hiyamizu's blog

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浅田次郎『日輪の遺産』を読む

2023年04月13日 | 読書2

 

浅田次郎著『日輪の遺産(新装版)』(講談社文庫あ70-30、2021年10月15日講談社発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

その額、時価200兆円。敗戦後の日本を復興に導くため、マッカーサーから奪った財宝を隠す密命を日本軍は下す。それから47年。不動産業で行き詰った丹羽は、不思議な老人から財宝の在り処を記した手帳を託される。戦争には負ける。しかし日本はこれでは終わらない、今こそ日本人が読むべき、魂の物語。

 

1990年代の話と、終戦まじかの話が交互に描かれる。

 

1992年12月。破産寸前の地上げ屋の丹羽45歳は、大穴が出た有馬記念の府中競馬で奇妙な老人・真柴と初めて出会い、変な風に見込まれ、1冊の古い手帳を託された。病院から抜け出した真柴は飲めない酒を大量に飲んで丹羽の前で急死した。渡された手帳の見開きに「昭和20年8月10日、陸軍少佐・真柴司郎」と書かれ、莫大な財宝を府中競馬場から多摩川の向こうに見える山林に隠した経緯を記した日記だった。

 

真柴の遺体を収容した病院には、丹羽は同じく真柴から秘密を託された福祉活動家の海老沢と、老人の住居の大家だといういかにもうさんくさい地元の大地主、丸金総業の大御所・金原が現れる。

 

終戦前夜、森・近衛師団長は、元大蔵省の秀才で東部軍経理部・小泉中尉と近衛師団の真柴・情報参謀を呼び出した。入った部屋には、近衛師団長とともに阿南・陸軍大臣、田中・東部軍司令官、梅津・参謀総長、長老の杉山元帥が座っていた。

「昨日の御前会議でポッダム宣言受諾が決定された。昭和21年度分の臨時軍事費約900億円を国庫から払い出させる。実際は、大蔵省がため込んでいる時価2千億の金塊を祖国再興のための機密費として隠し、管理するのがお前たち2人への命令だ。マッカーサー親子がフィリピン独立のため蓄えた金塊を山下将軍が奪ったのだ」

 

長身で度の強い眼鏡をかけた小泉中尉に多摩の弾薬庫での新型対戦車弾運びの使役だとして連れていかれたのは、森脇高女の担任の野口先生、以下35名の13歳の女学生(級長の久枝、たくましいマッさん、お嬢様のスーちゃん(鈴木)、サッちゃんたち)だった。
指揮は真柴、小泉と片足が不自由な歴戦の勇士の曹長だった。

小泉は真柴に言った。「なに、物事を難しく考えるのはよしましょう。いずれ少佐殿が新しい国軍の陸相になられて、自分が大蔵大臣になれば良いのです。あとはそのとき考えましょう」

 

 

初出は1993年8月青樹社。本書は1997年7月に講談社より刊行された文庫の新装版。

 

 

私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき、 最大は五つ星)

 

終戦直前の近衛師団の反逆など危うい状況の中で、軍トップの5人の幹部が敗戦後の日本の復興に巨大な資金を確保する算段をしていたとの話が、現実とは大違いで、それだけにこの小説にロマンを感じる。

 

現在でも詐欺事件ニュースにときどき登場するいわゆるM資金と似ているが、約200兆円とスケールが巨大だ。ちまちまと小さくまとまった現代からみると、世の中がひっくり返った戦後は舞台としてドラマチックだ。そしてこの小説もダイナミックな時代の流れの中でこそ生まれる英雄ともいうべき志の高い人たちを見事に描いている。

 

真の軍人の鑑といった剛直、節を曲げない頑固者の真柴、東大主席で大蔵省でも頭抜けた頭脳の小泉が面白い。とくに小泉がマッカーサー将軍に会って、一歩も引かずに交渉するシーンが、カッチョイイ。(p457)

 

 

浅田次郎の略歴と既読本リスト

 

 

真柴少佐:近衛師団所属のエリート軍人。阿南陸軍大臣、森近衛師団長、田中東部軍管区司令官、杉山元第一総軍司令官、梅津参謀総長の5名の軍最高幹部から小泉とともに密命を受ける。

小泉主計中尉:東京帝大主席卒業した大蔵官僚。真柴とともに極秘任務に就く。

曹長:中国戦線で長く戦った。自動拳銃を愛用。真柴の運転手として活躍。本名不詳。

金原:武蔵小玉市の大地主で元市議。悪徳不動産業者。財宝についても何かを知っている気配。

丹羽明人:お人好しの地上げ屋。不良在庫を抱えて金策に奔走中、一攫千金を狙って競馬場に行き謎の老人に出会う。

海老沢:武蔵小玉市で福祉関係のNPOを切り盛りする中年男。妻の浮気に悩んでいる。謎の老人の世話をしていた縁で丹羽と知り合い、財宝の秘密に迫ることになる。

イガラシ中尉:日系2世のアメリカ軍人。マッカーサーの通訳を務める。

野口孝吉:女学校(森脇高女)の英語教員。財宝の秘匿作業に協力させられる。

久枝:女学校の生徒。工廠の近所の梨農家の娘。財宝の秘匿作業に協力させられる女学生の級長。

 

 

「本土決戦とは、一千万人が戦死するか、(敗戦となって)一千万人が餓死するかの究極の選択上に計画された作戦であったのです」(p233)
戦後の食物不足状態はひどかった。マッカーサーは「食料を、さもなければ弾薬を送れ」とワシントンに打電したと何かで読んだことがある。

 

 

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