営に携わりながら、古典文学の世界をやさしく解き明かす著作を重ねる。

著書に『やさしい古典案内』(角川学芸出版)『やさしい信仰史──神と仏の古典文学』(山川出版社)『日本史10人の女たち』(ウェッジ)など。『古典名作 本の雑誌』(本の雑誌社)では中古文学・中世文学を担当。

 

 

参考:日下力『中世尼僧 愛の果てに 『とはずがたり』の世界』

 

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2 コメント

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Unknown (tsubone)
2022-10-08 09:05:02
今時の女性目線で読むと「ひでー話」のようですが、読んでみたくなりました。
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私は瀬戸内晴海『中世炎上』を読むつもりです (冷水俊頼)
2022-10-09 17:20:55
歴史書に著者の名がほぼ出ていないので、物語だという説もあるようですが、定説はほぼ事実だということのようです。それだけ鎌倉時代の貴族に生活は破天荒だったということでしょう。
保守派に根絶やしにされずに、こんなスキャンダラスな書が残っていたことが信じられません。
返信する

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