日下力著『中世尼僧 愛の果てに 『とはずがたり』の世界』(角川選書501、2012年2月25日角川学芸出版発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
『とはずがたり』は、後深草天皇の御所で育った作者・二条が自らの愛の遍歴と、尼となって東国・西国を旅した様子を綴った自叙伝だ。宮廷内の複雑な男女関係を披瀝したためか、昭和25年に一般公開されるまで、宮内庁に秘蔵されていた。二条はなぜ自分の過去を書き残したのか? 読者を作品の中に引き込む劇的構成と、繰り返される言葉の効果を明らかにしながら、謎に包まれた『とはずがたり』の真相に迫る。
『とはずがたり』とは、「問われなくても話し出してしまう語り」の意味。
本書は、『とはずがたり』の従来の解釈に異を唱え、日記というより文学作品ととらえ、事実と創作部を区分けし、作者・二条の自身の考え、などについて新しい解釈を提案することを主な目的にしている。
したがって、本書は必ずしも時代順に書かれてはおらず、巻頭に3頁ほど『とはずがたり』の概要が書かれているが、著書そのものについて凡そ知っている方が読みやすい。
作者・二条が『とはずがたり』を執筆したのは晩年の49歳か50歳だ。したがって、例えば、本書の「第一章の執筆の動機」には、いきなり晩年の話が多く語られ、『とはずがたり』をまだ読んでいない人にはわかりにくい。
参考:佐々木和歌子訳『とはずがたり』(私のブログ)
後深草院二条(ごふかくさいんにじょう)(1258 ~ ?、鎌倉時代末期)は、美貌で、気位高く、強気。
父は大納言・久我雅忠。母(大納言の典侍(すけ))は四条隆親の娘で、後深草院の乳母であって、当時の慣例で成長後、性の手ほどきを担った。後深草院は典侍をひそかに慕っていたが、諦めて、その子(二条)の面倒をみて、愛した。
後深草院(ごふかくさいん)は、89代天皇。父・後嵯峨上皇の命により17歳で弟の亀山天皇に譲位し、後深草上皇となった。(これが原因で後深草天皇の「持明院統」と、亀山天皇の「大覚寺統」が争う南北朝時代となった)
本書の著者・日下氏は、多くの創作箇所があると具体的に指摘し、二条の意図を推測している。
また、二条がどのように後深草院を描いているかを分析している。院は、包容力を見せて彼女を愛し、ときとして突き放し、単なる女房として他の女性をわがものにするのに協力させ、恩ある人に二条を提供するなど冷たい仕打ちをした。そして、それらのことを二条はどのように思ったかを分析している。
終盤、後深草院崩御の折には、二条は裸足になってもその足を止めることができずに葬送の車を追い、明け方の空に上る荼毘の煙を見上げ、ほんとうの終りを知る。二条は結局のところ……。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
『とはずがたり』の従来の解釈に異を唱えることが目的の本であり、『とはずがたり』に該当箇所が提示、簡単な説明がなされていつとは言え、全体の流れは掴めていない人には真の理解が難しいだろう。
二条の書いていることをただそのまま認めずに、彼女の置かれた状況などから、その意図を推測して文章を解釈している。日下氏の文章理解は、他の著者に比べても、私にはかなり的確に思えた。その意味では面白い本だったのだが、いずれにしても、重箱の隅のような細かい話ではある。
日下力(くさか・つとむ)
1945年、新潟県佐渡生まれ。文学博士。早稲田大学文学学術院教授。
主な著書に『平治物語の成立と展開』(汲古書院)、『平家物語の誕生』(岩波書店)、『いくさ物語の世界―中世軍記文学を読む』(岩波新書)、『平家物語大事典』(東京書籍)などがある。