hiyamizu's blog

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千早茜『しろがねの葉』を読む

2023年03月18日 | 読書2

 

千早茜著『しろがねの葉』(2022年9月30日新潮社発行)を読んだ。

 

新潮社による内容紹介

男たちは命を賭して穴を穿つ。山に、私の躰の中に――。第168回直木賞受賞作。

戦国末期、シルバーラッシュに沸く石見銀山。天才山師・喜兵衛に拾われた少女ウメは、銀山の知識と未知の鉱脈のありかを授けられ、女だてらに坑道で働き出す。しかし徳川の支配強化により喜兵衛は生気を失い、ウメは欲望と死の影渦巻く世界にひとり投げ出されて……。生きることの官能を描き切った新境地にして渾身の大河長篇!

 

第168回直木賞受賞作。著者初の時代小説で、単行本でp314と大部ではない。

 

10年以上前、著者は旅行で訪れた石見銀山で、過酷な採掘現場で働く男は短命だという言葉「銀山の女は三人の夫を持つ」を聞いた。時を経て、シルバーラッシュで勢いづく戦国末期から江戸初期の石見銀山を舞台に、運命に抗いながら3人の男を愛し、見送っていく女ウメの物語が立ち上がってきた。

 

「しろがねの葉」とは、銀の眠る場所に生えるといわれるシダの葉のこと。

 

貧しさに耐えかねた一家が夜逃げするが、追っ手に見つかる。幼い少女・ウメだけが夜目が効くこと、山を良く知っていたことから石見国、仙ノ山と呼ばれる銀山の間歩(まぶ、坑道)に逃れた。
ウメは銀の気配がわかるとして人を集めている山師の喜兵衛に拾われ、銀鉱脈の在処、山で生きる知恵を得て、喜兵衛の組の手子(雑用係)となる。
間歩の中でも目が見え、誰にも負けないように頑張ったが、本来、男が命がけで働く銀掘の場は女性禁制で、月のものが始まったウメは間歩には入れなくなる。成長すると男たちから卑猥な目で見られ、さらに乱暴もされる。

 

「女は男の庇護の許にしか無事でいられないのか。笑いがもれた。莫迦莫迦しい、好きになど生きられないではないか」。仲間の隼人のことは好きでも、守ってもらって生きたいわけではない。

 

肺を病み若死にすることがわかっていても山に向かう男たち。激しい労働だけに男には女が必要だった。その女たちは、ただ弱っていく夫を看取るしかない。そして、夫に先立たれた女は生活のため、将来の働き手となる子を産むため、他の男に嫁ぐ。
負けん気で独り立ちしようと懸命に働くウメもまた、その女性の運命の中でもがき続ける。

 

 

初出:「小説新潮」2022年4~7月号/9~12月号、2021年1~11月号

 

 

私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき、 最大は五つ星)

 

幼くして両親もなく、荒っぽい銀鉱山にただ一人となったウメの成長譚に引き入れられる。
ウメは、豪放でやさしい喜兵衛に助けられ、どこまでも学んで付いていこうとしてならず、負けずに対等であろうとする手子仲間の隼人は庇護しようとする。年下の龍はただウメを崇拝する。

 

暗く湿っぽい奥深い山奥の鉱山の光景が目の前に広がる。荒っぽく命がけで働く男たちに対して、突っ張って負けん気のウメが、結局因習の中に踏み付けられてしまうが……。

 

 

千早茜の略歴と既読本リスト

 

間歩:銀山の坑道、鏈(くさり):銀気(かなけ)を含む石、鉉(つる):鏈が集まっているところ

 

 

 

コメント
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